第1430話 ラナと2人きりのデート。お面屋さんと青春と




 食べ歩きツアーは割りと時間が過ぎるのも早いもので、リーナとの時間もあっという間に過ぎていき、もうすぐ交代という時間が迫ってきていた。


「しまりました! なんだかお菓子ばかり食べていた気がしますわ!?」


 リーナが「しまった!」の上品語(?)みたいなセリフの後に今までのことを振り返ってはわっとしていた。確かにお菓子系ばかり食べてたな~。

 でも「あ~ん」はしたし、いろんな菓子を食べられてどれも美味しかったし、こんな夏祭りもありだと思うぞ。

 もしかしたらリーナにはさらにやりたいことでもあったのかもしれない。フォローを入れておこう。


「いや、楽しかったぞリーナ。やっぱお祭りといったら出店で買い物がスタンダードだよ」


「そうですか? 楽しんでいただけたなら、良かったですわ」


 なんとなく、やってしまいましたわという雰囲気だったリーナに楽しかったと素直な感想を言うと、ほっとしたようにはにかんだ。グッド。


「それじゃリーナ、改めて楽しかったよ」


「ええ。また後で、少しの間お別れですわゼフィルスさん」


「ああ、またな。ありがとうリーナ」


 手を軽く振って見送ってくれるリーナにお礼を言って別れ、次の待ち合わせへと向かう。


 本当はもう少し別れを惜しみたいのだが、時間が許してくれないのがつらたんだ。

 しかし、スケジュールに遅れるわけにもいかない。

 なにしろ女子を待たせているのだ。


 次の場所は〈戦闘1号館〉の正面門、つまり入り口。

 待ち合わせしているのは、ラナだ。


 俺が時間ギリギリにそこへ到着すると、一際目立つ女子に目が吸い寄せられた。


「ラナ」


「あ、ゼフィルス」


 少し足を止めゆっくり歩いて向かうと、そこに居たのは浴衣姿のラナ。

 向こうも俺に気が付いたのか、いつもとは違った優しい笑みを浮かべて軽く手を振ってくれる。

 おおう、なんだかラナの魅力がいつもの3倍増しに見えるぞ!

 なんだか儚くて、キラキラしているようにも見える。


 ラナの浴衣は淡い青をベースに濃い青色の花のような絵が描かれている浴衣。

 去年は赤系だったが、今年は青系の浴衣だった。

 ラナの銀髪によく映えていて、とても綺麗だ。

 髪は去年のように後ろで纏められていて、いつもとは別の雰囲気を感じる姿。

 思わずその可憐さに見惚れてしまいそうだ。


「待たせちゃったか?」


「ううん。私も今来た所よ」


「そっか」


「うん」


 しかもなんか今日はお淑やかな雰囲気!

 いったいラナはどうしたって言うんだ! 可愛い。

 いかんいかん。いや、全然いかんくない。可愛い。

 ギャップで思わずやられてしまいそうになったぞ!

 俺は近づくとすぐにラナの手を取った。


「ふわ、ちょ、ゼフィルス?」


「ラナ、綺麗だ」


「へ、ふわわわ!?」


「その浴衣、すごくラナに似合ってる」


「わわわわわわわ!?!?」


 俺がストレートに思いを込めて褒めると。

 ラナが一瞬で沸騰した。

 繋がれた手を見たり俺の顔を見たりと視線が彷徨った後、グルグルと目を回し始める。

 あ、これはまた「きゅー」といって倒れるパターン!?


「くっ、だ、大丈夫よ」


 しかし寸前で耐えた様子のラナ。少し体がプルプル震えているような気がしなくもないが、なんとか真っ直ぐ俺を見る。


「ゼ、ゼフィルスもその、ごにょごにょ、かっこいいと思うわ」


「おう。ありがとな」


「うん」


 とても照れながら俺の浴衣も褒めてくれるラナ。すごく可愛いです。

 しばしそのままで見つめ合っていると、俺は去年のことを思い出して周りに目を向ける。


「どうしたのよ」


「いや、今年もシズたちが見張っているんじゃないかと思ってな」


 去年ラナとの夏祭りツアーはシズたち従者同伴だったからな。

 だが、今年は少し見渡しても見当たらない。


「それなら大丈夫よ。今回は一緒には来てないわ」


「え? そうなの?」


 ラナがそう言って胸を張る。

 おっと、どうやら今回は従者はいない様子。やはり離れないようにしっかりこの手を握っておかなければ。


「見張ってはいるけど」


「あ、やっぱり見張ってるのな」


 やっぱり見えないところから俺たちの様子を見張っているみたいだ。

 見当たらないのは『潜伏』スキルでも使っているのかもしれない。

 とりあえず、後日シズにスナイプされないよう気を付けた対応を心がけなくては。

 ……なんとなく、すでにやらかした後な気がするのは、きっと気のせいだろう。


「それじゃ、行くか」


「うん。ねぇゼフィルス。さっきから気になっていたのだけど、そのお面って?」


「ふっふっふ、気になるか? 実はこれは〈幸猫様〉のお面だ!」


「な! なによそれ、それ絶対欲しいわ!」


 ふっふっふ。そうだろうそうだろう。ラナならそう言うと思ったよ。

 みんなこの〈幸猫様〉のお面が気になる様子だな。当然だ、俺が逆の立場でも聞かずにはいられないだろう。むしろ挨拶とか飛ばしてお面のことを先に聞いてしまうかもしれないまである。

