第45話 変化
今日は決戦当日、間違えた、レオンのデビュタント当日だ。私は朝からメイドさんたち総出で揉みくちゃにされ、美しく磨かれていた。
『普段必要最低限にしか着飾らないツェツィーリエお嬢様を、美しくできる絶好のチャンスよ!』
フランチェスカさんが声高らかにメイドさんたちを鼓舞しているのが聞こえた時、逃げようと思ったのだが、いつの間にか傍にいたエミールさんに阻止された。
ドレスまで着て、ようやくメイドさんたちから解放された時には、私は死んだ魚の目をしていたことだろう。
そして『ほら見てください!』とエミールさんとフランチェスカさんに手を取られ、大きな姿見で全身を見て、死んだ魚の目が腐った魚の目に進化(あるいは退化?)したのが分かった。
『僕の色を身につけて欲しくて』とレオンからプレゼントされた、レオンの瞳の色に似た、シャンパンゴールドの光沢のあるドレスに身を包んだ、元【白豚】で、現【黒豚】の私。まぁどっちも見た目一緒なんですけどね〜。
今は【金豚】みたいで、幸運運んで来そうな姿ね、きゃっ、素敵!
ふぅ…、1回落ち着こう、ビークール。
この世界の美醜が違うことを納得はしているし、他の人に関してはどうも思わなくなった。
むしろ、ぽっちゃりで前世的美醜的には不美人でも、明るいメイドさんたちを見ていると、ひょっとしたら前世の私が苛められていたのは、単に外見だけのせいじゃなかったのかな…と思うくらいには、彼女たちは可愛くて綺麗だ。
相思相愛中のレオンのことも、顔を知らない状態でお互いに惹かれ合ったから、外見だけで惹かれたのか…云々で悩んだりもしない。
目下の私の悩みは。自分自身の姿を受け入れられないこと、これに尽きる。
以前ほど、自分の姿に嫌悪感はないし、鏡も普通に見れるようになった。ただしそれは、シンプルなワンピースとか、比較的ラフな格好をしている時。
今日のように着飾った姿で鏡に映る自分を見ると、なんかこう、ダメージが酷い…!
私の目に映るのは、身体のラインを現すかのような、ピッタリとしたドレス。
ちなみにこのドレス、この世界でも着る人を選ぶ。というのも、この世界での体型の【美】は、丸みのあるフォルム。
つまり、普通体型の人や細い人が着てしまうと、この世界では貧相とされる。では、そういう体型の人は何をきるかというと、フリルやレースをこれでもか!という程重ねた、フワフワとしたメルヘンなドレスを着るようだ。
私はそのドレスを初めて見た時、メルヘンが過ぎてちょっと胸焼けした。
深呼吸をして、改めて姿見と向き合う。
…あれ?以前と何かが違う。
まじまじと自分の顔を見つめる。
何が違う?
分からない、分からないけど、うん、悪くない。いや、悪くないどころか、この自分なら好きになれそう。
しばらくの間、姿見の前から動かない私に、エミールさんは。
「ツェツィーリエお嬢様、最近益々美しくなりましたからね。気付いていらっしゃらなかったでしょう?」
「本当に。レオナード殿下に愛されているからでしょうか?自信も感じますわね!」
続いたフランチェスカさんの言葉に、それだ、と思った。
何が変わったのか分からないのに、何故か変わった自分。それはきっと、私がレオンを愛して、そして愛されているから。レオンの愛を疑うことなく、真っ直ぐに受け止められて、誇らしいから。
うん、小ぶりな目も、低い鼻も、パンパンの頬っぺたも、全部前と変わらないけど。でも、素敵じゃない、私。
あぁ、レオンに早く会いたい!
「レオナード殿下がお越しになりました。ツェツィーリエお嬢様、お支度を整えくださいませ」
「今行くわ!」
待ってました!と言わんばかりにすぐ様向かう私。ギリギリ下品にならない程度の早歩きで、急いで向かう。
早く、早く…!
でも私は、レオンの姿を見てその足を止めてしまった。
無理!あれは無理!!!
ダークグリーンの礼服に身を包んだレオンが、格好良すぎてマトモに見れない。嫌味の無い逆三角の上半身に、スラッと伸びる長い脚、そして、ただシンプルに顔がいい。
「ツェリ、綺麗だ。あー…うん、綺麗だ」
「レオンも、凄く格好良すぎて死にます」
「死ぬのか!?それは止めてくれ!」
「すみません、ついうっかり」
「うっかりで死なないでくれ……」
眉を下げるレオン。
格好良過ぎる程格好良いのに、あの私を褒める時のポンコツっぷり…。女性との接し方に不慣れな感じと、綺麗に装った私に動揺してる可愛さが溢れ出していた。
私たちのやり取りを見て苦笑していたお義父さまに挨拶をして、私たちは馬車に乗り込む。ハーフアップにした髪がサラリと揺れた。
デビュタントのパーティーでは、まだデビュタントを迎えていない年下の婚約者がパートナーを務めるのは認められているが、色々と条件があるようで。髪を完全に上げてはいけないというのもその1つに当たる。
よって、今の私は複雑に編み込まれてはいるものの、完全に髪は上げず、一部の髪を下ろしている。
「ねぇ、レオン。私気付いた事があるんです」
「なんだ?」
「私がレオンのことを好き過ぎて困るということですわ」
「そうか、それは奇遇だ、僕もそうだからな」
「まぁ、奇遇ですわね」
ふふふ、と戯れながらお互いの愛情を確かめ合っていると、王城に着いた。
さて、開戦だ!
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