第1438話 〈亀ダン〉攻略開始!最後の救済アイテム発動




 50人体制で〈亀ダン〉に潜ってみると、そこは圧巻の一言だった。


「ふわ、なによここ。空が凄く近くに感じるわ」


「これがバトルステージ、思っていたよりも何倍も大きいです」


「へ? これを背中に乗せてカメさん歩いてるデスか? どんだけデカいのデース!?」


 まず目の前に広がったのはバトルフィールド。

 多分、学校の校庭よりも広い。

 ダンジョンのフィールドとしては極狭ごくせまだが、亀が背中に乗せていると考えると、とんでもなく大きい。


 さらにはラナの言うとおり、結構高い位置なのか、それとも他に遮蔽物が見えないからか、空が近くに感じる。

 バトルフィールドの端はそのまま壁も何も無いからな。

 エステルやパメラを始めみんな辺りを見渡してざわめく。


 なお、たとえ弾き飛ばされたとしても不可視のバリアみたいなものが張ってあるので下へ落ちることは無い素敵仕様だ。これは事前にみんなに言ってある。

 そうして辺りを観察していると、突如としてドシーンと音と衝撃が響いた。


「へ、な、何!?」


「亀が動きだしたようだな」


「ちょ、音と衝撃も凄いけど、結構揺れるよこれ!?」


「あわわわ!?」


 その後もズシーン、ズシーンと断続的な音と衝撃が下から聞こえてくる。

 そして、動いているのだというのがその揺れから分かった。

 あと思ったよりもすっごく揺れる。緩急付けて揺れまくる。

 そりゃこの環境でバトルしろと言われてもキツいわ!


「空にいると、進行方向に流されるみたいだよ~。すっごい不思議!」


「教官報告です。空から見た限りでは、周囲は何もない荒野みたいですよ」


「ということは、この亀さんはずっと止まらず動き続けるということだ」


 トモヨとフィナが空から確かめてくれるが、周りは本当に何もない荒野だ。起伏すら無い。

 そこを亀さんが歩き続けるという、摩訶不思議ダンジョンなんだよここ。

 本当にダンジョンなの? と思うかもしれないが、何もない荒野がずっと続いている時点でダンジョンだ。


 ということで、だいぶ面白い体験をしたのでそろそろ使おう。


「救済アイテムを使うぞ!」


「ゼフィルスさん、早くしてくださいまし! 転びそうですわ!?」


 リーナの少々焦った声が届く。もちろん転べばダウン判定だ。なんて環境だよ恐ろしい。今すぐ鎮めなければ。


「オーケー。救済アイテム〈鎮静の秘薬〉発動だ!」


 俺はそう言って亀さんが進んでいる方角目掛けてぶん投げた。

 放物線を描いて100メートル以上吹っ飛んだ小瓶は、不可視のバリアなんて何のそのという感じに突き抜けて落下。直後に「バクン、ゴクン」というよく響く音が聞こえてきた。


 これ、直接亀さんに食べさせなければならないのでこういうやり方しかできないのが難点。ちなみにこの小瓶だけは、なぜか不可視のバリアも突き抜ける仕様で、さらに誰が投げても100メートル以上ぶっ飛んで亀さんの口の前に落ちる仕様となっている。どんな小瓶なのかとっても不思議なアイテムなんだぜ。


 するとすぐに効果が現れる。

 さっきまで元気良くズシーン、ズドーン、ズガシャーンと歩いていた亀さんがその歩みを凄まじくゆっくりにしたのだ。

 いや歩いてはいるのだが、先程みたいに駆け足ではなく、のろまな亀さんの如くゆっくり前進に変更。おかげで背中の揺れはほとんど止まることになった。


「止まった?」


「おう。大体1時間くらいは効果があるらしいぜ」


「あんな環境、砲を構えるのも難しいですわよ」


 近くで、というかいつの間にか俺に掴まっていたリーナが一息吐く。


「私も、あんなに揺れるだなんて驚いてしまったわ」


 すると近くに居たタバサ先生もすぐに俺に掴まってきた。あれ? もう揺れは収まっているんだが?


