第10話 今世の姿と初対面。

 三者三様の反応をされ、軽くカオスな空間に陥っている中、パン!とフィリップス様が手を叩く。


「お前たちの混乱は最もだ。ツェツィは美しすぎる。だからこそ、ここでの守りを強固なものにする為、信頼できる者としてお前たち3人を選んだ。期待に応えてくれるな?」


 そう言うフィリップス様は、カリスマ的オーラを放っていて、3人はキリッとした顔をした後、その言葉に答えるのだった。



 そして、今。

 私の為に部屋を用意してくれていたらしく、その部屋に向かうために廊下を歩いている。

 前にフィリップス様、右隣にエミールさん、左隣にフランチェスカさん、後ろにセバスチャンさんという、要人警護のような完璧な布陣だ。守られる対象が私というのに慣れないけど。


 部屋に着くと、フィリップス様はお仕事があるらしく、また執務室に戻るとの事だった。私の為に手間をかけさせて申し訳ない、素直に謝ると。



「そういう時はごめんなさいじゃなくて、ありがとうだな。あぁ、この部屋には鏡があるから、自分の姿を確認するといい」



 そう言い残して去っていった。

 鏡!今世の姿といよいよ初対面!私は、ワクワクする気持ちで鏡のあるドレッサーの前まで向かう。


 この時、フィリップス様がいつもより意地悪そうな笑みを浮かべていたこととか、美男美女の両親が醜いと言われ、私が美しいとされてる意味とか、もう少しよく考えていれば、こんなに衝撃をうけることにはならなかったのではないかと思う。


 何が言いたいかというと。


 ドレッサーに掛けられていた布を取り、念願の対面を果たした今世の私の姿は、前世の私そのままだったのである。


 う、嘘でしょ…。

 目を限界まで見開いてるのに、そうは見えないほどの小さな目。ぺちゃんと潰れた鼻にパンパンの頬っぺた。


 3年という長い期間自分の姿を見たことがなく、身近な人間は美形な両親と弟だけ。だから、勝手に私も自分の姿を美人な女の子に脳内補正していたのだ。


 美形に思う両親や弟が醜く、私が美しいと呼ばれる時点で気が付くべきだった。

 そういえば、ここまで案内してくれたセバスチャンさん、エミールさん、フランチェスカさんも、お世辞にも美形と言える顔立ちではなかった。そんな中でも断トツの美貌と言われる私が、どれほど不細工なのかは計り知れない。


 辛い…。


 気が付くと、涙がポロポロ出ていた。今までそんなに泣き虫ではなかったはずなのに、家族と別れてから涙腺が馬鹿になってしまったみたいだ。



 コンコン



「ツェツィ、フィリップスだ」


「どうぞ」


 本当は泣いているところに入って欲しくなかったけど、フィリップス様はこのお屋敷の主だし、私が散々泣いたところも見せている。今更だろう、と入室を許可する。


 フィリップス様は、私の泣き濡らした顔を見て、驚いた顔をした。


「どうした?辛いことでもあったか?」


「かがみをみました」


「泣くほど辛かったのか?」


「ツィーはぶさいくでした」


「ツェツィが不細工なら、この世の全ての人間は不細工だな」


「それにぶたでした」


「不細工と言っておきながら、今度は褒めるのか」


「ぶたさんはわるくちです」


 フィリップス様は笑う。でも、その後真剣な顔をして謝罪してくる。


「ツェツィ、すまなかった。そんなにショックを受けるとは思わなかったんだ。悪戯心を出したばっかりに、ツェツィを傷付けた」


「だいじょうぶです」


「ツェツィに会わせたい人がいるんだが、会ってくれるか?」



 難しい顔をした後にフィリップス様はそう言って、私をとある部屋に案内するのだった。

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