第1440話 亀さんの終着点。まさかの60層目にご到着!
俺のアドバイスを受けた新メンバーはもう誰が見ても分かるほどに見る見る成長していった。
「ゼフィルスさんはさすがは現役の先生ね。教えるのが上手いわ。私もちょっと分からないところがあるの。教えてもらえると嬉しいわ」
「いやぁそれほどでも~。もちろんタバサ先生の頼みならなんだって聞いてあげるし、なんだって教えてあげるぜ!」
「頼もしいわゼフィルスせ・ん・せ・い♪」
時にはこうして誰かに臨時授業? することもある。
俺の先生としての腕は、こういう時のために磨いてきたのだ!
タバサ先生に褒められて、俺はとても気分が良くなった。
しかも、これはタバサ先生だけでは終わらない。
「……ゼフィルス、私も教えてほしいことがあるのよ」
「あ、シエラダメよ。次は私の番よ!」
「ゼフィルスさん、指揮のことでちょっとご相談をさせてほしいですわ」
「あの私も、ゼニスとの連携についてなのですが――」
あっという間に大人気。待て待て、順番だ。ちゃんとみんなに分かりやすく教えてやるからな。
ふははははは!
そうしていると時間が経つのも早いもので。
「もう良い時間ね。そろそろ戻りましょうか」
「だな。――みんな、撤収準備だ! 最後のモンスターを倒したら速やかに階層門へ向かうぞ!」
シエラの言葉に俺も頷いて進行方向とは逆のフィールドの端にある階層門を指さした。そこにあるのは俺たちがこのダンジョンに来るときに入って来た門。
実は入ダンし亀さんが歩き始め、俺たちがモンスターとバトルしている間もずっとそこにあったのだ。
〈亀ダン〉は他のダンジョンと変わっていて、階層門はこの1つしか無く、地上と繋がっているのでいつでも途中で帰ってもいいダンジョンなのである。ショートカット転移陣なんか無く、再度入り直したら続きからスタート出来たりするぞ。
つまり25ウェーブを倒して帰還したら。次入った時は26ウェーブからスタートできる、ということだ。
なお、これは参加メンバーが全て同じでないと起こらず、1人でも欠けていたり、もしくは増えていたら1ウェーブからやり直しになるので気をつけろ。
また、ウェーブ中(モンスターが残っている間)は階層門が閉まっているため、インターバルの合間じゃないと帰れないことも覚えておこう。
放課後は新メンバーたちも自分のクラスのことがあるだろうから平日は週に1日か2日くらいのペースでダンジョンに潜り、2ウェーブから3ウェーブを撃破、土日は丸々使わせてもらい、8ウェーブから10ウェーブ戦ってもらう。
最初の頃は1時間掛かった戦闘も、今では45分と少し短縮できているな。
ウェーブが進むほどモンスターは強くなっているというのに、俺たちの撃破スピードが早くなっているというのはそれだけ連携力が強まっている証左だ。
一番時間の掛かるボス戦については……あまりタイムが変わってないように見えるのは、すでに極めているからなのかな?
でも新メンバーやラムダ、ミュー、ハク、アイシャはボス戦もかなり早くなったように見えるよ。
複数体ボスが登場したときなんかの対応力も上がった。
守護型、徘徊型とエリアボスがバッティングしたとき、ボスが2体になるのだ。
基本的にそれぞれにパーティを送って対処するのだが、最初はみんな結構動揺していたよ。
後はレアイベント。
これも特殊で、まず発生がランダムだ。
何しろレアだからな。特定の条件をクリアしないと現れない、とかじゃなくて本当に気まぐれでボスが登場するという感じ。
しかもそれがインターバルの間に現れて10分以内に倒せなければ帰るというのだから中々に厳しい。とはいえ相応にHPも低いのでなんとかなる。
ウェーブが終わる度に毎回警戒していると、3週間で3回も遭遇した。
もちろん3回とも撃破したよ。ラナ、ニーコ、ノーアのコンボ、これが凄かった。
凄まじく凄かった。もう凄いとしか言えない。〈金箱〉バンザイ!
