第30話 前代未聞の… side レオナード
「側近候補の方を、いっそ能力だけで決めてみてはいかがですか?」
ツェリに言われたその言葉は、僕に驚きと同時に深い納得をもたらした。
もうすぐ12歳になる僕は、学園入学で寂しい思いをさせるツェリに謝ったあと、側近候補が決めきれないことに対する愚痴をこぼしていた。
この1年間、ツェリは根気強く僕に愛情を伝え続けてくれた。その結果、僕はツェリの前では【第一王子レオナード】ではなく【ただのレオン】として甘えることができた。
この手を離されたら、僕は一瞬も迷うことなく自ら死を選ぶ、それくらいツェリに依存している。
愚痴をこぼす、という甘える名目が欲しかっただけの僕は、膝枕をされ頭を優しく撫でながら言われたツェリの言葉を、驚きと共に受け止めた。
確かに、思い返せば僕の側近候補は、全て爵位を持った家の子どもであることが条件とされていた。容姿に関して注文をつけた覚えはないが、なるほど、爵位を持っていることそれはつまり、美しい容姿の者であることが自ずと限定されてくるのか。
あまりに当たり前のこと過ぎて、逆に気が付かなかった。
もし、募集対象を平民にまで広げたとしたら?美醜を問わないと明記したら?
いける、かも知れない。王子の側近に、平民がなれないという規則は無かったはずだ。
長い間続く、慣例の一つではあるが。
問題は、父である国王にどのようにして認めさせるかだが。
『僕を相手にしてくれる者は、醜い容姿の卑しい平民しかおりません』とでも、自分を卑下しておけば大丈夫だろう。
あの人は、僕が惨めな姿を見せることが大好きだから『醜いもの同士で馴れ合っていればよい』とでも思って、許してくれるに違いない。
ただ父が、醜い者ならまだしも、ただの平民ですら見下す理由は、僕には良く分からない。民なくして、国は成り立たないというのに。
しかし僕も、固定観念に囚われているな。頭の中である程度の算段を整えたあと、自嘲する。
ふと上を見上げると、ツェリが慈愛に満ちた表情で見下ろしていた。
「あぁ、すまないツェリ。いきなり無言になったりして」
「いいえ。レオンが生き生きとした目をしながら何か考え事をしているのを見るのは、楽しかったですよ?」
「ありがとう」
クスクス笑うツェリに少し恥ずかしく思いながらも、感謝をする。本当にツェリは、どこまで僕を救ってくれるのだろうか。
それから。
僕はフィリップスと共に詳細を詰めていき、側近候補を募った。父は思った通り『醜い化け物共が集まって慰め合うのか、惨めだな』と嫌な笑顔を浮かべて許可をくれた。
知らせを出してからの最初の1ヶ月は、恐ろしいくらいに何も変化がなかった。僕は内心焦りに焦りまくった。
だが。
平民であっても、醜くても、何かに秀でた能力があるならば採用する、という前代未聞な、僕の側近候補者募集の知らせは、世間を賑わせ。
2ヶ月目からは、最初の1ヶ月の沈黙が嘘のように、続々と候補者に名を挙げる者が出てきたのだった。
そうして僕は、3人の側近候補を得ることになる。
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