第1442話 〈ダダル〉2足歩行から騎獣へ。悲報・主従逆転




〈ダダル〉は第二形態になると顔がますますカメらしくなくなり、巨大な怪獣がカメの甲羅を背負っているみたいな姿になる。


 かなり迫力のあるカメの絵面だ。

 ここまで姿が変わるボスも中々珍しい。

 そして見た目だけではなく、ステータスも凶悪。

 防御力が相当高く、顔、腕、脚以外にはほとんどダメージも通らなかった防御仕様に加えて、今度はブレスなどの攻撃もするようになって足下も死角ではなくなり、ブレスが直撃したりする。


 胸の位置にはいつの間にか半透明で中が渦巻いている水晶体が現れており、その渦が炎の色を出したかと思うと、〈ダダル〉が炎のブレスを放った。


「シエラ『アジャスト・フル・フォートレス』!」


「はあっ! 『アジャスト・フル・フォートレス』!」


 ドーンと衝撃。


「わひゃ!?」


 第二形態の変化に距離を取っていたシエラに向かって放たれたのは、炎のブレス。

 しかしシエラ最強の盾、『アジャスト・フル・フォートレス』によって完全に防がれる。


 さっすがシエラ! 頼もしすぎる!

 俺はその間に全員に指示を出し直す。


「サーシャはカグヤと固まってモミジの結界にいつでも助けてもらえる位置につけ!」


「は、はいですの!」


「クイナダはこれまで通りだ! どんどん脚を狙っていけ! だが常に上も意識しておくんだ。股下でも安全地帯ではない可能性が高い。下手をすればこのブレスが飛んでくる可能性もある! その場合は脚の後ろに回って壁にしてやり過ごせ!」


「う、うん!」


「シエラ、手応えは?」


「悪く無いわ。これなら『ディバインシールド四段階目ツリー』でも防げたわね」


 なんて頼もしい発言。

 一応ブレスって〈ダダル〉第二形態の必殺技なんだけどな~。

〈クジャ〉のレーザーよりも数段強いんだぞ?

 まあ、強くなったのはシエラも同じだけど!


「耐性を上げておくわ。『ファイヤガード』!」


「ガアアアア!」


「む、『クイーンオブカバー』!」


 全体耐性アップの『ファイヤガード』を発動した直後、〈ダダル〉の槍がまるで軟体のように柔らかくなり、炎に燃え、鞭のような軌道で振るい始めたのだ。

 非常に変則的で分かりにくい攻撃。

 だがシエラはカバー系を使い、小盾を四方に飛ばしながら自分は大盾でガードを決めた。


「軌道が読みにくいけれど、私に防げない攻撃ではないわ!」


 シエラが凄くかっこいいです。

 これ、かなりの広範囲攻撃、しかも連続攻撃でもあってガンガン炎の槍鞭をぶん回してくる。普通のタンクなら自分を守るのが精一杯でとても仲間のダメージを軽減するまでできないことも多いのだが、シエラなら全く問題なく仲間を守れる。

 4つの小盾が常に仲間を守り、自分は大盾で攻撃を防ぐ。

 しかも崩れずに必ず耐えきるのだから頼もしい。


「カグヤ! シエラのHPに常に気を使うんだ! シエラは他のメンバーの分のフィードバックも受けるからその分HPの減りに注意しろ!」


「は、はい! 『特回復の上儀式』!」


「いいね。バフも盛って、どんどん強化して!」


「はい! 『どうか我らをお守りください』!」


 カグヤに指示を出してどんどんシエラを支援回復してもらう。

『特回復の上儀式』は俺の『オーバーヒール』とほとんど一緒で、上限HPを超えて回復が可能だ。LV5だから上限300オーバーも回復する強力な魔法だな。


 そして〈五ツリ〉では珍しい単体バフの『どうか我らをお守りください』は神使の加護により攻撃力、防御力、魔法力、魔防力が上昇する。単体バフなので上昇値はかなり高い。

 アタッカーやタンクなど、パーティの要をパワーアップできる頼りになるバフだ。


「いいわカグヤ、その調子よ」


「はい!」


 シエラにも褒められてカグヤのテンションが上がっているのが分かるな。


「ガガガ!」


 今度は槍鞭をぶん回しながら火炎を放ってきた。ブレスではない、普通の火炎放射だな。

 だが、攻撃2種類同時発動は中々ズルいぞ!

