第7話 さよならは言いません。

 ガタガタ………ガタガタ………



 今私は、フィリップス様と一緒の馬車に乗り、王都へと向かっている。


 あの後、フィリップス様も交えて、沢山お話をした。


 自分で言うのはとても恥ずかしいが、私の容姿が美しすぎるため、誘拐の危険にさらされないよう、誰の目にも触れないように育ててきたこと。

『そのせいで悪食になったけどな。』

 そう茶々を入れるフィリップス様の言葉に、両親が肩を落とすのが見えたので、睨みつける。


 それでも、いつかその生活には無理が来て、破綻することが目に見えていたため、容姿も優れていて権力もあるフィリップス様を頼ったこと。

 ここで、父が伯爵家のご子息だということが明らかになった。

 色々あって勘当されたので、元、らしいけど。


 養子縁組をする公爵様は勿論フィリップス様のことで、私はフィリップス様と細やかな決まりをいくつも作った。


 本当は、今でも両親の元にいたい気持ちの方が大きい。

 でも、気付いてしまったのだ。

 私が居ることによって、力ない両親にも危険が及ぶんじゃないかと。


 フィリップス様にこっそり尋ねたら、やはりそうらしい。

 私は、私と家族を守るために、フィリップス様の家の養子になる決意をした。



 フィリップス様の計らいで、お別れに1日の猶予ができた。


 私は、いつにも増して両親にベッタリとくっついて甘え、ヨシュアのことも構い倒した。


 両親は、私が産まれたその時から、この日のために準備を進めてくれていたらしい。

 そこには、何がなんでも我が子を守ろうとする、両親の暖かい愛情を感じた。


 朝。

 フィリップス様が乗る豪華な馬車が家の前に到着した。


 私は、両親にぺこりと頭を下げて。


「ぱぱとままは、さいこうのぱぱとままで、はなれていても、ずっとツィーのぱぱとままです」


 両親も私も、ボロボロと涙が止まらない。


「ツェツィ、フィルのことだから大丈夫だと思うけど、辛くなったら手紙を出すんだよ」


「私たちにできることは少ないけど、貴女のためなら何でもするわ」


 両親の無償の愛にハグで応える。


「ヨシュア、たくさんたべてねて、おおきくなるのよ」


 母の腕の中に抱かれるヨシュアの頭を軽く撫でて。


「ぱぱとままのむすめにうまれてしあわせです。だから、またあうときまでおげんきで」


 さよならは言わない。

 子どもの姿で両親と会うのは、きっとこれが最後。

 だから、私は精一杯微笑む。

 両親の記憶にある私は、幸せであって欲しいから。



「ツェツィ、元気で」


「身体には気をつけるのよ」



 両親のそんな言葉に頷きながら、私は外套のフードを目深に被り、馬車に乗り込んだ。



 おぎゃあ!おぎゃあ!


 普段滅多に泣かないヨシュアの泣き声が遠く聞こえてきて、私はあの優しい家族との生活に別れを告げたのだと、実感した。

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