幕間I「英雄」
私は吹っ飛ばされた後、奴を狙い走って戻ったが居なかった。
端末を見ると『リタイア』の文字が3つ並んでいた。
普通ならこのゲームでリタイアなんてしない。
チャンピオンになって、願いを、権限を得る為に腕が無くなろうとも目が見えなくなろうとも、チャンピオンを目指すものだった。
奴らは強かった。
なのにリタイアをして、このゲームを辞めた。
腹が立った。
強くありながら、その力で願いを、権限を得なかった。
奴らは既にそれを持っていながら、参加し、チャンピオンを倒す事でゲームを壊しに来た。
しかし、私がチャンピオンを倒した事で奴らは何もせずとも目的を果たし去っていった。
これじゃあ、奴らに加担したのと同じだ。
つまらない、先程の奴らと同じ強さの奴はまだいるのか。
そうでなきゃ、このゲームは思った以上に簡単だ。
«チャンピオンが決定しました»
簡単だった。
まるでそれは報われたような、幸福感だった。
血に濡れた私は英雄となった。
今頃あのスタジアムは騒然としているか、熱狂しているだろう。
しかし、何故満たされない。
沢山の男を屠った。
中には私を汚らしく抱いた男、孕ませた男だって殺った。
復讐はとうに完遂したはずなのだ。
なのに、何故これほどまでつまらないのか。
あぁ…強いヤツに会いたいんだ。
望むことを、望む権限を得られる私にはまず…
『このゲームを壊す』ことを考えた。
そうすれば、奴らはまたやって来て私を殺しに来るだろう。
戦いながらゲームを壊し、権限を持ってこの世界を壊す。
私は真の英雄になるんだ。
歓声で満たされるそのスタジアムの屋根に彼らはいた。
「あれでよかったのか?」
ウェットスーツのようなものを着て、1枚パーカーを羽織った赤髪の男は言った。
話しかけたのは黒いコートにフードを被った男だった。
黒コートの男は静かに頷くと、とある名前を口にして労った。
「うわっ!?懐かしい言葉出てきたな…。今思うと恥ずかしいわ」
赤髪の男は黒コートの隣りに座った。
「──全く、久々に姿見せたと思ったら頼み事だ。しかももう戦ってないのに老骨に無理言うな」
黒コートは溜息をついた。
「悪かったよ、農業で生計立ててるから体は丈夫だ。勘は鈍ってるかもだけどな」
2人してスタジアム中央のモニターを見る。
「お前が大分昔に言ってた『神殺し』で使われてたスーツじゃないのか?あれ。あんなもの人が造ったスーツじゃそうそう太刀打ち出来ないぞ」
黒コートは呆れた様子で赤髪の男を指差す。
「いやいや、《極罪》あってのカウンターだ。一対一の正面からなら多分圧倒されて終わる。それと話は変わるが」
赤髪の男は黒いコートの手を下ろすと、言った。
「お前ん家の家庭はどうだ?幸せか?久々に会ったんだ。そういう話でもしよう。うちはまぁ子供も大きくなってきて、そろそろ独立って時期かな。妻もなんだかんだ元気だ。お前は?」
黒コートの男は赤髪の男から視線を外すと、淡々と語った。
「そっか、大変だな。手伝える事あれば手伝ってやる。と言ってもうちは農業手伝って欲しいくらいだけどな!はははっ!」
赤髪の男は立ち上がると、そのまま振り返りスタスタと歩いていった。
「とりあえず、お前の望みに準ずるように動くよ。俺にも利益が有り得る話だからな」
赤髪の男は一瞬にしてこの時代から消えました。
黒コートも遅れて立ち上がると、この時代から消えました。
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