 まあ、そんなのに崩されるシエラじゃ無いけどな。


「『アジャスト・フル・フォートレス』!」


 シエラが火炎と槍鞭を両方防ぐ。

 すると、さすがに疲れたのか、〈ダダル〉の動きが鈍り隙をさらす。


「動きが鈍った! 今だ!」


「はー! 『一武百鬼峰閃いちぶひゃっきほうせん』!」


「『氷絶極刺砲撃ひょうぜつきょくしほうげき』! 『極寒照射光線ごっかんしょうしゃこうせん』ですの!」


「だらっしゃああああ! 『雷属聖剣化』! からの――『スターオブソード』!」


 たたみ掛ける。

 この第二形態は攻撃こそ至高みたいなスタイルで最初猛攻撃を仕掛けてくるのだが、その分猛攻撃が終わると疲れて隙が出来るのだ。

 そこを狙うのがセオリー。

 本来なら2タンク構成で防御に回り、疲れたところを攻撃しまくる戦法を取れば手堅く勝てる。


 まあ、タンクが落ちなければ、の話だが。

 猛攻撃が強すぎて、ヒーラーが2タンクを回復仕切れずに落ちるということもある。それほど本来はこの第二形態は厄介なのだ。


 しかし、タンクはシエラのみ。カグヤも優秀だ。

 1タンクに集中して支援回復すればいいので崩れる方がおかしい。

 とはいえ心配なので俺は助言するけどな。


 そんな感じにパターンを何度か突いたところで第二形態も終わる。


「第三形態だ!」


「え、なんですのあれ?」


 2つ目のHPバーが無くなると、キレた〈ダダル〉が、なんと4脚歩行に変化したのだ。しかも、その持っていた炎の槍が膨れ上がり、人の形を為して、なんとカメに騎乗してしまったのだからさあ大変。

「お前、武器じゃなかったのか!?」「今度は亀が使われる側に!?」「悲報、主従逆転」とプレイヤーから多くのツッコミを貰った形態だ。

 ちなみに手に持っていたカメの甲羅盾は、〈ダダル〉の腹の下に装着されていた。


 股下へ潜って攻撃も中々厳しく、こいつもカメの顔か脚、そして背中に乗った炎の人型にしか有効な攻撃は与えられない、という形態だ。


 炎の人型に騎乗された〈ダダル〉は口を開くと、先程よりも強力なブレスを放ってきた。


「『ディバインシールド』!」


 もちろんそんなものはシエラが防ぐ。しかし。


「サーシャはモミジの後ろに隠れろ! クイナダはこっちだ!」


「な、なになになに!?」


「ガアアアアア!」


 瞬間、ぐりんと首を右へ振ったのだこのカメ(?)は。

 おかげでブレスは薙ぎ払いヘと変化。

 しかも、先程は2脚歩行だったために上からの攻撃だったが、今度は地面すれすれの平行の薙ぎ払いだ。非常に範囲の広い攻撃。


 シエラの『ディバインシールド』は全域をカバーするには厳しく、俺はクイナダの手を引っ張ると素早くシエラの後ろに下がった。


 見ればサーシャもカグヤと一緒にモミジの結界の内側にいるので無事だ。

 初見殺しブレス、被害無し!


「薙ぎ払いの、ブレス! 『直感』が鳴ったときはもう手遅れだったよ!?」


「相手は上級ボスだ。こういうこともあるさ」


「ゼフィルスが平然としすぎだと思うんだよ!?」


 助けたクイナダが震え声で俺を向く。

『直感』さんも素晴らしいが『超反応』を持たないクイナダでは危険な攻撃は山ほどあるんだ。

 そう、暗に諭した。


「―――!」


「今度は人型炎の攻撃が来るぞ! サーシャ、ウォール!」


「は、はいですの――『フローズンギガントウォール』!」


 騎乗した人型炎は元々は槍だったからなのか、その腕を2つの槍にして伸ばしてきた。

 しかも1つはシエラのグループ、もう1つはサーシャのグループへ。

 タゲがシエラに固定されていない状態。


 しかし、シエラの方は張ったままの『ディバインシールド』で相殺。

 サーシャは氷の壁である『フローズンギガントウォール』を作って防御した。

 モミジの結界はブレスを受けて修復中だったため、セーフ。


「シエラ、ヘイトを稼ぎ直してくれ」


「分かってるわ! 『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」


 これで人型炎の方もシエラの方へ向く。

 第三形態になるとタゲが剥がれている敵登場とかとんでもないことだ。

 ここまで言えばなんとなく想像出来るかもしれないが、こいつらツインズボスなんだよ。

 炎の人型が増えたが、こいつは最初ヘイトがゼロになっているため無差別攻撃をしてくるんだ。すぐにヘイトを稼ぎ直さなければいけない。


 本来だと開幕早々の薙ぎ払いブレスで吹き飛んだところにあの炎の槍が突っ込んで来るため、初見殺しとして有名だ。

 モミジの結界のように、初手のブレスでこじ開け、2手目の炎の槍で粉砕してくるため、2手目に合わせた防御が必要になってくる。なんて恐ろしいツインズボス。


 まあ、シエラには効かないけどな!