そうして3週間ほど、みっちり連携を磨いたところ、最奥に着く頃にはみんなのたくましさが増しているように感じた。
「ついに60層目に挑むのね。そういえばゼフィルス、最奥のボスはどうするの? 6人以上で戦えないのよね?」
ラナの瞳は、ここで戦うなら
だが、そうはならないのだ。なぜなら。
「! 亀が速く動き出したよ!?」
「お薬まだ効いている時間なのに!? って何あれ?」
「え? なんか見えてきたよ?」
59ウェーブを倒した途端、サチ、エミ、ユウカの言うとおり、なんと亀さんがまだ〈鎮静の秘薬〉が効いている時間なのに急にスピードを上げたのだ。
しかも今までだだっ広い荒野でしか無かったはずのダンジョンに、なにやら巨大で切り立った山が進行方向に現れる。
その姿はまるでエアーズ・ロック。いやアレよりもだいぶ小さいサイズだけどな。
そして亀はその山の脇へ進むと完全に停止する。
それはまるで、終点、終着駅とでも言わんばかりの対応だった。
丁度山と亀の背中の高さが同じなのは仕様だ。ここで降りろということなのだ。
「ここで降りろ、ということなのかしら?」
「ええー、これ他の挑戦者とかどうなっちゃうの? いや、前から思ってたけど」
「ゼフィルスさんの話では、乗る亀さんが違うらしいですよノエルちゃん」
タバサ先生が可愛らしく首を傾げ、ノエルが素朴な疑問を口にする。
以前誰かに話したのを覚えていたラクリッテがノエルに教えていたな。
そう、このダンジョンは他のダンジョンとは違い、サーバー管理されているダンジョンなのだ。
俺たちが乗る亀さんと別の人たちが乗る亀は別物らしく、別のグループが俺たちと同じフィールドに参戦してくることは無いし、俺たちが最初に入っていても別グループは追い抜いての攻略が可能だ。
その場合、どこからかやってきた別の亀さんが荒野に現れるらしい。
たくさんのグループがこのダンジョンに入れば、この見渡す限り荒野のダンジョンが、見渡す限り亀さんだらけになるかもしれないというのだから面白い。
これはこのリアルならではの現象らしいぞ。また1つ〈ダン活〉のリアル現象を知ってしまったんだぜ。
「行くぞ」
そんなことを考えながらも〈
ここが最奥の
「あ、あれはもしかしてボス部屋じゃありませんの!」
「こんな何もない山の上にポツンと……。かなり寂しい光景ですね」
ノーアが元気な声と同時に指さす先には、クラリスの言うとおりポツンとボス部屋があった。
しかし、そのボス部屋はいつもよりも豪華。
いつもの豆腐建築っぽい箱型ではなく、まるでパルテノン神殿のような豪華な建物だった。
豪華だが、ここまで誰1人来たことが無いはずなのでやっぱり寂しい。
その入り口にボス部屋特有の渦が巻いており、あそこから内部に5人まで入ることが可能だ。
ようやくラストって感じだな!
「あの亀。俺たちをここへ向けて運んでいたのか」
「のわりには揺れが容赦無かったけどね」
メルトが正面のボス部屋と後ろの亀とを見てから得心が言ったように呟く。
まあ、ミサトの言うとおり、もうちょっと優しく運んでもらえれば言うこと無しだったけどな。
「よし、みんなも察しているとは思うが、この先に最奥のボスが待ち構えているだろう! ということで、倒しちゃうぜ!」
「「「「おおー!」」」」
「ええ……。なんでレギュラーのみんなはそんなにノリがいいの?? ゼフィルスがとんでもないことを平然と言っているのは私の気のせいなのかな!?」
「クイナダさん、分かりみが深いですの」
「私たちも同じ気持ちだから安心して」
「サーシャちゃん、カグヤちゃん!」
こっちも盛り上がるが、新メンバー組の方も盛り上がってる。
うむうむ。みんなやる気満々だな!
それならいっそ新メンバー組の方からメンバーを募ってみるか?
「クイナダ、サーシャ、カグヤ、1番手行ってみるかー?」
「ふえ?」
「はへ?」
「わた?」
俺のお誘いになぜか3人は間の抜けた声を上げた。なぜかとても理解できない様な表情をしている。そこへノーアたちが一気に盛り上がって囲んだ。
「羨ましいですわクイナダさんたち」
「頑張ってきてくださいね」
「応援してるよ!」
「え、ちょ」
「
「いつの間にか私たちが参戦する流れになってる!?」
「それじゃあ後1人は、さすがに新メンバー組ばかりだと心配だからレギュラー組からも選ぶか。俺、クイナダ、サーシャ、カグヤ、となると、足りないのはタンクだな」
「私が行くわ」
「シエラ! 行ってくれるか!」
即で立候補してくれたのはシエラだった。
さすがだ。俺はシエラと一緒できて嬉しいです!
「クイナダ、サーシャ、カグヤ、準備はいいか!?」
「ちょ!?」
「シ、シエラさん、これは!?」
「大丈夫よ」
クイナダがなぜか縋るようにシエラの方を見ると、シエラはクールに頷いた。
「私が守るわ」
「キュン。かっこいいですの……」
「もう参加してもいいやって気がしてくる」
「サーシャちゃん、カグヤちゃん、しっかり!?」
おっとここでシエラのかっこいいセリフ来たー! サーシャとカグヤがキュンときているー!
料理アイテムはこのダンジョンに入る前にすでに食べているので問題無し。
ということで準備も完了し、俺たちは1番目のメンバーとして、みんなから「がんばれー」と見送られながらボス部屋に入ったのだった。
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