第22話 メッセージ
「今日は本当にありがとうございました。えみさんのお陰で街を知れたし、楽しかったです。また一緒に散策してください。」
スマホに来たメッセージを何回も読み直していた。
私はずっとベッドの上で相変わらずボーっとしていた。
公園のベンチをあとにしてから相変わらず城君は撮影の話をしていた。
連絡先を聞かれるかも、と期待していた私は、急に自分が恥ずかしくなった。何を期待しているのか。バカみたい。案の定、何も聞かれなかった。
そうだよね。まだ会って2回目の、よく知らない一般人のおばさんと連絡先を交換しあうなんて普通はしないよね。
これが最後の城君なんだ。私は自分に言い聞かせていた。もう会うこともないだろう。これから先は今まで通り、テレビの中の人に戻るんだ。ちょっと胸がズキンとしつつも、城君の話に笑顔を作りながら相槌を打っていた。
「すみなせん、僕戻らないといけないので、ここで。今日は本当にありがとうございました。無理言ってすみませんでした。」
「いえ、どうせ暇してましたし。」
上手い言葉が見つからない。
「連絡先、交換してもいいですか?」
え?え?え?待って。今なんて言った。これは幻聴か?
「あ、唐突にすみません。迷惑ですよね?」
「い、いえ。迷惑なんかじゃありません。私なんかと、一般人と連絡先交換してもいいんですか?マネージャーさんとか事務所の人とかから怒られたりしませんか?」
城君は笑った。
「大丈夫ですよ。そんなに監視されていません。それに僕、売れてないし。事務所には有名な先輩俳優が沢山いますから、結構自由にさせてもらってます。」
私は不慣れなQRコードの読み取りをして、城君と連絡先を交換した。
それでもまだ疑っていた。
街案内をしたから、社交辞令で連絡先を交換したのだろう。きっとすぐにブロックして削除するに決まっている。
何年も恋愛から離れて、男性不信になっている40過ぎの女は、素直に受け取れないものなんだ。
それなのに、、、。それなのに、城君は分かれたあと暫くしてからメッセージを送ってくれた。
それだけでも驚きだったが、「また一緒に散策してください」ときたもんだ。
今時の若い子の感覚が全く分からない。
社交辞令のはずだ。
俳優だから、裏の顔があるはずだ。
一般人に街案内をしてもらったら、礼儀としてそりゃあお礼メッセージくらいするだろう。
そして、ファンになってもらうために「また一緒に散策してください」と気を持たせるような甘い言葉を送るんだ。
1人で舞い上がって、1人で落ち込んだ私は、それまで返信の文章を一生懸命考えていたが、
「ドラマの放送、楽しみにしてます」
とだけ打って、送ったのだった。
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