8秒

@toron999

8秒


8秒とは、バレーボールにおいてサーブを打つ際に

選手に与えられた時間であり、ルールである。


審判が笛を鳴らしてから

8秒以内にサーブを打たなければ

相手に得点される


だがそれを守るならばこの8秒は自由だ。

審判が笛を鳴らしてから8秒

笛と同時に打つのもいいし

8秒ギリギリに打ってもいい


バレーにおいて最高の時間だ。

この瞬間

バレーというチーム競技において


僕は1人になれる


相手のスパイクをブロックするでもない、

セッターのあげたボールを打つわけでもない

このポイント、このボールに伝わる最初の衝撃。


蝶の羽ばたきが嵐を巻き起こすが如く

これからのラリーがどれだけ続こうが

観客にボールが当たり救急車で運ばれようが

いきなり隕石が降ってきて地球が滅亡しようが

次の一点、これが決まるまでは

これからのサーブが全ての元凶だ。


審判の笛が鳴る、

全ての視線が俺を注視する。

意識しだすと鼓動が速くなる。

そのためのルーティーンだ。


相手コートのエンドラインをみる

視線を切り替え

目の前の自コートのエンドラインをみる

目を閉じて

手の中でボールを回転させる

条件反射のようにそのままボールを放り

目を開くと同時に踏みだす

目を閉じて投げたボールは

練習で幾百と見た

いつも通りの軌道を描いている

3歩の助走で踏み切り、高くジャンプする


5秒でおわる一連の動作

だが僕の8秒はこれで終わり。


さあ、蝶は羽ばたいたぞ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

8秒 @toron999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る