第11話 フィリップス様の…

 連れてこられた部屋は、フィリップス様の寝室の隣にある部屋だった。


 フィリップス様が、鍵を開け入っていくので、私も中に入る。

 そして驚いた。

 フィリップス様と並ぶ女の人の肖像画と、同じ女の人の肖像画が壁中に飾られていたからだ。



「彼女の名前はクラウディア。俺の最愛だ」


 懐かしそうに目を細めながらそう語るフィリップス様。その瞳の奥に、激しく、だがとても切ない色の愛情が灯る。

 それもそうだろう、だって、私がこのお屋敷に来てから彼女にはお会いしてない。

 それの意味するところは…。


「クラウディアは、5年前に亡くなった。俺が17歳の時、結婚を来年に控えた秋の頃だった」


 私が何とも言えない顔をしているのを見ると、フィリップス様は苦笑して。


「ツェツィ、この養子縁組だが、君にばかり利点があるんじゃないかと思わなかったか?」


「おもいました」


「だが、ツェツィを養子に迎えることによって、俺にも大きな利点がある」


「けっこんしないですむことですか?」


「そうだ、ツェツィは賢いな。俺は、誰に何を言われようとも、クラウディア以外の女性を妻にするつもりはないからな」


「フィリップスさまもあくじきですか?」


「いや、俺は違う。でも、クラウディアのことはその姿を含め、全部愛している」


 見上げた肖像画に描かれているのは、意思の強そうな、少しつり目がちの大きな目をした美しい人だった。

 私が美しいと感じるということは、つまり。


「クラウディアのこと、最初は不細工だと思ったし、本人に言ってしまったこともある。だが、容姿なんてどうでも良くなるほど、その身に宿る高潔な魂に強く惹かれた。その有様に惚れた」


 だから、とフィリップス様は続ける。


「ツェツィも、外見だけに囚われるのはやめることだ。そんな事をしていると、いつか大事な物を取りこぼしてしまう」


「はい」


 自分が恥ずかしくて堪らなかった。

 美人に産まれたと思って浮かれて、それが前世のままの不細工な姿だったからと泣いて落ち込んで。


「俺みたいに小さい頃から美しいと周りからチヤホヤされて育ってきて、外見で苦労した事のない人間が何を言ってるのかと思うかも知れない。だが、俺はクラウディアと出会って、この世には見た目なんかより大切な物が沢山あると知った。いつか、ツェツィにもそんな出会いをして欲しいと思っている」


「ありがとうございます、ごめんなさい」



 私は、もう見た目に囚われるのはやめようと決意したのだった。

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