第31話 側近候補紹介

 春になり、レオンが学園に入学して、私たちは以前ほど頻繁に会うことはなくなった。それでも、レオンは忙しい時間の合間を縫っては、私とのお茶の時間を設けてくれていた。


 今日もレオンに呼ばれ登城し、彼の膝に乗り、会話とお茶を楽しんでいると。

 入室を求める声がノックと共に聞こえ、レオンは私にベールを下ろすように耳元で言った後、入室を許可する。そして入室後、私とレオンの前に横一列に並び、頭を垂れる3人の青少年。

 …誰?


「紹介する、ツェリのおかげでようやく見つかった、私の側近候補の3人だ」


「えぇっ!?レオンってば、何平然と私を膝の上に乗せて紹介してるんですか!」


 降ろしてください!とじたばたする私に不服そうな顔をしながらも、私の要望通り自分の膝から降ろし、隣に座らせてくれるレオン。


「お前たちには、顔を上げる前に言っておく。私の婚約者のツェツィーリエは、絶世の美女だ。見蕩れるまでは許すが、間違っても惚れるなよ?」


「「「承知致しました、殿下」」」


「ツェリ、ベールを上げていいよ。お前たちも、顔を上げなさい」


 恋人であり婚約者のレオンに、絶世の美女、と呼ばれてニヨニヨする私。私に惚れるな、と側近候補にまで釘を刺す、その心の狭さすら愛おしい。

 私は、レオンに言われるまま、ベールを上げると、3人がゆっくりと顔を上げるのを待った。


 顔を上げた3人は私の顔を見ると、目も口もポカンと開けて軽く放心状態だったので、私はその隙に3人を観察する。

 前世的美醜の価値観で見る3人は、私から見て右から、紺色の髪と目の細身眼鏡イケメン、赤髪に青い目の強面ゴリマッチョイケメン、白髪赤目のぽっちゃりちょいブサメン…といった感じだ。


 この世界の美醜の基準に当てはめるとするなら…うん、よく分からん。

 言い訳をさせてもらえるなら、美人の条件というものはあれど、美醜というのはそもそも感覚的に分かるべきものなのに、私はそこら辺がぶっ壊れているので。

 どちらが美人、どちらが不美人という些細な違いを、感覚じゃなく頭で理解しようとするのが、土台無理な話なのだ。


 唯一分かるのは、私が絶世の美女でレオンがぶっちぎりの不細工ということくらい。

 そして、そんなレオンも私にとっては最高に綺麗で可愛くてカッコイイ人だということ。


 閑話休題。


 3人の内、1番最初に我に返ったのは、私から見て1番右の眼鏡イケメンさん。


「た、大変申し訳ありません!私はリーフェルトと申します。お目にかかれて光栄です、シュタイン公爵令嬢」


 その次に白髪赤目のぽっちゃりさん。


「ご無礼をお許しください。私はクローヴィアと申します。お初にお目にかかります、シュタイン公爵令嬢」


 最後に、オロオロとしながらゴリマッチョさん。


「あ、の、はじめまして。俺、いや、僕……じゃなくて私か?ルードルフと申す、ます」


 ブハッ!


 ダメだ、無理だ。淑女にあるまじきことだと分かっている、分かっているのだけど耐えきれなかった。

 いやだって、強面ゴリマッチョイケメンが挙動不審になりながら、ぎこちなく間違えまくった挨拶をしてくれる姿が面白すぎて…!見た目すっごいオラオラしてそうなのに……!


 盛大に吹き出した後、肩を震わせて笑っている私を見て、ポカンとしているリーフェルトさん、クローヴィアさん、ルードルフさんの3人。

 ごめん、ちょっと笑いがおさまるまで待っててね。


「だから言っただろう?ツェリは容姿の醜さも多少の無礼も気にしない女性だと」


 レオンは私の背中を落ち着かせるように撫でながら、誇らしげに言う。


「……あ、え、えぇ」


「嘘だと思ってました」


 リーフェルトさんと、クローヴィアさんがパチパチと瞬きを繰り返しながらレオンの言葉に答える。


「リーフ、大将、悪ぃ。折角挨拶の仕方教えてもらったってぇのに」


「仕方ありません、ルードの覚えの悪さを見誤った私の責任です」


「気にするな……と言う訳にはいかんが、ここはある意味身内だけの集まりだ。失敗するなら今の内にするだけしておいて、本番しくじらないようにしろ」


「ルード、良かったね。シュタイン公爵令嬢がお優しい方で」


 ……あぁ。短い会話でも分かる。この側近候補の3人と、レオンは信頼関係を築いている。

 レオンとお義父さまのお眼鏡にかなった3人のこと、きっと優秀なのは間違いないだろう。これから、きっとレオンの支えになってくれる。

 そう感じた私は、笑いを完全におさめると、凛として見えるように姿勢をピンと伸ばし、3人に告げ。


「リーフェルト様、クローヴィア様、ルードルフ様。どうか、レオンを支えてあげてください、よろしくお願いします」


 頭を下げた。それに慌てたのは3人で。


「ひぇっ!あ、頭をお上げ下さい、シュタイン公爵令嬢!私たちは、姓がないことからもお分かりの通り、ただの平民ですので!」


「そうです!そんな私たちにシュタイン公爵令嬢が敬称をつけることも、頭を下げる必要もないです!」


「そ、そうだ!俺なんか学もねぇし、マトモなのは腕っぷしだけだが、それでも姫さんが俺なんかに頭を下げちゃいけねぇ人だってのは分かる!」


「いいえ。貴方たち3人は、レオンの……レオナード殿下の側近候補として集められた3人です。そうである以上、私は貴方たちに敬意を払い続けます。例え身分が平民であろうとも、そのことに変わりがないことは、是非覚えておいてください。レオンを、頼みますね。」


 顔を上げながら、私がレオンのことを頼むと、感極まったかのようにただひたすらコクコクとだけ頷く3人。うん、良かった、この3人ならレオンも任せられる。

 私は、そう思うと微笑むのだった。

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