第53話 愉快犯なお義父さま
初登校から5日後、私はソワソワしていた。
今日、遂に3人が私の家に来るからだ。
我が家に招待したい、と言った時の3人の顔は見ものだった。
小さな目と口をこれ以上ないという程にめいっぱい開けて、呆然とした顔。
小さな目、ということから分かるように、3人はこの世界で美人だ。
レイチェル様が3人の中でも群を抜いて美人らしいが、ごめんなさい、ちょっと私には分からなかった。
そして、そんなレイチェル様ですら。
『ツェツィーリエ様を見た瞬間〜、美人だなんだと褒められてきた自分が恥ずかしくなりましたぁ。』
私の顔をこう褒め称えるのだから、私はとんでもなく美人らしい。
さて、そんな私からの招待を受けた彼女たちは、呆然とした状態から帰ってくると。
「本当にいいのですね?ツェツィーリエ様!」
「社交辞令だと申し出るなら今のうちですわ、ツェツィーリエ様!」
「ごめんなさぁい、私たちお友達少ないから今疑心暗鬼なのぉ。」
私にしつこく確認を取り始めた。
ナディア様とレイチェル様は幼なじみだし、トリシャ様は悪評が立ったもの同士、仲良くしてきたのだと言う彼女たちは、噂が足を引っ張って、新たな友達ができない状況にあった。
そこにできた、私という新たな友達。
そんな友達(新)が、家に誘ってきた!
社交辞令なのか?本当に行っていいのか?
そう葛藤していたのだと、後で聞いた。
「え?えぇ、社交辞令ではこんな事言わないわ。私も初めてお友達をお迎えするから、不手際があるかもしれないのだけど、来て下さる?」
「「「行きます(ぅ)!」」」
そんな事を知らない私は、不思議な事を言うなぁ…と特に考えず返事をしてしまった。
ちなみに、その時3人は友達(新)が初めて呼ぶ友達に私たちを選んでくれた!と、脊髄反射で返事をしていたらしい。
数日前の事を思い出してクスリと笑う。
すると、部屋のドアをノックされた。
「ツェツィーリエお嬢様、ニクラス侯爵令嬢、マルティン伯爵令嬢、ハイネ男爵令嬢がお越しになられました」
「分かったわ、今向かうわね。サロンにお通ししてくれたかしら?セバスチャン」
「そのようにしております」
「ありがとう。では、行ってくるわね」
「楽しい時間をお過ごし下さい、ツェツィーリエお嬢様」
「えぇ」
ウキウキとした足取りで、3人の待つサロンに向かう。
貴族のご令嬢は、部屋に入る時にはドアを開けたままにしているので、歩いている途中で3人の姿が見えた。
開いたドアをノックして。
「ナディア様、レイチェル様、トリシャ様、ようこそおいでくださいました」
そう挨拶をすると、3人も代わる代わる挨拶をしてくれる。
そして、3人は不意に固まった。
どうしたのだろう?と首を傾げる私の後ろに、その原因はいた。
「ニクラス侯爵令嬢、マルティン伯爵令嬢、ハイネ男爵令嬢。初めまして、フィリップス・フォン・シュタインだ。ツェツィの友人のご令嬢方が、こんなに美しいとは……参ってしまうね。どうかツェツィのことを頼む、この子はしっかりしているようでいて、どこか抜けているから」
「ナディア・フォン・ニクラスと申します。お初にお目にかかります、シュタイン公爵閣下。ツェツィーリエ様が抜けているのは、短い付き合いの今でも分かりますわ!」
「あら、ナディア〜。それはちょっとシュタイン公爵閣下の前でマズイのではなくてぇ?申し遅れましたわ〜、私はレイチェル・フォン・マルティンと申しますぅ」
「わた、私はトリシャ・フォン・ハイネと申します。お目にかかれて光栄です、シュタイン公爵閣下」
うっかり失言をして青ざめるナディア様と、緊張しているのが丸わかりのレイチェル様とトリシャ様。
レイチェル様に至っては、初対面の時には隠すという語尾を伸ばす癖が出ている、それも思いっきり。
お義父さまは、性格の悪そうな笑顔、でも他の人からはただ嬉しそうに見えるだけという笑顔、を浮かべて。
「御三方は、とても可愛らしいご令嬢なのだね」
この可愛らしい、という言葉。
3人は当然嫌味と受け取ったのだろう、顔が青ざめていっているが、お義父さまは本心で言っている。
ただし、嫌味に受け取られると分かった上で。
タチが悪い。
「お義父さま、その辺で」
「おや、もう?」
「もう?ではありません。ナディア様もレイチェル様もトリシャ様も、お義父さまのタチの悪い冗談には慣れていないのです。今のお義父さまは、単なるいじめっ子ですわ」
「いじめっ子……か、それは本意ではないな」
お義父さまは、ふふ、と笑うと。
「ニクラス侯爵令嬢、マルティン伯爵令嬢、ハイネ男爵令嬢、すまなかった。可愛らしいと言うのは本心だったのだが、嫌味に受け取られるような言い方をしてしまったのは私の過誤だ。許してくれるかい?」
そう言って、切なそうな顔を見せるお義父さま。
もちろん、意図的行動だ。
時おり危うさを見せるお義父さまだが、その本質は楽しいことが大好きな愉快犯。
なまじ引き際を心得ていて、且つ頼りがいがあるだけに、よりタチが悪い。
当然、そんな悪い大人に対する免疫なんてない、3人のご令嬢は顔を赤くしながらコクコクと頷いている。
「お義父さま、これから私たちは女性だけで語らうのです。急に来るようなお義父さまは、そろそろ立ち去った方がいいのではなくて?」
「おや、棘があるな、ツェツィ」
「当たり前です。顔を出すなら出すで一言言っておいて下さらないと。折角招待したのに、緊張させてしまったせいで、これから応じて下さらなかったらどうするの?そうなったらお義父さまとは口をききませんからね!」
「分かった分かった、悪かったな、ツェツィ」
「全くですわ!」
「ご令嬢方も、急に来てしまってすまなかった。ツェツィに友人が出来たのが嬉しくてつい…な。私はもう行くので、今日はゆっくりと楽しんで欲しい。では、失礼する」
軽く親子喧嘩をする私たちを見守っていた3人は、顔を見合わせるとクスクスと笑いを零し。
「「「はい(〜)、ありがとうございます(ぅ)!」」」
と、3人揃って返事をした。
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