「あ! リーナさん、タバサ先生、ズルいですよ。何やっているんですか」


 そこへアイギスが目ざとく俺たちの状況を発見して目を見開く。

 ぱちくり目を瞬かせたリーナが、自分の状況に今気が付いたとばかりに手を離して弁明し始めた。


「あ、あら? アイギスさんこれは違いますのよ。倒れそうだから仕方なかったんですの。本当ですわ。――ね、ねぇタバサ先生?」


「そうなのよ。とてもあぶなかったわ」


 おかしい。タバサ先生は揺れが治まってから掴まってきたはず。

 そう思ったが、俺は何も言わなかった。


「あれが去年まで〈エデン〉に居たというタバサ先生ですのね。すごい方ですわ」


「はい。大物です」


 なお、ノーアやクラリスのように真実を知る目撃者は多数いる模様。

 なぜか『直感』さんが警報を鳴らし始めた!? なんだかマズいかもしれない!?


「タバサ先生」


「あら、何かしらシエラさん?」


 シエラがタバサ先生に!?

 なんだかとても緊張感のある雰囲気が漂いだした予感!


 しかし、それはシエラたちのせいじゃなかった。どうやら『直感』さんが反応しているのが別のところだと感じ取ったのだ。


 50人が居ても狭いとは感じないほど大きなフィールド、その奥に突如としてエフェクトが発生する。戦闘開始のお知らせじゃん!


「モンスターが来たぞ! 全員戦闘配置! リーナ、そっち側の指揮は任せたぞ!」


「わ! は、はい! みなさん、焦らず定位置に付いてくださいな! 行きますわよ! 『祝砲』!」


 そう、モンスターが次々と登場してきたのだ。

 このダンジョン(?)では少し時間差を経てモンスターは登場し、襲ってくるのである。

 その数、最初は20体。だがこれは序の口、これからどんどん数が増えていく。

 俺が指揮する1班から5班までの25人5パーティと、リーナの指揮する6班から10班までの25人5パーティに分かれ、掛かってくるモンスターに対処する。


「仕方ないわね。タバサ先生、ゼフィルスを頼むわ」


「ええ。私に任せて頂戴」


「でも、決して近づきすぎないように」


「それは約束できないわ」


 くっ! 『直感』さんが騒がしい!

 おかしい、まだモンスターは1層でザコのはず!

 俺はしっかり全員に指示を出して気合いを入れさせる。


「相手は上級モンスター! だがまだ1層レベルだからザコだ! スキルは考えながら効率的に使って行け! また、他の人との連携を意識するんだ! これは連携を磨く訓練でもある!」


「「「「はい!」」」」


 これはクラス対抗戦の練習なので1人で倒さず、必ず連携を意識して戦ってもらう。


「ヴァン殿、あなたの力、見せてもらえるか?」


「任せるであります! 『ここから先は何人たりとも通さない』!」


「おお、良い挑発スキルだ。これなら自分の攻撃に集中できる―――『聖技せいぎ一閃』!」


 こちらに向かってきた10体のモンスターは一瞬でヴァンにタゲを取られ、ラムダの強力な聖なる一閃を受けて吹っ飛んでいった。中には一撃で光に消えたモンスターもいる。いきなり飛ばしすぎだぜ。


