第13話「新しい知識世界」
美雪がクスッと笑うと、イアは呆気を取られました。
「ごめんごめん、真剣な内容話すからそれっぽく振る舞ってみたんだけど、イアちゃんが思った以上の事返して来たから思わず笑っちゃった」
目付きも口調も穏やかで、良いお姉さんみたいな雰囲気に美雪は戻っていました。
「でもイアちゃんが積極的に知ろうとしてくれたのは嬉しいよ。何せちょっと複雑だから」
美雪は紅茶を口に運びます。
「まず、私達のことから話すね。私達は無所属の自由な組織『ノーネー厶』っていう集団。メンバーはここに住んでる皆なの」
「ノーネーム…」
「『no name』、無名って意味だよ。そしてここに居る皆は別の時代、別の地域で育って、ここに集まってる」
そこでイアは話の内容的におかしな部分を口に出しました。
「え、別の時代ってどういう…」
「ははは!確かに外の世界を知らない人はそうなっちゃうもんね。私もそうだった。この世界は不思議なの。過去、現代、未来に隔たれてて、同じ世界なのに交わりもしないし干渉もしない不思議な世界。現代って言っても、それぞれが現代だから基準を設けてこういう世界は○○って決めてるけどね」
イアは静かに驚いていましたが、続けて美雪の言葉に耳を傾けていました。
「だから、私達は別の時代からやってきたメンバーが集まってる。ちなみに私は現代だよ」
「でも別々の時代に生まれて育って…どうして集まれたんですか?」
「次の話にも繋がるんだけど、《罪の炎》っていう特別な力を持った人がここには集まってる。私は持ってないけど、光くんの付き添いだね。どうして集まれたかは…ちょっと今話すと複雑だからやめとく」
「纏めると…メンバーそれぞれが別の時代、地域出身で、特別な力を持った人が『ノーネー厶』という組織に集まってる…で大丈夫ですか?」
「うんうん、合ってるよ。メンバーのプロフィール後で書いてあげるから、今は良いかな。えーと…次は《罪の炎》の事だね」
「罪の炎……」
あまりに聞きなれない単語にイアは口に出します。
「《罪の炎》っていうどういう経緯で宿って、何が進化のトリガーなのか、まだまだ分からないことだらけの力。でもその能力と名前は分かってる。『七つの大罪』って知ってるかな?7つの死に至る罪、罪の源とも呼ばれる時あるらしいけど、私はよく知らない」
「七つの大罪…」
美雪は頷きます。
「文字通り7つの罪、《憤怒の罪》《嫉妬の罪》《傲慢の罪》《強欲の罪》《色欲の罪》《怠惰の罪》《暴食の罪》それぞれの罪が左眼に炎として宿ってる。それぞれに個々の能力が備わってて、私たちの戦術を広げてもくれる。その中でも1つの罪の中に位があるらしいの」
美雪はイアに分かりやすいように、メモに図を書きなが喋り続けます。
「《罪》《大罪》《極罪》ってなってて、進化する毎に力も強くなって、極罪にもなれば本人は炎が無くなっても罪の力を保有したまま、他人に炎を継承出来るようになるの。けど、継承された人の罪の力は初期の状態に戻っちゃうけどね」
「つまり、元々持ってた人が継承する事で、自身と同じ力を持った人が連なって増えて行くんですか…?」
「そう、力は宿り続けるし継承することで炎は受け継がれ続けて途絶えない。ここに居る人の継承はされずに突然宿ったから、もしかしたら何か他の条件もあるのかもしれないけどね。私は2世代までしか見た事ないから、知識も少ないかな」
「………」
「初めて説明受けたのに、理解が早くて凄いなぁ。私は光くんに説明されても微妙だったけど」
「いえ…図を書きながら説明してくれてるので、とても分かりやすいです。あと、極罪?になったら誰かに継承しないと行けないんですか?」
「いや、別に継承しなくてもいいみたい。けど継承した方が自由にはなるかな」
「自由?」
「宿したまま戦い続けてると、人だから普通の生活が欲しくなるんだって。だから身代わりと言うと誤解を招くけど、継承して役目を終える。今ここじゃ2人…いや正式には3人が継承されて、その継承した人達はここには居ない。各々の家庭を持って、生活してる……」
すると、「ん?」と言い美雪は頭を抱えて、何かおかしいな点を振り返っていました。
「そうだった…イアちゃんが《色欲》を持ってきたって事は…4人………いやでも…継承されてって訳でも…」
「美雪さん?」
美雪はバッと顔を上げると、こう質問しました。
「イアちゃん。暗めの紺色で長い髪をした背の低い女性知らない?」
「暗めの紺色で長い髪の女性……?」
「知らない………?」
イアも頭を捻って、頭の中で探しますが、
「ごめんなさい…知らないです」
イアは知りませんでした。
「あちゃー!でもまぁ仕方ないか…。あっ、そういえば、イアちゃんの罪の炎が《色欲》と《慈愛》って言ってなかったね」
「色欲…慈愛……?ん、《慈愛》って七つの大罪に入ってませんよね?」
美雪はうんうんと首を縦に振ります。
