第16話 張り込み?

期待をしながら、撮影場所からすぐ近くの公園のベンチで時間を稼いでいた。

張り込み開始だ!


午後6時から既に20分経っている。

仕事帰りであろう人々が家路を急いでいる。

誰も撮影隊を気にしてはいない。

流石都会の人は違うなぁ、と都内に住んで早17年くらい経っているのに、心は田舎者の私は感心する。


スマホで時間を潰してはいるものの、冷たい北風が身に染みる。

スマホで天気予報を確認すると、明日は今季一番の冷え込みとなっていた。雪が降る可能性も、と。通りで寒いはずだ。身に堪える。


○○レストランに撮影隊が入っていき、準備をしているのが、公園のベンチから見えている。


もしかしたら役者の入りはまだまだ先なのだろうか?

お腹も空いてきた。


撮影隊のスタッフに怪しまれていないだろうか?ちょっと心配になってきた。

ファンらしき人は人っ子一人いない。

なんだか心細いな。


 午後7時半。なんとか1時間半待ってみたが、城君が来る気配はなかった。

私は寒さに耐えかねて、結局アパートへと戻った。歩いて2分だから、夜中にまたチェックしにいけばいいのだ。


結局アパートに戻り、すっかり疲れた私は、直ぐに化粧も落とし、部屋着兼パジャマに着替えた。こなったらもうダラダラモードだ。


撮影はまだまだこれから先もあることだろう。何も今日に拘ることはないのだ。

それに万が一、城君を見かけたところで「城くーん!」なんて呼びかけることは私には出来ない。恥ずかしすぎる。出来ればもっとギャラリーがいて欲しい。「城くーん!」と誰かが叫んでくれたら、それに乗じて私は手を振ろう。


私一人っきりだったら?

勿論、何もできない。だったら待ち伏せしてる意味は全くない。


私は妄想していた。

ファンとして、撮影現場に来ている私が彼に顔を覚えてもらったとしても、なにか嫌だ。

よく言うではないか。芸能人と結婚した一般人は、ファンとして接近は絶対にしないと。いわゆるプロ彼女ってやつだ。知らないふりをするのが一番いいのだと。


うーーーん。私は思い悩んだ。ファンとして覚えてもらうか?それとも偶然を装って出会うべきか?


いやいやちょっと待て。まだ会ってもない、否、見かけてもいないのに、そこまで考えている私はおかしい。


けど、無理して撮影場所に張り込みをするのはもう止めようと思ったのだった。

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