第21話 夢か現か

あれは夢だったのではないだろうか?

ベッドの上に腰かけて私はボーっとただ前を見つめていた。焦点は合っていない。


181cmの長身の城君が私の隣を歩いている。時々笑顔を見せている。マスクはしていたが、目尻の皺で笑顔になっていることが分かる。

撮影場所から近い穴場のカフェや昔ながらのパン屋、最近できたお洒落なパン屋(ベーカリーと言うべきか)、古書店、雑貨屋に小さな公園などを案内しながら、途中にあるテイクアウトのコーヒーショップで城君はホットコーヒーを、私はさっき喫茶店で飲んでいたのと同じカフェオレをテイクアウトした。

「僕が払います。」

そう言って、城君の奢ってくれたカフェオレを飲みながら、近くの小さな公園のベンチに二人で座った。


「やっぱり地元の人は詳しいですね。穴場を沢山教えてもらえてありがたいです。」

「いえ、こんなことしか出来なくて、なんかすみません。」


「えみさんはこの街が好きですか?」

「あ、はい。大好きです。大好きでこの町で3回くらい引っ越しをしてます。」

「へぇ!それは凄い。大好きなんですね。」

そうだ。私はこの小さいな、こじんまりとした街が好きだった。地方から出てきて初めて住んだ東京の街。途中で違う街に引っ越しをしたりもしたが、やはりこの街に戻ってきてしまう。第二の故郷と言っても過言ではないだろう。

そんな大好きな街を、私が今住んでいる街を、憧れの大好きな城君と二人で歩いている。そして城君は私の隣に座っている。


男性が私の隣に座って話をするなんて、何年ぶりだろうか?

それだけもう十分過ぎる。カフェオレの味なんか全く分からないくらいドキドキしていた。


城君は嬉しそうに自分が初主演する、現在撮影中のドラマの話をしていた。ドラマの話をしている城君はとても嬉しそうで、本当にキラキラしていた。


「えみさんも是非ドラマ見てください。もう放送されているんですが、今週はまだ3話目なので。遅い時間帯なんですけど。」

私の名前を言ってくれた!さっき名前を教えたばかりだが、男の人から名字以外の名前で呼ばれるなんて元彼以来かも知れない。


「はい。面白そうですね。絶対見ます。」

ごめんなさい、嘘をついて。もう見ているよ。知ってるよ。

「ドラマを見たら、感想を聞かせてもらってもいいですか?」

「え?」

あ、つい言葉になって驚きが出てしまった。

感想?感想を述べるってことは、また会うってこと!?

そんな期待させるようなこと言わないでよ。

ただでさえ舞い上がってるっていうのに、倒れちゃうじゃない。

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