第51話 お友達。
話に誘われた私は、4人がけのテーブル席に着いた。
この学園、前世の記憶からすると驚くべきことだが、全員で一斉に前を向いて、ひたすら授業を受けるといったことはしない。
学園側が決めた2人~4人のグループになり、2、3グループにつき先生が1人付くといった、少数での学習方法となる。
そのグループ分けは、主に学力によって一方的に決められているが、グループ内で不和がある場合などは、学園側に書類を提出すればグループを変えることも可能というシステムだ。
そして私の元に、グループを共にする、3人の女の子の名前が載った手紙が届いたのは1週間前のこと。
気位が高く、冷たいと噂のナディア・フォン・ニクラス侯爵令嬢。
その美貌を鼻にかけ、我儘放題と噂のレイチェル・フォン・マルティン伯爵令嬢。
男性顔負けの頭脳で、小賢しいと噂のトリシャ・フォン・ハイネ男爵令嬢。
まだデビュタントを迎えておらず、噂に疎い私ですら知っている、悪名高きご令嬢たち。
これからの学校生活に暗雲が立ち込めた瞬間だった。
不安になって、お義父さまに打ち明けると。
「ツェツィ、レオナード殿下が巷では何と言われているか知っているか?」
「【月の王子】でしょう?」
「そうだな、だがその前にはこの言葉が付く。【血も涙もない、冷たく心の凍った】と」
「え?」
「月は凍えるように冷たい色で、そして醜いからな、それを揶揄しているんだ」
「そんな……」
「実際は違うことを、ツェツィは知っているだろ?」
「はい」
「噂なんてそんな物だ。いいか、ツェツィ。噂を知ることはいい、だが惑わされるな。その人の本質を自分の目で見極めるんだ、いいな」
そして、お義父さまは私の髪を優しく撫でた。
そして私は今、『ツェツィーリエ様の事を誤解しておりました』と、3人からの謝罪を受けている。
どうしてこうなった?
「野心の塊で、レオナード殿下を利用して、成り上がろうとしている方だとばかり……」
ナディア様の言葉に頷く2人。
「でもぉ、私たちお二方の様子を見て確信したのです〜。相思相愛だわぁって〜」
「まぁ、レイチェル!その語尾を伸ばす癖はお止めなさいとあれほど……!」
「ナディア様、落ち着いて下さい、ツェツィーリエ様が驚いていらっしゃいます」
「あ、申し訳ありません、ツェツィーリエ様……」
のんびりとしたレイチェル様の言葉に、眦を釣り上げて怒るナディア様、それを宥めるトリシャ様。
…お義父さま、やっぱりお義父さまは正しかったわ。
「お気になさらず、ナディア様。私こそ、謝らなくてはいけません。ナディア様、レイチェル様、トリシャ様、私は御三方の噂を真に受けて、勝手に不安に思っておりましたの」
あぁ、言葉にすると、何と愚か。
3人のことが見れずに目を伏せると。
「ダメですわ!いけません、そんな顔をなさっては……!」
「あらぁ、何だか無理やりにでもモノにしたいくらいの麗しさですわねぇ〜」
「おおお、落ち着いて下さい、お2人とも!布!布は何処ですか?お顔を隠さなくては……!」
何だか3人が顔を赤くしながらパニックになり始めた。
私は、一瞬沈んでいたことも忘れて、ポカンとした。
「その顔の方がまだマシですわ!」
「ナディア様!マシとか言っちゃいけません!」
「そうねぇ、それでも美しいですけどもぉ〜」
「ふふっ、噂は所詮噂に過ぎないのですわね」
私は、立ち上がると3人に向かい頭を下げた。
「噂に惑わされて申し訳ありませんでした。でももし、許して下さるのなら、私とお友達になって下さらない?」
「「「なりますわ(〜)!」」」
謝罪しているのに、図々しいお願いだったかな?と思ったが、間髪入れずに返ってきた返答に、思わず下げていた頭を上げてしまう。
そこには、揃ってしまった返事に対してか、照れくさそうにする3人の姿があって、私は思わず笑ってしまった。
「私、感情的になると、思ったことをすぐに口に出してしまいますの。だから、なるべく外に出る時には感情を抑えて、気をつけていたのですけど……」
「今度はそれが災いして、冷たい女って呼ばれるようになったんですのよぉ〜」
「うるさくってよ、レイチェル!」
今、何故悪名が立ってしまったかの説明を受けている。
ナディア様とレイチェル様は、ご近所さん同士、いわゆる幼なじみという仲だそう。
ちょっと羨ましい。
「そういうレイチェルは、自分に正直過ぎよ!だから我儘って噂立ってるじゃない!」
「だってぇ、興味のない男性の求婚なんて受けたくないじゃない〜?だからぁ、無理難題吹っ掛けて断ろうと思ったのよ〜」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて下さい。ちなみに私は、腹違いの兄を勉学でコテンパンに負かしたら、小賢しいと言われるようになりました。商人から成り上がった男爵家だと言うのに、兄はプライドだけ高位貴族並に高くて困ります」
「3人とも、苦労したのね……」
「「「えぇ、とても(ぉ)」」」
思わず私が零すと、実感のこもる3人揃った力強い言葉が返ってきて、私はまた笑ってしまった。
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