第二章

第12話 美容院は玉手箱

「お久しぶりですね。今日はお仕事お休みですか?」

2年前から通っている美容院の担当者から、そう声をかけられた。


3か月ぶりに髪をカットしに来た。白髪は酷いので、白髪リタッチ専門店で染めていた。美容院で染めるより財布に優しい。

無職になってからカットは3か月に1回くらいにしている。何事も節約のためだ。

ショートボブのため、カットの間隔を空けすぎるとボサボサになってしまうので我慢して我慢しての3か月なのだ。


「今日は有休なんです。」

嘘をつく。

平日の昼間に髪をカットしに来てるのだから、仕事休みなんて当たり前ではないか。私はこの当たり前の質問をする美容師が大嫌いだ。

でも通っているこの美容院の担当者はカットも上手いし、話も合うので好きなのだが、やはり嘘をついてしまった。

「今、無職なんです。」

なんて言いたくもない。


当たり障りのない会話をしているうちに、カットが仕上がった。

「いかがですか?」

後ろに鏡を当てて、後部のカットの仕上がりも見せつつ質問してくれた。

うん。申し分ない。綺麗さっぱり。やはりこの美容院が一番しっくりくるな。


毎日部屋でダラダラしている無職の私の久しぶりの気分転換は、気持ちの良いものだった。


「ありがとうございました。」

見送られながら、私は心が軽くなるのを感じつつ6畳の狭いアパートの帰路についた。


アパートに着いてから、私はスマホをチェックした。

城君のSNSのチェックだ。

美容院では出来なかった。覗き込まれるわけではないが、見えてしまったら恥ずかしいと思い、城君チェックが出来なかったのだ。


城君のSNSの更新の頻度はかなり低い。しかも投稿したかと思えば、短文で画像もあまり載せないタイプなので、ファンにとってはかなり寂しいものとなっている。


お?10分前に更新されている。ラッキー。

城君は何を投稿したのかな?


「今日は久々に髪を切りに来ましたー!担当のKさんと。」

担当の美容師らしき人物とツーショットの写真を載せている城君。


え!?え!?同じ日に、しかももしかしたら同じ時間帯に美容院に行ってたの?

凄くない!?

もしかしてこれって運命!?


ずっと恋をお休み、否、二度としないと決めているはずの私がこんな些細なことで運命だ、と言ってること自体がバカげている。

それでもいい、今はバカになろう。

しかもこれは恋ではないのだ。若手俳優を育てているような感覚で城君を見ているのだ。


「ん!?」

よくよくその画像をアップにして見てみると、美容院の店名の最後の1文字が鏡に反射して映っている。


城君は26歳。若者が、しかも若手の芸能人が通う美容院は恐らく表参道、原宿、青山辺りかしら?私の探求心が疼き始めた。

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