第1431話 アイギスと向かうのは占いの館。この人本物だ




「楽しんでおられるところに失礼いたします」


「へ? シズ? パメラにエステルも」


「従者お揃い!?」


 ラナとお祭りを楽しみまくっていたらいつの間にか真後ろにシズがいた。

 ゼロ距離、『超反応』でも避けられない。

 はわ!? まさか、やられる!?

 そう身構えたのだが。


「そろそろお時間ですので迎えに来ました」


「もうこんな時間デース」


「へ? うそ、もうこんな時間なの!?」


「マジで?」


 エステルとパメラに見せられた時間に戦慄。

 まるで時がワープしたかのように時計の針が進んでいたのだ。

 誰だ時計の針を進めたのは!?


 でもちょっと胸をなで下ろしたのは秘密。

 そっちだったか……ふぅ。


「え、ええ~!? もう時間なの!?」


「み、みたいだな……あまりに楽しくて時間を忘れてた」


「……ゼフィルスは、私との時間、楽しかったの?」


「もちろんだ。じゃなくちゃ時間を忘れるなんてことは無いさ」


 そうだ。思い起こせば、ラナとお面を買ったあと、射的をやったり輪投げをやったり、クイズ当てゲームやモグラ叩き、ふれあい広場なる場所でちびっちゃいモンスターを相手にもふもふしたりといろんな時間を過ごしていた。


 そりゃ時間無くなるわ!


「そ、そうなの。ま、まあ、楽しかったのならいいわ。私も、その、楽しかったし」


 ラナが髪をイジりながらごにょごにょしているのがグッド。照れた表情がごちそうさまです。


「はは、楽しすぎて危うくスケジュール過ぎそうになったけどな」


「うう~、やっぱり1時間半って少ないと思うのよ!」


「学園が広すぎて全部回れない問題あるしな~」


 ラナが不満を吐露するが、よくわかる。

 来年は夏祭りの日数を増やしてもらえないかと学園長に要望を出してみようか。

 だが、その前に次の場所に早く行かないと、思ったよりも時間が無かった。


「それじゃ、時間も押しているから俺は行くな」


「うう。分かったわ。またねゼフィルス。その、今日はありがと」


「おう。俺もラナとの時間、とても楽しかったよ」


 そう言ってラナと別れた。

 ラナは俺が見えなくなるまでずっと見ていた気がする。

 後ろ髪引かれる!

 はぁ。あと、結局シズたち従者組は離れて護衛していたみたいだな。ご苦労様です!


 惜しみつつもラナと別れると、続いてやってきたのは再び校舎の入り口。

 そこには視線を釘付けにする綺麗で美しい女性が待っていた。


「アイギス」


「ゼフィルスさん。時間ピッタシですね」


 そう、アイギスだ。

 去年も圧倒されたが、アイギスの浴衣姿は最高の一言。

 普段は腰まである長い髪はまとめてアップされていて、うなじが輝いて見えるかのようだ。

 赤を基調として大きな花が描かれている浴衣はアイギスによく似合っていて、1人だけ別世界の住人のような美しさがあった。


「アイギス、綺麗だ」


「あ、ありがとうございます」


 早速俺の口から褒め言葉が無意識に飛び出すと、アイギスが頬を赤らめて俯いてしまった。ぐっ、こちらこそありがとうございます!

 改めてアイギスの姿をよく見る。


 浴衣姿のアイギスはお姉さん度がいつもよりも3倍増し、否、5倍までいくかもしれない。すっごい年上のお姉さん的雰囲気があるのだ。

 とてもドギマギします!

 しかし、素晴らしい女子なら今日だけでも4人も一緒にいた俺である。

 耐性は十分だ。

 俺はしっかりクールにアイギスに手を差し出した。


「行こうかアイギス。一緒にお祭りを回り、楽しもう」


「はい! 今日はよろしくお願いしますね、ゼフィルスさん!」


 そう言ってアイギスはとても良い笑顔で俺の手の上に自分の手を乗せた。


 ゆっくりと校舎内に入って歩く。

 するとアイギスからいきなりの強力な攻めがキタ!

 なんと腕に抱きついてきたのだ。


「えい。その、リーナさんはこうしていたと聞きましたから」


 ねぇ、それ本当に誰から聞いたの? でもそんなことは聞けない。

 腕が大変幸せになっているのだ。何も問題は無いな!

 少し不安そうにするアイギスをなだめる。


「もちろんアイギスなら大歓迎さ。離れると大変だからな」


「は、はい。そうです。離れると大変なので……」


 そう言ってぎゅっと腕に込める力が増すアイギス。

 これは、破壊力が凄い。

 今までの耐性とか全部貫通して脳を破壊されそうだ。

 いかん、気をしっかり持たなければ!


「ア、アイギスは校舎を選んだってことはどこか行きたい場所があるんだろ?」


「はい。是非ゼフィルスさんと行きたい所がありまして。1階の右です」


「了解」


 アイギスに促されるのに従い、校舎の中を歩いて行くと程なくしてそれはあった。


「占いの館、バージョン32?」


「はい。人気店らしいんです」


 なんとそこは占いをしてもらえる場所だった。

 アイギス、意外に乙女というか、女の子である。

 女の子は占い好きという話をどこかで聞いたことがあったが、それはここでも変わらないらしい。

 でもバージョン32ってどういうことだし!


