第47話 私は女優

 私はか弱き乙女………か弱き乙女………よしいこう。


「聞いているのですか!?兄上!!!」


 下品なくらいの大声で喚き立てる第二王子殿下に、私は大袈裟なくらいビクッと肩を震わせる。


「どうした、ツェツィーリエ?」


「あ、ごめんなさい……。第二王子殿下の大声に驚いてしまって……」


 すかさず声を掛けてくれるレオンに、私は、ビブラートかけてる?というくらい声を震わせて、怯えた様を演出し、瞬きを我慢した反動で出た涙を目に浮かべ、第二王子殿下の大声に驚いた振りをする。

 どうよ、この迫真の演技。


 ねぇちょっとレオン、こっそり『かわい……』とか呟かないで、嬉しくて笑っちゃうから。

 第二王子殿下にはツェツィと呼ばせるのも嫌なのか、ツェツィーリエ呼びだし。


 え?さっきから大声出してたのに、今までは怯えてなかっただろうって?

 大丈夫、それに気付くようならもっとマトモな育ち方してる。奴は絶対引っかかる。


「あぁ、すまない。ツェツィーリエ、君は繊細な人なんだね、やはり兄上の傍は相応しくない」


「どういう意味だ」


「どういう意味も何も。鏡を見たら分かるのではないですか?」


 案の定引っかかった。しかもいきなりの呼び捨て。

 本当に無い。


「それでも、ツェツィーリエは私の婚約者だ」


「よっぽど自信がおありのようで。では、ツェツィーリエに選んでもらいましょう。私と兄上、どちらがいいか」


 その言葉、そっくりそのまま豪速球のアタックで返したい。私は困惑した顔で2人を見比べ(演技)、レオンの腕を両腕でギュッと握った。


「ツェツィーリエ……!」


 レオンは真面目に感激している、そりゃレオンを選ぶのは当たり前でしょうが。


「……?どうした、ツェツィーリエ、選んでいいのだぞ?」


「は?」


 いかん、思わず素が出た。

 いや、選んでますけど?そう返したいのをグッと堪えて言う。


「私の婚約者は、レオン様ですので」


「大丈夫だ、ツェツィーリエ。私を選んでも誰も怒らない。兄上から解放してあげよう、おいで」


「む、無理です。私はレオン様をお慕いしておりますので」


「そんな……!」


 ショックを受けた様子の第二王子殿下。

 お、通じたか?


「そこまで洗脳が酷かったなんて…!さぁおいで!兄上の元に君を置いてはおけない!」


「ひぇっ」


 本気で怯えた声が出た。待って、ここまで話通じないの?

 全然タイプでもない、むしろ生理的嫌悪すら覚える相手が、自分は好かれている筈だと謎の自信を持って迫ってくるのって、凄い恐怖!


「やめろ」


「何をするのですか!兄上!!」


「そうやって、また大声を出す。見ろ、ツェツィーリエが怯えている」


 すかさず肩を震わせる私、実際話通じなさすぎて、本気で怖いしね。


「アルバート、お前は気に入らないことや思い通りにいかない事があると、すぐに大声を出す。その癖が治らない限り、いくら私と見た目が不釣り合いであろうとも、ツェツィーリエはお前を選ばんさ」


「そんな事!!」


「ほら、またそうやって。このように怯える繊細な者がどうして、大声で威圧する者を選ぶと思うのだ。よく考えろ」


「兄上を愛する者など、いる筈がない!!」


 その言葉に、レオンの心が少し軋んだのを感じた。

 私はレオンの腕を引っ張ると、振り向いたレオンの顔を両頬で挟み、引き寄せて、キスをした。目を見開いて驚くレオン。

 そして、呆然とするレオンの腕をしっかりと抱き締めて宣言した。


「レオナード殿下、いえ、レオンを愛する者は、ここにおりますわ」


 そして、そのまま放心状態のレオンの腕を引っ張って、出口に誘導する。


「では、ごきげんよう、皆様」


 そして、そのまま会場を立ち去った。

 えぇ。ついカッとなってやりました、でも後悔はしていません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る