幕間IV「無くなる国」
その世界で最も重い罪を犯した彼らはもうその世界にはいませんでした。
12ヶ国代表、全員の殺害。
世界の中心に位置する高層ビルでの火災。
世界中は唖然とし、そして騒然としました。
『誰がこの国を仕切っていくんだ?』
何でもないただの一般人数人の発言が瞬く間に広がり、この世界を大きく動かしました。
民衆の目が行くのは代表の家族ですが、その家族に動きが無いのを悟り、自身達で考え始めました。
代々、その代表の血族が受け継いでいるのは、常識的な知識でした。
しかし、今回は異例。
代表が誰と指定する前に亡くなっているからです。
遺言があればその者になりますが、歴代の代表は病や寿命で倒れるギリギリまで指定をしませんでした。
その異例に相まって、代表全員の殺害という世界初の犯罪。
過去、1ヶ国で代表が民間人の1人に刺殺され、帰らぬ人となった事件がありましたが、その時は他国と共に会議を開いて、次の代表を選んでいました。
その刺殺した民間人の1人が家族諸共全員処刑された後、新たな代表がその座に着いていました。
それ以降、国の代表はボディーガード数名を連れ添うようになりました。
しかし、今回はどうでしょう。
ボディーガードは全員殉職し、誰が殺したのか不明、国を仕切る者は居ない、受け継ぐ者は居ない。
その世界にとっての、暗黒期が迫る状態でした。
「代表が居なくても我々でやって行けるだろう」
「代表が居なければ国の未来が分からない!」
各国内がそれぞれの派閥に別れていきました。
それでいてそんな時に、元々の彼らの国の在り方が未来を導く後押しをしました。
この世界の国々は軍事力がありませんでした。
銃はあれど、その存在を知るものは一般人で居ません。
『戦争』を知らない彼らは話し合いでこれらの話に結論を導く為に頑張り始めます。
話し合いが進み、国内で対立すると終わらないので、国民を移動させようという話になりました。
各国で多数決を取り、多い同じ意見を持つ者を国に残し、少ない別の意見を持つ者は国を離れるという事で決まり、自然と12ヶ国あった国は大きく2つに別れます。
同じ意見を持つ者が集まる事で、対立で進まなかった自身達の望む新しい国を目指し始めました。
1つは、話し合いで方針を決め、多数決を取り、多い方を優先する国。
1つは、様々な分野毎の代表を決め、各々が1つの事に尽力する国。
互いが思うような国になり、結果的に正解だと民衆は喜びました。
その更に結果、1つの国は滅んでいきました。
その国は多数決をとっていた国。
話し合いで決める時にやはり賛成派と反対派で意見が別れる事が多々あり、それでも多数決の意見が参照されるので、国の方針は人によっては良いところもあれば悪いところもあると目に見えて分かるほどに、国の進路はガタガタでした。
そして誰かが言いました。
『多数決で少ない方を殺すか、追い出すか』
その件以降、その国の人口はみるみる減っていきました。
その多数決の結果は少ない方を殺す。
それ故に、その国を脱出する者や多数決に敗れ死んだ者が溢れ、6ヶ国分の人口は1ヶ国分の半分にも満たない人口になって行きました。
国を脱出した人間も居ましたが、別の考えを持った国からは受け入れられず、そのまま国外で野垂れ死にになっていました。
人口が減った事で経済も物流も何もかもが回らなくなり、少なくなる物資を得る為に、次第にその国の人は話し合いではなく、殺し合いに──国内戦争に発展しました。
そして、あまりに殺す事に慣れすぎた彼らは、次から次へと殺して、その果てに傷からの感染症や致命傷で命を落としていきます。
国の人口が2人になった際。
1人が勝ち、1人が死にました。
その時、勝った1人がその国全ての権限を得ました。
食べ物も、服も、建物も、土地も、金も、技術もあらゆるものが勝者だけを受け入れます。
その勝者が最初に得たものは自殺による自由でした。
それと同時に、この国は亡くなりました。
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