第15話 心配

 衝立越しでも構わないからお話しましょう、という私の誘いに。


「すまない」


 との答えが返ったきたので、駄目だったか、と謝罪の言葉を口にしようとした時。


「ツェツィーリエ嬢に失礼なのは重々承知の上だが、よろしく頼む。私は第一王子のレオナード・フォン・キースベルトだ」


「勿論ですわ、よろしくお願い致します、レオナード殿下」


 断られたのではなく、自分の失礼な行いに対する謝罪だったようだ。横目に苦笑するお義父さまを見ながら、こうして衝立越しの奇妙なお茶会は始まったのだった。


 話してみると、殿下は10歳という歳の割にひどく大人びて、そして聡明であった。前世から持ち込んだ経験がなければ、とても話についていけないほどに。


 そして、会話をしていく内に気になったことがある。私のテーブルに用意された紅茶には、屋敷から着いてきてくれた、メイドのエミールさんがおかわりを注いでくれているのだが、殿下は1人でおかわりを注いでいるようだ。

 何故だろう。興味本位でした質問に、衝撃の答えが返ってくるとは知らずに。


「レオナード殿下は、ご自身で紅茶をおかわりしておられるのですか?」


「あぁ、毒が入っていることがあるからな。効かないとはいえ、気分は良くない」



 どく…毒!?


「どっ、毒を盛られたことがおありに!?」


「急に大きな声を出してどうしたのだ、ツェツィーリエ嬢」


「大きな声も出しますわ!質問にお答えくださいまし!」


「そうだな、最近は減ってきたが、昔はしょっちゅう盛られていたな」


「なんということ…!」


「どうしたのだ?」


 本気で分からないらしい殿下。

 毒を盛られていることを知らされて、今日会ったばかりの関係とはいえ、心配しない方がおかしいのに。


「私は、なにかツェツィーリエ嬢の気に触るようなことをしてしまったのだろうか?」


「心配しているのですわ!」


 全く分からないらしい殿下に、ついカッとなって言い返す。


「しんぱい」


「今日会ったばかりとはいえ、毒を盛られていることを知らされて何も思わずにいられる程、私は薄情な女ではありません!」


 意味の分からない単語を聞いたかのように繰り返す殿下に、またもや言い返す。


「いや、あの、心配など初めてされたものだから。ツェツィーリエ嬢が薄情だなんてちっとも思わない。その、心配されるというのは、くすぐったいものなのだな……」


 私が心配しているという意味が分かっているのか、と訊ねたくなる的はずれな感想に内心ため息をつき。


「心配などいくらでもして差し上げます。ですがレオナード殿下、あまり女性を心配させるものではありませんよ?」


「そうなのか。では今後は心配させないよう、鋭意努力しよう」


 心なしか気落ちした声で答える殿下に、そんなに心配されたいのか、と思いながら、そうしてくださいませ、と答える。

 ただ、毒を盛られていることを平気で答えるような殿下のこと、きっと心配は絶えないのだろうな…と苦笑する。

 それを嫌とは思っていない自分にも。

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