第9話 王都に着きました。

 家族とのお別れを済ませ、馬車に乗り込んだ私。

 馬車の中でも泣き止むことのできない私を、それでもフィリップス様は黙って見守ってくれていた。



「子豚ちゃん、着いたぞ」


「ぶたじゃない!」


 トラウマを刺激され、ガバッと起きる、いつの間にか泣き疲れて眠っていたらしい。

 そして、目の前にいた巨体、フィリップス様の姿に悲鳴をあげそうになるのをすんでのところで押さえた。

 危なかった、顔みて悲鳴上げるとか失礼極まりないからね。でも、寝起きにフィリップス様は刺激が強すぎる。心臓バクバクいってるもん。


 フィリップス様はクスクス笑うと。


「屋敷に着いたからおいで。皆に紹介しよう。あ、でもそのフードは俺がいいと言うまで取ってはいけないからな」


 コクンと頷き、フードを下げる。


 フィリップス様は、縦にも横にも大きいから、隣を歩くと威圧感が凄いな。失礼なことを思いながら、フィリップス様を眺めていると。


「どうした、子豚ちゃん。俺に見惚れた?」


「それはないです」


「こりゃ、手厳しい」


 そう言ってまた笑う。フィリップス様、いい男なんだよなぁ、外見以外は。

 あ、でもそれは私だけの話だから…ひょっとして、この世界でフィリップス様って物凄くおモテになるのでは?

 今更ながら気付いた事実に、少し震えた。



 フィリップス様は、ズラッと並んでお出迎えをしてくれている使用人の人たちに、私を軽く紹介してくれる。


「今日からこの屋敷で暮らすことになったツェツィーリエだ。訳あって今は顔を見せれん」


「よろしくおねがいします」


「あぁ、あとセバスチャン、エミール、フランチェスカは執務室にくるように」


 そう言うと、私を連れて執務室に向かう。



「さて。お前たち3人を呼んだ訳だが。子豚ちゃん、フード外していいぞ」


 フードを外すと、黒髪がこぼれ出る。残念ながら、私の目と髪の色は、前世と同じで真っ黒だった。

 髪は自然と視界に入るので分かったが、目の色は自分では見られないので、父か母、どちらかの色を受け継いでいればいいな、と期待を込めて質問したのだが、父に『ツェツィの目の色?髪と一緒の綺麗な黒だよ』と嬉しそうに微笑まれて撃沈した。


「まぁ……」


「なんと……」


「これは……」



 執事のセバスチャンさん(お名前と職業にテンション上がった)、メイドさんのエミールさんとフランチェスカさんが一言だけ発して絶句している。


 私が困ってしまい、フィリップス様を見上げると。


「ま、当然の反応だな。ヴィダから美しい美しいとは聞いていたが、ここまでの美貌がこの世にあるのか、と俺ですら思ったからな」


「えぇ?ならなんでツィーをぶたよばわりするの」


「はぁ?豚は最高の褒め言葉じゃないか」


「うそ!」


「こんな事で嘘つく意味がないだろう。ということは、子豚ちゃんっていう呼び方は悪口だと思ってた訳だ」


「うん。しつれいだとおもってた」


「なるほど。それはすまなかった。今度からはツェツィと呼ぶことにしよう」


 私たちが話している間に、3人は我に返り。


「危険、危険です、この美貌は危険です、旦那様!」


 セバスチャンさんに危険と3回も繰り返されたり。


「素晴らしい、素晴らしいですわ!こんな美しい方がこの世にいるなんて!」


 フランチェスカさんにハイテンションに褒め称えられたり。


「ありがとうございます!見ているだけで創作意欲がわく美貌なんて初めてです!」


 エミールさんに、謎感謝をされたりと、忙しかった。

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