第4話 認められないこと
「いや!ぜったいにいや!ツィーのぱぱとままはぱぱとままだけだもん!!!」
わんわんと、みっともないくらいの大声を上げて私は両親の腕を抱えて泣き叫ぶ。
「ツェツィ……」
ここまで言うことを聞かない私を見るのが初めての両親は、戸惑いを隠せないようだった。
何故こんなことになっているかというと、それは遡ること1時間前。
先日3歳になった私は、いつものように食卓につくと、違和感を感じた。
暗い、空気がこの上なく暗い……。いつも笑顔を絶やさない2人の顔は真っ白で、笑顔も引き攣りまくっている。
不思議に思った私は、つい聞いてしまったのだ。
それが、ここでの生活に終わりを告げるきっかけになるとも知らずに。
「ぱぱ?まま?どうかしたの?」
両親はハッとした顔をして、視線を交わす。そして、父が重い口を開く。
「ツェツィ、今から僕が言うことをよく聞いて」
真剣な父の表情に、コクン、と頷きで返す。
「ツェツィは、今日からパパとママとヨシュアとお別れをして、公爵様のお家の子になるんだ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。なんで、両親と弟と別れて、何も知らない人のところの子になるのか。
ショックで真っ白だった頭が、怒りで埋め尽くされていく。無茶苦茶に暴れてしまいたい気持ちをぐっと堪える。
でも、抑えきれない感情は涙となってボロボロとこぼれ出した。
そして、冒頭の台詞を吐き出すことになる。
両親の腕を死んでも離すものかと、ぎゅうぎゅうと抱え込み、わんわん泣く。
両親は、心底困ったという顔をしているが、これだけは譲れない。譲ってしまったが最後、ここから離れなくてはいけなくなるのだから。
「説得するんじゃなかったのか?ヴィダ」
突然第3者の声が聞こえ、体が跳ねる。
「フィル…。すまない、わざわざ迎えに来てくれたのに」
「気にすんな。それよかその子豚ちゃんか?お前の娘ってのは」
「ツィーはぶたじゃない!」
前世で散々苦しめられた、豚という言葉に思わず反論する。そして、声の主を見て驚いた。
焦げ茶の髪に、藍色の目の色が微かに確認できる程度にしか開かれていない小さな目、ペちゃんと潰れた団子っ鼻に、沢山の脂肪を溜め込んでいるその巨体。
「あなたのほうがよっぽどぶたよ!」
初対面の人に投げつける言葉ではないと分かっていたが、言葉は止まらなかった。
そして、自分が苦しめられた言葉を人に投げかけてしまった罪悪感で一杯になった私に。
「それは光栄だ、ありがとう子豚ちゃん」
その人はニタリとした顔でそう言ったのだった。
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