第55話 惚気
「まあ!では告白はツェツィーリエ様からでしたの?」
「えぇ、はしたないかも知れませんが、ここで捕まえなくてはいけない!と本能が訴えてきたので、素直に従ったのですわ」
「ツェツィーリエ様は情熱的なお方なのですね」
「本当にツェツィーリエ様ってばぁ、美しい上に格好良いなんて狡いですわぁ〜」
絶賛4人で恋バナ中。
きっかけは『そういえば、ツェツィーリエ様とレオナード殿下の馴れ初めを聞いてませんでしたね』というトリシャ様の発言から。
「羨ましいですわ、私もいつか素敵な男性と……!」
「そうねぇ、その殿方が中々見つからないのだけど〜」
「全くです」
決意を見せるナディア様に、レイチェル様とトリシャ様が現実を突きつける。
「もしも、の話なのですけれど……」
唐突に話を切り出した私に、3人は不思議そうな顔をする。
「上手くいくかは分かりませんわよ?でも、御三方が上げた好みの男性に、心当たりが……「「「紹介して下さい(〜)!」」」
お相手探しに苦労しているらしい3人に、やはり3人を紹介しようと試しに提案してみると、すごく食い気味で返答された。
「どんな方ですか?知識だけではなく、柔軟な発想と思考力を持った方だと嬉しいですね」
「首が太くて肩がガッチリしている人だと嬉しいのだけどぉ、どうなのかしら〜?」
「私の暴言を無視するのではなく、穏やかに受け止めて下さる方だと嬉しいのですが……」
うん、彼女たち、すごい肉食だ、肉食系女子だ。
私は、彼女たちの疑問に。
「私が紹介しようと思う3人とも、レオンの側近なのですけど、私から人物像を聞くより、実際に会ってみて判断した方がいいのではないかと思うのです。私から見た3人と、皆様から見た3人はきっと違うでしょうから」
それっぽい理屈を並べながら、逃げた。
いやだって、期待させすぎてガッカリされたら、私も凹むから!
変に期待させてごめんねー!ってなっちゃうから!
「まぁ……そうですわね、一理ありますわ」
「では、機会を作っていただかねば…なるべく早く」
「そうねぇ、最速でお願いしますわぁ〜」
……凄いプレッシャー!
あれ、これ私詰んでない?
期待させないように3人の説明から逃げたけど、もう手遅れなくらい期待度MAXじゃない?
内心冷や汗をかきつつも、私たちは恋バナで盛り上がった。
「……という事があったのです」
「ツェリ……君は、あの時の事を話したのか………?」
3人が帰ったあと、家を訪ねてきたレオンを膝枕しながら、今日あったことを話していたら、何だかレオンが悶えている、可愛い…じゃなくて。
「話しては駄目なことでしたか?」
「いや、駄目ではない、駄目ではないんだが……あー………いや、すまない。これは僕のつまらないプライドだ」
「プライド、ですか?」
「ツェリの友人のご令嬢方に、僕はツェリに相応しい男だと、そう思って欲しいというつまらないプライドだ……」
もにょもにょと恥ずかしそうに語るレオン。
私は心に喜悦を禁じ得ない。
「それなら安心なさって?私、レオンの素敵な所『もういいわ、お腹いっぱい』って言われるくらい、沢山話してきたもの!」
「うん、それは全く安心ができないな」
「……やっぱり?」
私は笑って誤魔化す、テヘペロ…といった具合に。
今まで語り合える相手がいなかったからか、抑える筈だったレオンの惚気を、皆がげんなりする程吐き出してしまった。
しまった、と思ったが出てしまった言葉は取り戻せない。
「でも、それだけ僕の事を素敵だと思ってくれているなら、まぁ……否はない」
「当たり前の事でしてよ、レオン」
「しかし、紹介するのがあの3人で大丈夫なのか?強すぎる個性と外見の持ち主だぞ?まぁ、外見に関して僕が言えることなどないが」
「彼女たち本人が、顔は二の次と言っていましたから、そこまで外見には拘らないのではないかと思いますわ」
「なるほど、な。分かった、3人の予定を聞いておこう。どの道ツェリの近くにいるご令嬢たちには紹介しておかねばと思っていたところだしな」
「ありがとうございます、レオン」
「あぁ、礼はツェリの言ったという【僕の好きな所 】で大丈夫だぞ」
「分かりましたわ……って、え!?」
「分かりました、と言ったな?さて、じゃあ聞かせてもらおうか」
いつの間に!?というくらいの早業で体勢を変えられていた私は、今レオンの膝の上。
レオンは肘置きにもたれかかりながら、意地悪な表情を浮かべ優雅にこちらを見てくる。
お行儀が悪い!
でもなんか色気があって好き!
「え〜っと、どうしても言わなくては駄目ですの?」
「あぁ、聞かせてもらおう、未来の奥さん」
そして私は本人を前に、素敵な所を言う羽目になった。
レオンは、私が素敵な所を言う度に『ツェリはどうしてそこが素敵だと思うの?』と詳しく聞きたがり、甘い尋問は1時間にもわたった。
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