第1443話 カメからのドロップは〈カメさんトロフィー〉!?




「イエス、カメさん〈金箱〉ありがとうーー!!」


「ゼフィルス、1年生の前よ」


「はっ!」


 上級下位ダンジョン最後のボスを撃破し、〈金箱〉がドロップしたことで俺は思わずシャウトした。瞬間シエラに窘められた。

 振り向けば注目する3人の顔が! これはいけない。

 先輩としての威厳が損なわれてしまう!


「こほん。これにて上級下位ダンジョン、オールクリアだ!! よっしゃー!」


 俺は手の中に現れた攻略者の証を掲げてシャウトし直した。


「…………」


「す、すごい偉業ですの」


「こんな、上級下位ダンジョンを全部攻略してきただなんて、やっぱりゼフィルス先輩は凄いよ! これは教科書とかに載っちゃうかも」


「え? それって最後に一緒にボス戦をした私たちの名前とかも残るってことじゃ」


「「!!」」


 シエラはなぜか無言だったが、後輩組3人は見事に偉業の方に目が行っていたよ。

 威厳は保たれるどころかアップだアップ! どうだシエラ、これが威厳だ。


 なお、クイナダの一言によってサーシャとカグヤがはわわしていた。

 そういえば〈キングヴィクトリー〉というギルドは上級下位ダンジョンを初攻略してパーティメンバーが全員教科書に載ってるんだっけ。俺たちも来年には?


「これでサーシャもカグヤもクイナダも有名人だな!」


「とんでもないことになったですの!?」


「ボス戦に緊張しててそこまで考えていなかったよ!?」


「ひえっ」


 うむうむ。大変なことに気が付いてしまった後輩君たち。もっと頑張れば気にならなくなるさ。なにしろ、今後は上級中位ダンジョンを攻略しまくるんだからな!

 そしてクイナダは留学大成功者となるだろう。

 留学すれば偉業達成も夢じゃない? 来年からは留学希望がもっと増えるのかもしれないな。


 そこまで考えた辺りで開かれたボス部屋の入り口からメンバーたちが現れた。


「ゼフィルスーやっぱり〈金箱〉ね!」


「おう、ラナのスキルのおかげだ!」


 手を振って歓迎する。

 すると、若干ポカンとするクラスメイトたちの姿を見つけた。


「ははは。やっぱりゼフィルスはすごいな」


「うちもかれこれ4つの上級下位ジョーカーを攻略して来たんやけどねぇ、なんで〈エデン〉はんはこう、1発攻略なんてできるのかねぇ」


「1発攻略もそうですけど、未攻略のダンジョンをたったの3週間で攻略ですよ? 地図も攻略情報も無しで。なのに臆したり慎重にするどころかイケイケでガンガン攻略してましたよ」


「〈ハンター委員会〉でも無理」


 ラムダ、ハク、アイシャ、ミューが口々に呟く。

〈エデン〉の攻略風景を改めて振り返り、衝撃を受けている様子だ。

 これが〈エデン〉の普通の光景です。


「やっぱりこれって普通じゃなかったですの」


「私たち、いつの間にか〈エデン〉に染められちゃってるよ」


「私、本当に分校に帰れるのかな。なんだか不安になってきたんだけど」


 おっと〈エデン〉以外の一般人クラスメイトの発言を聞いてサーシャたちが何かに気付いてしまった!

 ふっふっふ。実はその通り、君たちには洗脳を掛けていたのだよ。


 もちろん冗談だ。

 でもクイナダはずっと〈エデン〉にいてくれていいんだよ?


「ねぇゼフィルス! そろそろ〈金箱〉を開けましょう!」


「全員集まってるみたいだし、開けるか!」


 今回の〈金箱〉は1個。

 まあ通常ボスだったからな。でもちょっと残念に思うのはやはり上級下位ジョーカーを全てコンプリートしたからだろう。

 記念にサービスで〈金箱〉が増えても良いと思ってしまうのだ。


「それでは、俺が開けよう」


 シエラは俺の言葉にクールな表情で頷いていた。

 サーシャたちは他の新メンバーたちに囲まれて祝われているところでそれどころではない様子なので、俺しかおるまい。ふははは!


