第29話 私たちの変化

 レオンと婚約してから1年が経ち、私は9歳に、レオンはもうすぐ12歳になる。


 婚約者不在を理由にレオンを廃嫡にしようとした国王陛下に、認めてもらえるか心配していたが、お義父さまが無事に署名をもらってきてくれていた。

 教会に書類を提出したというお義父さまに、レオンは何故か狼狽えていたが、私はお義父さまに感謝した。


 婚約後も定期的にお茶会は続いていた。

 衝立越しの会話から、レオンの膝の上に乗っての会話という、もう少し段階踏もう?と突っ込みを入れたくなる程の距離感の詰め方には困惑したが、概ね満足しているし、幸せだ。


 そうそう。

 レオンと婚約してから、私は黒いベールを決して人前で外してはならない、とお義父さまとレオンの2人からキツく約束させられていた。元々人前でベールを外す機会は少なかったので、私としても特に不便はない。

 レオンと会う時も、私の専属メイドのエミールさんかフランチェスカさんしか傍にいないので、ベールを外しても問題はない。

 何故、レオンの傍に使用人らしき人がいないのか、ということを考えると、きっと嫌な思いをするので、今は考えないようにしておく。


 怖いくらいに順調な私たち2人の間に、大きな変化が訪れた。

 レオンがこの春、学園に入学するのだ。


【聖ステラ学園】

 12歳から15歳までの初等部と、15歳から18歳までの中等部、18歳から22歳までの高等部からなる学園。

 多くの貴族の子女が通い、平民でもお金を積むか、頭の良さを示せば入学できる学園。

 高等部まであるものの、高等部を卒業するものは少なく、貴族令嬢は大体初等部、貴族令息は中等部卒業まで、というのが一般的である。


 この学園には飛び級制度があり、入学した後、最初の1年間だけは学園に通わなければいけないが、その1年間を終えると、試験にさえ合格すれば飛び級して卒業する事もできる。

 しかも、飛び級して卒業した後だとしても、初等部なら15歳以下、中等部なら18歳以下、高等部なら22歳以下の年齢であれば、受けたいと思う授業だけ受けることも可能だという。


 だから、学園に入学する頭の良い人たちの多くは、13歳で飛び級制度を使い、進級できる所までして、後は興味のある授業だけ受けたり、そのまま通わなかったり、逆に毎日授業に出たりと、各々好きなように学園生活を楽しむのだという。


 ちなみに、お義父さまは14歳の時に飛び級で中等部を卒業している。

『13歳で飛び級をすると、変に目を付けられるから、14歳で飛び級することにしたんだ、面倒くさいしな。飛び級後も学園に通い続けようかとも思ったんだが、授業は退屈だし、何よりクラウディアと出会ってしまったから。他に時間をさく余裕がなかった』とはお義父さま談。

 お養母さまへの愛の深さが怖すぎるというマイナス点をものともしない、お義父さまの完璧超人具合に…正直に言おう、少し引いた。



 そしてそんな学園に入学すると決まったレオンは、ことある事に私にこう囁いては抱きしめてくる。


「これからの1年間、会える回数が減ってしまうのが悲しい。13歳になったらきっと、中等部を卒業してみせるから。それまでの1年間、寂しい思いをさせる僕を許して欲しい」


 1年間、好意を伝え、私の前では気を張らなくていいのだと、ありのままのレオンが好きなのだと伝えた続けた結果。

 レオンは私の前で酷く甘えたな人になった。


 前世でオラオラ系の男子にいじめられ続けた経験を今世にまで持ち越してきた私は、自信に満ち溢れていて、積極的にリードするタイプの男性は、好きではない、むしろ苦手だ。


 その点レオンは、【公私】の【公】の場面では威厳のある姿を見せるし、決断も早いのだけど、【私】の部分では『ツェリの幸せが僕の幸せ』と言い切るくらい私に対してデロ甘で、私のすること全てを全面肯定し、甘えてくる。


 一瞬、これ私が悪女だったらこの国ヤバかったんじゃ、と思って背筋に冷たい汗が流れたが。

 私は悪女ではない(と思う)し、レオンは私に甘いとはいえ、公私はしっかり分ける人だから大丈夫だろう。

 あぁでも、私がお強請りしたら政治的判断も揺らぎそうなレオンが簡単に想像出来る!

 ダメよ、ツェツィーリエ、私が堕ちたらレオンも堕ちる!レオンを愚王にしない為にも、私は政治には首を突っ込まないようにします!



 …と、心の中で密かにしていた誓いを、私は早速破っていた。自分の意志の弱さが憎い。


 いやだって、側近候補が今ひとつ絞りきれないと愚痴るレオンを膝枕しながら、つい思ったことをポロッと口に出してしまっただけなので、私はギリ無罪だと思います!


「側近候補の方を、いっそ能力だけで決めてみてはいかがですか?」


 ポロッと放ったその何気ない思い付きがまさか、この先大きく変わっていくこの国の、最初の一歩になるとは誰も思わないでしょう、普通!

 よって私は無罪である事を主張します!

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