 あと人気店というわりに全く人が並んでいないのはどうしてだろう。不思議!

 とりあえず、アイギスに促されて入ってみる。すると。


「〈エデン〉の〈クマライダー・バワー〉は?」


「パンダ号です」


「よし、入れ」


 ……なんか合い言葉があるんですけど!

 ただの質問か? いやそれなら「名は?」と付けるはず、やっぱり合い言葉っぽい。やばい、なんだかよく分からない館だぞここ。


 どうやら2重にドアがあるようで、2つ目のドアがガチャリと解除された様子。

 アイギスが俺の腕を抱きながら扉を開けてくれたので、一緒に入った。

 すると、中の部屋にはお馴染みの水晶体。その向こうには、これまたお馴染みの目隠しローブを着た女性が座っていた。まさに占い師という出で立ち!


「希望は?」


「えっと、2人の相性を少々」


「少々? 少々でいいのかい?」


「い、いえ。その、全力で」


「オーケー」


 意外に軽いな、この占い師も。

 アイギスと一緒に占い師の対面に座ると、占い師が水晶に両手を翳す。

 ギュッとアイギスが掴む腕に力が入った気がした。さらに幸せが増した予感!


 しかしこの水晶、見覚えがあるな。〈星見の水晶ちゃん〉じゃないか?

【占い師】【シャーマン】【闇神官】【星読み人】【風水師】【占星術師せんせいじゅつし】【天導師】【予言士】【スターゲイザー】なんかが使う専用アイテムだ。

 使用すると次の魔法の威力が5割増しになるという非常に強力な効果を持っている。しかもクールタイムはあるが、回数アイテムではないのがポイント。つまり無限に使えてしまうのだ。当然のように上級アイテムの〈金箱〉級。


 その水晶を使うということは……あれ? どういうことなんだ?

 ゲームでは当然のように未来予知や占いなどはできなかった。

 このアイテム、威力増幅系だし。


 これでいったいなにを? まさか、リアルでは占いの力が増幅される?


 そう考察していると、水晶に突如夜空の光景が広がった。

 お、おおー! なかなか本格的だ! でもあれ? これって映像を映すアイテムだったのか? いや〈星見の水晶ちゃん〉というくらいなんだから夜空くらい出せるのか?


「わかったわ」


 そう言って手を引っ込める占い師さん。どうやら占いが出来た模様。


「この星の並びを見るに2人の相性は」


 そこで止められ、ゴクリと喉が鳴る。

 そしてゆっくりと占い師が口を開いた。


「――抜群ばつぐん


「はう」


 占い師さんの一言にアイギスから「はう」が出ました! 素晴らしいです。

 俺もなんだか一気に脱力した感があった。


「竜が見える。お伽話の中でしか登場しなかったような伝説の竜が2体。1体は神々しい金色。1体は神聖な銀色。それに跨がるのはそれぞれあなたたち。共に空を駆け、共に目的地へはせ参じる。誰も2人に追いつけず、2人の世界が作られる」


 お、おお!?

 占い師から情報がもたらされる。

 それを聞いて俺は一気に気が引き締まった。

 今の言葉、もの凄く覚えがあります……!

 マジ? それ見えるの? マジで? だとすればこの人本物なんだけど?

 確かアイギスは言っていた。よく当たると。

 マジか。この人当たりだぞ!


「以上よ」


「あ、ありがとうございます。えっと、それはつまり、ゼフィルスさんにも騎乗する竜が現れるということなんでしょうか?」


「さあ、それは分からないわ。私が分かったのは未来の光景とあなたたちの相性。2人だけにしか無い能力を見たわ」


「私たち2人にしかない能力……!」


 アイギスの握る腕がどんどん熱くなっていく気がする!

 チラッと横のアイギスを見れば顔は真っ赤だった。

 なんとなく、居心地が良いような悪いような不思議な雰囲気。


 俺も質問したいんだけど、いいだろうか。いや、ダメっぽいな。


「では、占いはここまで。次のお客さんの予約があるので、ご退出を」


「あ、はい。今日はありがとうございました」


「ありがとうございます?」


「あなたたちに幸福があらんことを」


 そうお別れして館を出る。

 俺は後ろの館へ振り向きながら聞いてみた。


「アイギス、あの人って何者だ?」


「相性抜群、相性抜群……」


「……アイギス?」


 あれっと思って覗き込むと、アイギスがまだ現実に帰還しきっていなかった。

 ……うん。こんなアイギスも可愛い。

 今の占いは、俺の六段階目ツリーの件についてだったが、勇者のスキルを知っている人はこの世界には居ないはずだ。

 つまり占い師さんは本物ということになる。この世界、占いも凄いんだな。

 また1つ新たな〈ダン活〉データを入手してしまったぜ。


 聞いてみたいことが山ほどあったんだが、次のお客さんと思われる人が館に入っていったので、こりゃしばらくは無理っぽいと諦めた。

 それに今はアイギスと2人で祭を満喫する時間。なら、こっちを優先だな。


 しかし、アイギスが現実に戻ってくるのに、さらに30分ほど要するのだった。




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