「〈幸猫様〉〈仔猫様〉、上級下位ダンジョンを全てコンプリートいたしました! 記念に良いものください! よろしくお願いいたします!」


「ん? 〈幸猫様〉と言えばあの猫のぬいぐるみ……? ――メルト、ゼフィルスはなにをしているんだ?」


「……祈っているのさ。宝箱から良いのが当たるようにな」


「え? ぬいぐるみに、か?」


「……そうだ」


 何やらラムダとメルトの会話が聞こえる気がする! なぜかラムダが困惑しているような気がするのは気のせいのはずだ。

 ラムダよ、刮目して俺を見ろ!

 これが、正しい〈幸猫様〉と〈仔猫様〉へのお祈りの仕方だ!

 帰ったらお礼にお供え物を捧げるのも忘れないように。


「いざ」


 俺は全員が見えるようにゆっくりした動作を心がけながら〈金箱〉の蓋を掴み、開けていく。

 すると中には金色に光る、カメの置物が入っていた。


「……なにこれ?」


「ちょっと可愛いわね」


「これは――げふんげふん! エステル、〈幼若竜〉で『解析』だ!」


「…………」


「は、はい! 『解析』! 出ました!」


 ラナが期待を裏切られたような点にした目をして疑問を口にしたので即で答え――そうになって慌ててエステルに『解析』を頼んだ。

 シエラが少しジトッとした目で見てきます! ありがとうございます!


「これは、ギルド設置アイテム。〈カメさんトロフィー〉というそうです。これが飾られたギルドにスキル『カメ代わり』を付与すると書いてありますね」


 俺は今にもクルクル踊り出しそうな腕を諫めるので精一杯だった。

 これ、とんでもないアイテムだぞ! まず〈幸猫様〉や〈仔猫様〉と同じくスキル付与型ギルド設置アイテムという時点でパナイ。

 もちろんエステルに続きを読んでもらう。


「えっと、『カメ代わり』は〈即死〉攻撃を受けたとき、1人に対し1日に1度だけ無効にするという効果のようです」


「なによそれ、とんでもなく強いじゃないの!」


「つっよいな!!」


 ラナの喜色の声に合わせて俺もグッと拳を握って声を張る。

 つまり、このカメの置物は装備にかかわらず、上級中位ジョーチュー以上で猛威を振るう〈即死〉を1日に1度だけ無効にできるという、とんでもない効果を持っているんだ。もちろん、これはギルドバトルでも効果を発揮する。

 パナイ。マジパナイ!


〈エデン〉では『即死耐性』スキル付きの装備を着けているものの、耐性では貫通する可能性が僅かにある。『無効』という非常に安心感のあるものはとても重要な意味を持つんだ。しかも発動するのは〈即死〉判定が出てしまったタイミングなので、例えば『耐性』でレジスト出来ていれば発動しないのだ。なんて安心設計。


 スキル付与型のギルド設置アイテムというのは数が極端に少ないが、そのうちの2種類目をゲットだぜ!

 ちなみに見た目はデフォルメされている陸亀の金の像がトロフィーを背中に乗せている姿となっている。


「なんと、これは凄まじい効果ね。先生のところにも欲しいわ」


「ダブったらタバサ先生にも是非お渡しします!」


「やった!」


「ちょっと待てゼフィルス、それなら自分の所属する〈救護委員会〉に優先してくれないか?」


「〈ハンター委員会〉も欲しい」


「ええ!? それはみんなズルいです! 〈集え・テイマーサモナー〉にも!」


「それやったら〈百鬼夜行〉にも欲しいわぁ」


 おおっとこれは!