 俺が最初に見つけといてよかったぜ。


「ねえ、ゼフィルス。お願いがあるわ」


「みなまで言わなくても分かってるって。じゃあまずは〈幸猫様〉のお面を買いに行こう!」


「うん!」


 ということで、最初は〈攻略先生委員会〉の出店へ直行することになった。

 幸い、入り口に近い場所にあったのですぐに出店へと到着する。


「あ! あったわ!」


「あら? ラナ様にゼフィルス君?」


「フィリス先生?」


 2人で〈幸猫様〉のお面に目がいっていると、とても聞き覚えのある声で名前を呼ばれて振り向く。

 そこにはなんと、我らが担任のフィリス先生がいらっしゃったのだった。

 侯爵家の長女が店番!? いいのそんなことして!?

 いや、ダンジョン潜っているし、色々今更ではあるけど。


 フィリス先生の姿も、お祭りに合わせて浴衣だった。白と赤のタイプでリボンの大きな絵がたくさん描かれている。髪はポニーテールからアップになっていて、店番らしく丸椅子に座って接客しているようだった。

 普段和服系の装備を着ているためか、浴衣もバッチリと着こなしていて、素晴らしく似合っている。


「お二人はデートですか?」


「デ!?」


「はっはっは、そう見えますか?」


「違うのですか? とても良いと思いますよデート。先生応援しちゃいます」


 デートと言われてまたもラナの顔が瞬間沸騰する。

 おかげで俺は平常心で居られたよ。

 からかわれたのかと思ったが、なかなかに本気のご様子。応援されてしまった。

 先生がそれを言っていいの? とちょっと思わなくもない。


 デートか……。1日に何人もの女子と夏祭りを楽しむのは果たしてデートなのか。

 難しいところだが、俺は深く考えないようにして頷いた。


「ええ。実はデートなんですよ。今はラナと2人で回っているところです」


「ゼ、ゼフィルス、そんなストレートに!? ううん、別に否定したいわけでもないんだけど、確かに今回は2人きりだし、デートと言われてもそうだと言えるかもしれないけど、でも少し恥ずかしいって言うか」


 だんだんとセリフが小声になって、さらには顔をどんどん背けていくので後半はほとんど聞き取れなくなってしまった。


「あらあら。ラナ様も青春してますね。先生ちょっと、いえかなり羨ましいですよ」


 フィリス先生は聞き取れた様子だ。いったい何を呟いていたのだろう。

 あまり話を脱線しすぎるとラナが気絶する可能性もあるので話はこの辺にして、先に用を済ませよう。


「フィリス先生、お面をくださいな」


「あら、もうお話は終わりですか? 少し寂しいですね。……どれにしますか?」


「あ、あの〈幸猫様〉をお願いするわ」


「はい。ゼフィルス君は?」


「俺はもう購入してあるので」


「あら。私が来る前に買ったのね? これ〈攻略先生委員会〉のオリジナル限定グッズなのよ。どうかしら」


「とても良いお面だと思います!」


「うん! これはいいわ!」


「思っていた以上の食いつきでした」


 そりゃあ〈幸猫様〉のことだもん。俺もラナも本気である。

 俺たちの食いつきに少し驚き顔のフィリス先生。ふっふっふ、逃がしませんよ?

 後日商談させてくださいね?


「タバサ先生の言うとおり、〈エデン〉にはバカ売れしそうですね」


 フィリス先生のそんなボソッと呟いた声を、俺の耳は捉えた。ってタバサ先生の発案かよ!

 そりゃ直撃するわ! タバサ先生は〈エデン〉の内部事情と〈幸猫様〉についてとてもよく知っておられるだろう。

 さては最初からこれを見越していたな? 後で会ったときに聞いておこう。


 そんなこんなで無事〈幸猫様〉のお面ゲット!

 ラナが早速横を向く。


「ゼフィルス、着けてくれないかしら?」


「喜んで」


 俺とは反対方向だ。さっきハンナが同じ位置に着けていたから間違わない。

 目を瞑って俺に身を任せるラナに、なるべく優しくお面を着けてあげた。


「ゼフィルス。お揃いね」


 そう言ってこっちを向いてはにかむラナ。プライスレス過ぎる! 可愛い!


 ハンナともお揃いなのは黙っておこう。『直感』さんが絶対に言うなよと念を押してくるからな。


「可愛いぞラナ」


「かわ!? えっと、その、ありがと」


〈幸猫様〉パワーも加わり、ラナがさらに魅力アップした気がした。可愛い。

 小さな声でお礼を言う姿も半端ない。可愛い。


 俺はラナの手を取って、再び歩き始めたのだった。



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