「ガアアアア!」


「―――!」


「これ、どっちを攻撃すれば良いの!?」


「こいつはおそらくツインズボスだ! どっちでもいい! ただしカメの方は相変わらず顔か脚しか攻撃が通らない様子だから注意しろ! また、カメが歩き始めてるから脚に踏みつけられたり、蹴られることに気をつけろ」


「う、うん、分かったよ!」


 クイナダがちょっとビビリながらも俺の指示通り進む。頭の位置は少し高く、若干届かないので脚を狙う形。


「私はどこを狙いますの!?」


「サーシャはあの炎の人型を狙ってくれ!」


「わ、わかりましたの!」


 本当はあの人型炎の名前は〈ダダルフレスピア〉というなかなかかっこいい名前なのだが、今はさすがに名前を看破するアイテムを使う余裕は無いということで炎の人型と呼称する。


 やつの攻撃は〈ダダル〉の走り回りと、人型炎の槍攻撃がメインになり、デカい図体しながら結構な速度で走るため、狙いが甘いと攻撃が避けられたり、接近戦だと脚に蹴られて大ダメージを負うこともある。


 さらに進行方向にいる場合は轢かれるととんでもないダメージを受けてしまうので当たってはいけない。

 これは〈エデン〉なら誰もが分かっていることなので当たる心配は無さそうだ。


「動き回るものだから、防御が大変よ」


「位置取りに注意しろよ、特にカグヤとサーシャ!」


「分かってるよ!」


「ですの!」


 相手が動けば俺たちも動くしかない。

 しかし、轢かれたら後衛組の2人だと即戦闘不能だろう。

 走りながら轢かれないよう側面に回り続け、魔法を展開するしかない。


 だが、走るのならみんな慣れているからな。心配は無い。


 他にはカメのブレスが厄介だ。大体140度くらいの範囲を薙ぎ払ってくる。

 だが、これも側面に回り込んでおけば問題は無い。防ぎ方も分かっているしな。

 よし、新メンバー組もだいぶ動き方が分かってきた様子だ。


「『サンダーボルト』! そろそろいいかな」


「なんか作戦があるのゼフィルス?」


「おう。やっとサーシャの本領発揮だな! ちょっと行ってくる!」


 接近戦担当のクイナダにそう言って別れ、後衛組のサーシャとカグヤの方へ向かう。


「サーシャ、出番だぜ」


「わ、私ですの!?」


「おう。このまま削ってっても勝てる可能性が高いが、何があるか分からないからな。転ばせようと思う」


「なるほどですの――とでも言うと思いましたの!? どうやってですの!?」


 実は転ばせることはすでにサーシャも試していたのだが、『氷の大地』も『一面氷土』も『アイススロープ』も、あの巨大な脚に踏みつけられれば全て粉砕されてしまい、成果は無かったのだ。


「まだ1つ残ってるだろ?」


「それが壊されると私のプライドも粉々ですのよ?」


「大丈夫だ、俺を信じろって。さらに『聖操氷層』で柱を作り出してくれ。それで脚を引っかけて転ばせる」


「あ! それはいいアイディアですの!」


 話はすぐに纏まった。

 作戦決行だ。


「では、いきますのよ。今度こそ壊れないでくださいですの――『ブラスト・フロスト・ストレータ』!」


 サーシャが杖を掲げると。

 巨大な氷の鏡の様な物が現れる。氷鏡の鏡面が光に輝くと同時に、キラキラした光線を放ったのだ。

 それは〈ダダル〉の進行方向へと着弾。光線を浴びた部分が一瞬で氷付けになっていく。


 これは『瞬間冷凍』と『一面氷土』の上位ツリーで〈五ツリ〉の魔法。

 敵に当てれば〈氷結〉にし、地面に当てれば氷付けにする。強力な魔法だ。


「さらに『聖操氷層』ですの!」


 氷を操るサーシャの魔法。

 これにより作られたのは巨大な4つの柱。

 それを右前脚が踏みそうな位置に転がすサーシャ。すると。


「ガメエエエエエ!?!?」


 カメはチュルンと行った。

 しかも左前脚の方にはすでに凍らせた地面があり、それも粉砕されずツルンと滑った〈ダダル〉が前のめりに倒れてしまう。

 走っていた速度のまま転ぶとどうなるか?


「―――!?」


 ああっとここで騎乗していた炎の人型が投げ出されたーー!

 完全なダウンだ!


「ナイスサーシャ! 今だーーー!」


 総攻撃!


「『バインドン・アズ・フリズドソーン』! 『クリスタルハードスコール』ですの!」


 サーシャ、ダウンを解かせない勢いで〈五ツリ〉の氷の茨でバインドするーー!

 そこへ氷のスコールで大ダメージを稼いでいた。

 俺とクイナダも負けじとカメ(?)の頭を攻撃しまくる。


 もうみんなでボッコボコ。


 今までよくも追いかけ回してくれたなーと言わんばかりにガンガン攻撃しておいた。

 さすがにダウンを継続させることは難しく、復帰されたが、シエラとサーシャのおかげで動きを止めることが出来たのは大きく、その後もガンガンダウンを奪い。炎の人型がカメの背中に戻ろうとするのをシエラが阻止したりとハチャメチャな場面もあったりして連携を防ぎ、ついにそのHPがゼロになる。


「ガメ…………」


 まるで「負けたぜ」とでも言わんばかりのおだやかな目をしたカメ(?)は膨大なエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。ちなみに炎の人型は鎮火した。


 その後に残っているものは、当然のように〈金箱〉だった!




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