 そういえばここには6のギルドが居たんだった。

 こんな凄まじい〈カメさんトロフィー〉の効果を知ったら誰でも欲しくなってしまうだろう。


 やっべ、ちょっと困ったな。

 これ、超激レアアイテムなのに加えて上級下位ダンジョン全てを攻略済みの人が〈亀ダン〉の最奥で〈金箱〉を開けなくちゃそもそも出ないという、ドロップという意味でもとんでもないものなのだ。

 トロフィーの名の通り、全上級下位ダンジョンの攻略おめでとうという意味のこもったアイテムなのである。


 間違いなく〈エデン〉メンバー以外では全上級下位ダンジョンは攻略している者はいないだろう。

 ラムダたちがいくら頑張ろうとドロップはしないと思われる。

 だがあんまり俺たちもここのダンジョンに掛かりきりというわけにはいかない。


「まあ、当たったらな。もし当たったらその時はオークションにでも掛けるから、落札してくれ」


「それは、当然ですね……」


 なんとか話を逸らして流すことに成功する。

 2つ目以降も凄まじいお値段で売れそうな予感!


「とりあえず、俺たちはこれで終わりだから次のメンバー行くか!」


 俺がそう告げるとざわめきと共にラムダが聞いてくる。


「ゼフィルスたちはもう帰ってしまうのか?」


「そんなことないわよ。ボスの倒し方とか伝授してもらわないといけないもの。ちゃんと戻ってきてもらうわ」


「え? それは、また攻略しながらここへ来る、ということでしょうかラナ殿下?」


「違うわ。アイテムを使うのよ」


「まさか、アレですか?」


 おっと端的すぎるラナの説明だったがラムダは心当たりがある様子。さすがは〈救護委員会〉のトップメンバーの1人。

 とりあえず、こういうのは見てもらった方が早い。

 もちろん〈公式裏技戦術ボス周回〉は使わないぞ。


「俺たちは1度この転移陣で1層に戻る。だが、すぐに最奥の救済場所セーフティエリアに転移して戻ってくる予定だ」


「それは〈転移水晶〉では無理じゃない?」


 アイシャがそう言うのに頷き、俺はちょっとドヤ顔……いやキメ顔で、例の物を取り出した。


「ふっふっふ。それを可能にするアイテムを実は夏休みに手に入れたんだよ。それがこのアイテム。〈テレポート水晶〉、通称〈テレポ〉だ」


 俺がババンとテロップが出そうな勢いで〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から取り出したのは、ダンジョン内のどこにでも転移可能なアイテム、〈テレポ〉だった。

 それを見た瞬間、ラムダやハクが目を剥いて驚いた。


「や、やっぱり! あのオークションで落札されていた目玉商品の1つじゃないか!?」


「なんで持ってはりますの!? それは学園が出品者やったはずや!?」


「それはな、学園にこれを納品したのが〈エデン〉だったからだ」


「ああ!」


 さすが、2人ともこれを知っていたらしい。

 夏休み最後の特大オークションの目玉だったからな。

 落札された金額は、ちょっと覚えてない。

 だが、消耗品だし、そんなに高くはないだろう。それよりも〈極寒零度・クリスタルブレード〉などの方が騒がれていたはずだしな。


「そんな高価な物を使うの、か?」


「そりゃあもう。〈エデン〉では普通に作れるしな」


 とはいえ、本来は上級上位ダンジョン素材で作るこれを上級中位ダンジョンの素材で作っているものだから、とにかく素材に量が必要であまり量産は出来ないんだけどな。


「なんと」


 ラムダが凄まじくおののいていたが置いておき。

 俺たちは転移陣へと乗り込んだ。


「それじゃあ、みんなは救済場所セーフティエリアで待っていてくれ。俺たちもすぐに〈テレポ〉で戻るから」


 そう言って転移陣に乗り込んで1度〈上下ダン〉に帰還すると、〈亀ダン〉に入り直して俺は〈テレポ〉を発動する。

〈亀ダン〉はその特殊なダンジョン事情から、転移陣で帰還すると1層じゃなくて〈上下ダン〉に出てしまうので、もう一度入り直す必要があるんだ。


「〈テレポート水晶〉起動――60層救済場所セーフティエリアへ」


「「「わぁ!」」」


 俺が唱えればパーティを組んでいるシエラやサーシャたちも光が覆い、気が付けば俺たちは攻略メンバーたちの待つ60層へ転移していた。




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