「先に《色欲》の説明からね。実は《色欲の罪》って、ここ10数年行方が不明だったんだ。元の持ち主が突然消えてしまって場所も分からなくて、だから空席があったの。その力は『体を癒す』とか『病気を治す』、『強い免疫力を付与する』とかの基本的に治癒回復が多い能力で、私達がもし怪我をしても元通りに治しちゃうからその力は凄い偉大だったの」
美雪はまた別にメモに書き始めます。
「すぐに戦いに行けたし、色んな世界を回った。居なくなってからは自然治癒に任せてたけど、でもそれと同時に戦いも高速治癒も必要も無くなってきてね。今がある感じ」
「……今美雪さん達がやってる事って言うのは何かと戦う為にここに居るって事ですか?」
「そうそう、後で話すつもりだったけど、今ついでに軽く話しちゃうよ。私達は私設軍隊とか闇組織とか色々なその世界にとって害になる存在と武力行使して戦ってる…と言っても目的がある訳でも何かが欲しい訳でもないんだ。ただ力の使い方を私達が思う良い方向に使いたいって話なんだけどね」
「じゃあ…隠れて世界を守ってる…そういう事ですか?」
美雪は静かに頷く。
「戦ってると怪我もする…だからイアちゃんの持つ《色欲の罪》の回復能力って凄い助かるんだ」
「なるほど……」
「あとイアちゃんが気付いた《慈愛》ね。《慈愛の罪》は七つの大罪に属さない別の罪で、慈愛と同じくしてもう一つ別の罪があるんだ、《粛清の罪》って言うんだけど…今回は慈愛だけ話すよ。この2つはまた別の存在で七つの大罪は左眼に宿るけど、この2つは右眼に宿るんだ」
「右眼…?私は今左眼に《色欲の罪》右眼に《慈愛の罪》をそれぞれ宿してるって事ですか?」
「本当に理解早いねイアちゃん…慣れてる?」
「こういう話は初めてですよ…」
美雪が茶化すとイアも困惑気味に返しました。
「ははは!とりあえず右眼に宿る力は七つの大罪とはまた違う力も持ってる。《慈愛の罪》は確か…《色欲》と違って中身を癒す系が多かったはず…心、疲れ、ストレス、ものによっては地道にやれば治るとか休めば治るものだから使用頻度は低いけど、力は凄いから持ってて損は無いって感じかな?」
「中身を癒す……」
「つまり今のイアちゃんは、心身共に癒す事が出来る能力を持ってるの。あと、《色欲》は自分にも使えるのかな?昔だからあまり覚えてないけど、ビックリするよ、その能力の凄さ…でもイアちゃんこれ使う時って事は何を見て何を感じるかわかる?」
「何を見て、何を感じる…?」
「生々しい話だよ、良い?」
「──はい」
「傷、血、筋肉の繊維、血管、骨、内臓を何があってもそれを直視して治してあげないといけない、人の中身を見ることに慣れないといけない…そして、人の愚かさ、醜さ、発狂、絶望、混乱にもそれを見ても自分を強く持つ必要があるの…慣れてないと吐き気とか酷いと精神汚染にも繋がることがあるから、とても辛い位置に立つ事になるの…無制限で強力な回復能力はお医者さんみたいに強い意思と耐性を持たないとダメなんだ…それでも我慢して出来る…?」
「─────…」
それを即答してハイと言えるのは、まず居ないであろうあまりに本来縁のない光景を目の当たりにするのだから、イアが黙ってしまうのも当然です。
普通に生きてるだけならば、擦り傷や血など軽傷な程度のものしか目の当たりにしないのに対して、ここに居るということはそれらを見る可能性が大いにあるからでした。
「イアちゃん」
美雪の声にイアは静かに反応します。
「確かに見慣れないものを見るのは抵抗があるし、自分もそうなってしまうんじゃないかって、そういう思考にもなっちゃうけどね…大丈夫だよ。しっかり私達が貴方を支える、守ってあげるし、許してあげる。だから心配しないで」
「──……」
イアはやはり話を聞いた時に想像をしてしまったらしく、恐怖心がありました。
でもさっきの美雪の慰める言葉をイアは初めて聞いた筈なのに、再度その言葉を聞いた事がある記憶がありました。
そしてその記憶は何か強い想いで1つに染まったあと、「はい」と答えていました。
「……」
イアはその強い想いがなんかのか、考えました。
この人達に貢献する為なのか、多くの人を救いたいのか、自己満足なのか、何か目標があったのか、誰かの為になのか、色々と考えました。
けれど、脳裏に浮かんでいた記憶は徐々に感情まで憑依し始めていました。
それがなんなのか分かりません。
しかし、イアの右眼からは涙が1つ、頬を撫でていきます。
その時、答えを得ました。
そして答えを得た時には、それは泡沫のように消え、ただ答えだけが残されていました。
「イアちゃん大丈夫…!?ごめんね、やっぱり辛いよね…」
「いいえ……美雪さん、私頑張ります…。後、『我慢出来る?』に対しての返答ですけど…」
イアはその答えとそれに繋がるものを連想して、答えます。
「はい。我慢するんじゃなくて、やります。やってみせます」
それを聞いた美雪は拍子抜けした顔をした後、笑顔になってこう言いました。
「ありがとう、しっかり支えさせてもらうね」
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