第28話 二人の未来 side フィリップス
レオナード殿下とツェツィの婚約に関する書類に署名してもらうべく、俺は今、1人国王陛下の待つ部屋に向かっている。
思い出すのは、先日のこと。
レオナード殿下の膝の上で、顔を真っ赤にしながら慌てていたツェツィ。でもその表情は幸せそうで。レオナード殿下のことが心底好きなのだと、そう思わせてくれる表情だった。
ツェツィがレオナード殿下に好意を抱いているというのは、割と早い段階で知っていた。あの子は存外分かりやすい。
レオナード殿下もツェツィに同じ気持ちを抱いているのも察していたが、それは本人たちが選ぶこと。
俺は黙って見守ろうと思っていた。
レオナード殿下が婚約者不在を理由に、廃嫡されると知るまでは。ツェツィに政治的要素が絡んだ婚約はさせたくない、だがレオナード殿下を廃嫡にもさせたくない。
悩んだ末に、今のレオナード殿下の現状をツェツィに話すと、力強く婚約者になると宣言してくれた。
正直、ホッとした。
まだ2人が衝立越しにしか会っていないことを知っていた俺は、どんな結果になろうとも、受け入れる覚悟をしていた。そんな俺の目に飛び込んできた光景は、ただお互いを大切に思う、少年と少女の姿だった。
あの光景を、壊してなるものか。
俺は大人として、養父として、2人を守ることを決意した。
「レオナードから婚約者が見つかったと聞いてはいたが。フィリップス、お前の娘か」
「はい、陛下」
「お前の娘は美しいと聞いている。レオナードより相応しい者は沢山いるだろう?ん?」
レオナード殿下に婚約者がいると不都合なのだろう陛下は、俺に圧をかけてくる。
「恐れながら陛下。私の娘は、その…瞳の色が……(黒くて美しいのです)」
「何?」
「そして、顔に……(しみ一つなく輝くようです)」
「なるほど。だからいつも黒いベールを被っているのか」
俺が全てを話さず、言いにくそうに言葉を詰まらせるだけで、陛下は簡単に誤解してくれた。ツェツィの事を、瞳の色が薄い顔に傷のある令嬢とでも思っているのだろう。
陛下は愉快そうに続ける。
「見るに堪えない息子の婚約者が、傷もの令嬢。醜い者同士、傷を舐め合うという訳か。」
「陛下、ツェツィーリエは……(傷などありませんよ)」
「あぁ、皆まで言わずとも良い。承知している。レオナードとツェツィーリエ嬢の婚約を許可しよう」
そう言って署名する陛下。
書類を受け取ると、俺はすぐ様教会へ持っていく。そして、書類は受理された。
こうなると、いくら国王陛下といえども、2人の婚約を破棄することを一存で行うことはもうできない。
教会を介してしまうと、婚約破棄することが格段に難しくなる。そういった事情から、一般的に婚約に関する書類は、教会を介さずに個人で保管することが多い。
きっと陛下も教会へ提出する筈が無いと思ったから、素直に書類を渡してくれたのだろう。これで、いくら書類の上だけとはいえ、2人の仲を引き裂くことは難しくなった。
あの2人には、これから先も多くの試練が待ち受けているだろう。だが、あの思い合う2人が幸せでいられるよう、俺は全力を尽くし続けよう。
改めてそう、胸に刻んだ。
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