第20話 再会

ドラマの初回の次の日、私は城君と偶然隣り合わせた行きつけのカフェに来ていた。勿論、下心はある。また会えるのではないか、という下心。


今日もカフェ、否。ここは喫茶店と呼ぶのが相応しい。70過ぎのマスターと奥様が経営している昔ながらの地域密着型の喫茶店だ。

私はこの雰囲気が大好きだ。

若者はいつもいない。

老人だけの憩いの場。

でも私は一人でいつも通う。

それをマスター夫婦が優しく迎え入れてくる。居心地抜群なのだ。


今日も賑わっているなぁ。

いつも決まって座る指定席に腰を下ろした。


アイスコーヒーを頼んで待っている間に、ミステリー小説の続きを読み始めた。

私は集中すると昔から周りが見えなくなる。長所でもあり、短所でもある。


「トントン。」

また誰かに肩を叩かれた。相手を見る前に、下に何か落ちていないか一瞥したが、落とし物ではなさそうだ。


肩を叩いた相手に振り向くと、そこにいたのは、な、な、なんと城君だったのだ!!!


「僕の事覚えていますか?」

「あ、はい。先日はありがとうございました」急いでイヤホンを耳から外した。

「ここにはよく来るんですか?」

「あ、はい。雰囲気が好きで、なんか居心地がよくて」

「確かに、ここは居心地がいいですね。若い人はあなた以外見かけませんが」


『若い人』という言葉に脳が反応した。

城君は私を、17歳年上の私を『若い人』と言ってくれた!天にも昇るような気持だった。


私は城君のことを一切知らないふりをした。

卑怯かもしれないが、城君のファンであることを知ったら城君は私と距離を置いてしまうだろう、という考えが横切ったのだ。


「このあたりにお住まいなんですか?」

「あ、はい。5年くらい。地元は東京じゃないんですが」


「実は僕も東京出身じゃないんですよ。この辺りは詳しくなくて。仕事で来ているだけなので。散策してみたいとは思っているんですが」


城君が静岡出身て知っているよ。調べたもん。心の声が自慢気に囁いている。


「あの、もし迷惑じゃなければこの街を案内して頂けませんか?御代は払うので。」

「決して怪しいものではありません。」

「僕、一応俳優をしてまして。今回この街に来たのも撮影でなんです。初めての主役で。だからもっと勉強しないとって思って。まずはこの町から知ることが重要かなと思ってまして」


「え?俳優さんなんですか?ごめんなさい。私、アイドルやら俳優に疎くって。全然気が付かなくて、申し訳ありません!」


あ、私こんな演技出来るんだ、と自分でも驚きつつ、嘘が簡単に口から出る。


「いえ、気にしないでください。まだまだ売れない俳優ですから。知らなくて当然だし、知らない方が安心して案内役を頼めますから」

「案内、いいですか?迷惑だったら断ってくれて大丈夫ですから」


「いえ、迷惑だなんて。実は今丁度休職中でして。暇を持て余してるんです。大丈夫ですよ。色々案内出来ます。」


「今からとか無理でしょうか?」

「い、今からですか?」面食らったけど、これを逃しては今度いつになるかは分からない。化粧もバッチリではないし、本当言うと今日じゃなく、しっかりメイクしてお洒落した時のほうがいいのだが、そんな悠長なことはいってられない。


これは神様がくれたチャンスなんだ!

「今から大丈夫です。じゃあ行きましょう」

私は城君と一緒に喫茶店をあとにした。

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