「ヴァン、ラムダ。張り切るのはいいが、相手はザコ敵だというのを忘れないでくれよー」


「ふふ。みんな元気ねぇ。――アイギス。久しぶりに一緒にパーティが組めるの、とても嬉しいわ」


「私もですタバサ先生。でもそれとさっきのあれは別件ですよ」


「あら?」


「あら? ではありません。まったくもう。私は空にいる敵を中心にやりますのでタバサ先生は地上をお願いしますよ」


「任せて。これでも防衛は得意なのよ――『式神ノ参』! 『大式神ノ姫』!」


「〈モンスターカモン〉! 来てくださいゼニス!」


「クワァ!」


「『ハイジャンプ』!」


 お、タバサ先生が鬼を呼び出して、アイギスがゼニスに騎乗したな。

 タバサ先生はクラス対抗戦に関係無いので守りを固めてもらい、もしモンスターが来たら自分に掛かった火の粉を払ってもらう。

 鬼はそのための召喚で、回復だけお願いしていた。


 基本ヴァンがタンク、ラムダとアイギスがアタッカーで、俺が遊撃&指揮。

 他の4パーティも見なくちゃいけないのでほとんど指揮だな。

 ノエルとオリヒメさんの歌がフィールドに流れ、全員にバフが掛かる。いいね。


 モンスターの数も次第に増えていく。これ、モンスターの数って俺たちが連れてきたパーティの数に比例して増える仕様も入っているからかなり多い。

 すでに70体を超えるモンスターが召喚されているな。さらにポップ現象のエフェクトは増え続ける。


「どんどんモンスターが溢れてきますね。ヴァン殿、こっちは自分がやります、今来る4体を受け持ってもらえますか?」


「承ったであります! 『国防の城主』!」


「一掃させてもらおうか! 『聖法剣』!」


「そこです。『オーバードラゴンテイル』!」


 うーむ、最初にしてはなかなか良い感じ。滑り出しは順調と言えるだろう。

 まだ敵が1層レベルというのもあるけど。

 ただ、アイギスの【竜騎姫】のスキルって大体が〈五ツリ〉の大技でMP消費が大きいんだよな。

 節約するには通常攻撃になってしまうが、そこをラムダやヴァンがアシストすることで効率的にダメージを与える方法を模索してほしいところ。


 まあ、それはおいおいで、今は他のパーティの様子を見てみるかな。


「さあみなさん行きますわよ。『全軍一斉攻撃ですわ』!」


 向こうの指揮官であるリーナも良い感じに指揮が出来ている様子だ。さらにユニークスキルまで使って味方を援護している。


 ちなみに今回、ユニークスキルのクールタイムを半分にする〈クーラーユニークアームレット〉や、ユニークスキルの効果時間や威力を上昇させる〈竜の腕輪〉はリーナが身に着けている。

 これで『全軍一斉攻撃ですわ』は使い放題だな。効果時間が切れても少しの間を置くだけですぐにかけ直しが可能だ。素晴らしい。

 故に自然とリーナの6班に視線が向く。


「あーんメルトはん、助けてぇな~」


「こらーハク! なにあんた手抜きしてるのよ! そのくらいあんたの火力で一掃出来るでしょうー!?」


「もうミサトはんはわかっておりまへんなぁ。守ってもらうのが良いんやないの~」


「分かってないのはハクの方じゃないかな。メルト様を支えるのがいいんじゃん。たまにちょっかい出したりしてさ! 『リフレクション・ヘル』!」


「う~ん、ちょっかい出したりの部分は同意どすなぁ――『四尾解放しびかいほう幻猛炎げんもうえんあぎと』!」


「貴様ら、なにを勝手なことを、集中しろ! 空のやつを落とすぞ――『十倍キログラビティ』! なに!?」


「あぶない! 『オールメタルランバード』! メルト君こっちこっち、壁のこっち側に来て」


「くっ、助かるシャロン」


「あー! シャロンちゃんが良いところ持ってってる!」


「『五尾解放ごびかいほう灼熱しゃくねつ大爪たいそう』! こっちがモンスター蹴散らしているゆう時に、ちょっと反則やありまへんの?」


「そんなことないよ! それに守ってあげるのがいいんじゃん~。もうメルト君は私に頼りきりだよ!」


「それは聞き捨てならないな~。――メルト様は守ってあげるのと、支えてもらうのと、守ってもらうの、どれがいいの!? 『ハイヒール』!」


「貴様らいい加減にしろ!? 『アポカリプス』!」


 うーむ、6班のリーナ、ハク、メルト、ミサト、シャロンチームは、なんか複雑に絡み合っている感じなのに良い感じに対処できている。気心の知れた仲間が多いから多少の隙でも連携でカバーできている様子だ。

 逆にすごいな。メルトはなんか大変そうだが。


 他にも色んなパーティを見つつ問題点を探っていくと、途中でエリアボスが登場する。



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