第1428話 シエラと夏祭り。個室で優雅な一時を。
今、隣に女神がいる。
ハンナとはまた違った凄まじい魅力を放っている。
その正体は、浴衣姿のシエラだ!
もうね、視界にちらちら入る度に目が引き寄せられるんだ。
なにこの魅力? 半端ないんだけど?
まだ出店も覗いてないし、なんなら祭の会場を手を繋いで歩いているだけなのに満足度が高い。
もうずっとこのままで居たいくらいだ。
「ゼフィルス」
「ん? 呼んだかシエラ?」
「なにをぼーっとしているのよ」
「いや、シエラがあまりに美しすぎて、つい意識が」
「な! そ、そうなの。別につまらないのでなければいいわ」
そう言って再び前を見据えるシエラだが、目の錯覚でなければ頬は紅潮しているように見える。
だけど俺、なんか今すごいこと言わなかったか? 口がちゅるんと滑った気がする。
……気のせいということにしておこう。
「こほん。つまらないなんてことは全然無いから安心してくれ。なんかシエラと一緒だとこうして手を繋いで歩いているだけで満足感あるんだよ」
「そうなの?」
「ああ。不思議とな」
「…………」
俺とシエラの視線が同時に繋がれた手に注がれる。
これまでもシエラとは割と手を繋ぐ機会も多かったためだろうか、とても自然に感じるのだ。
あれだ、ずっとこうしていたいという感覚。
シエラの手の温かさを感じるだけで不思議と満足なんだよ。
しかしこうしているだけというのもどうだろう?
俺は満足だが、シエラは楽しんでいるだろうか?
できればシエラにも楽しんでもらいたい。
シエラにはいつも支えてもらっている自覚もある。ジト目だっていつもサービスしてくれるのだ。何か報いてあげたい。
「シエラ」
「なにかしら?」
「何かしたいこととかないか? 見たい出店とか、回りたい場所とか」
「……そうね。1つ行きたい場所があるの」
「1つと言わずにもっとでも良いと思うが」
「いいのよ1つで。多くのことを手広くやるよりも1つのことを集中してこなした方が深く、より深く印象に残せるのよ」
「なるほど、確かに」
「こっちよ」
シエラは量より質派のようだ。
もちろん俺に異論はないのでシエラに付いていく。
場所を決めてあったと言ったわりには来た道を戻る感じになっているのだが?
反対方向? いや、通り過ぎたのか? でもなんで?
俺と同じく2人で歩くのが楽しかったのだろうか?
「ここよ」
「ここ〈味とバフの深みを求めて〉の出張所じゃん」
そこは〈戦闘1号館〉の校庭にある、俺たちが料理アイテムでお世話になっているギルド〈味とバフの深みを求めて〉の出張所と書かれたグルメ店だった。
まさかの選択である。
シエラならもっとこう、宝石とかそういうものを選ぶ方が似合う気がするが。
貴族も多いからか、出店には宝石系の出張所もあるし。
「私たちがこの前〈食ダン〉に行った時に、食材の納品依頼を受けていたのよ」
「確かに受けたな。去年はハンナがたくさんの食材を格安で流してたっけ」
懐かしい。
〈味とバフの深みを求めて〉のギルドマスターで現〈生徒会〉生産副隊長のミリアス先輩は何かとハンナを気に掛けてくれて、去年は上級職になったばかりであわあわしていたハンナにたくさん世話を焼いてくれた。そのお礼に去年の夏休みで手に入れた食材を格安で流したんだったな。
「それで今年も〈食ダン〉に行くと言ったら、今年も格安でよろしくとお願いされてね。こちらもお世話になっているし、少しくらいならとオーケーしたの。そしたらここの優待券をもらったのよ」
「初耳なんだが??」
というか夏祭りで優待券とは?
さすがは〈生徒会〉のメンバーが代表を務めるギルド。ほかの出店とは違う!
「こんにちは、いいかしら?」
そう言ってシエラが優待券とやらを店員さんに渡すと、店員の彼女はもの凄い勢いで敬礼した。
「はいっ! お待ちしておりました! どうぞVIP席へ!」
「夏祭りの出店にVIP席ってどういうこと!?」
ここのグルメ店はちゃんと食事できる場所がある。
夏祭りにはこういう休憩する場所や食事を座ってする場所も数多く設置してあるのだが、ここは自分のお店の一部に〈テント〉みたいなアイテムを置いて、『空間拡張』したVIPルームを用意してあったのだ。
「こりゃびっくりだな」
「私も優待券をもらったとき初めて聞いたのだけどね。上位のギルドはやることが違うわ」
〈味とバフの深みを求めて〉は今やBランクギルドの一角だ。
『空間拡張』の〈テント〉系アイテムを使ったVIPルームの確保とか、夏祭りという行事においては考えもつかない。さすがはBランクギルド、と言ったところだろう。
「ゼフィルスこっちへ」
「お、おう」
シエラに呼ばれると、そこには長椅子と長テーブルが備えられていた。
ただ長椅子が1つしかない。
これではシエラと隣同士に座ることになる!
「座らないの?」
「座る座る」
もちろん俺はシエラの横に座る選択をする。しないわけが無かった。
すると、長テーブルの向こうに着物を着た学生さんが1人やってくる。
「ご注文があれば承りましょう」
あ、これって長テーブルに見せかけたカウンターなのか。
そう考えると、これはバーかな? 内装をよく見ると
それと同時に長テーブルの向かいには雰囲気の出たこじゃれた
「おすすめでいいわ」
「それなら俺も」
「オーケー」
あれ? 意外にフランクだなこの学生。
そして後ろから瓶を1本取り出してグラスに注ぐと、〈
「では、何かあればそちらのベルでお呼びください」
「ええ」
そう言って学生は去って行った。
「ふふ、ゼフィルスがそんなポカンとした顔をしているの、あまり見ないわ」
「そりゃ唖然とするだろう。というかこれなに?」
「そうね。新しい飲食店の試みと言ってたわ。お祭りで2人きりになれる空間って重要だと思う、だそうよ。これには私も同感ね」
「なるほど。確かに良い雰囲気の空間だよな。お祭りっぽい雰囲気もちゃんとあるし」
「気軽に食事が食べられるというのも高ポイントね。後で感想も教えてほしいそうよ」
そういえば去年はあれだけみんなで夏祭りを回ったのにもかかわらず、食事は甘い物が大半でちゃんとしたものはあまり食べられなかった気がする。
女の子にとって、お祭りと言えどがっつり食べることはできないとはリーナに聞いた話だった。
落ち着いて食事ができるのはもちろん、人混みが苦手な人にも配慮されていて素晴らしい。
この出店、新し過ぎるだろ。
個室空間か、そういえばシエラって騒がしい場所よりも、こういう落ち着いた空間の方が好きだったな。
「ゼフィルス、乾杯しましょ」
そう言ってこじゃれたグラスをこちらに向ける浴衣姿のシエラ。
これを見た瞬間、俺は細かい事なんてどうでもよくなった。
うむ。こういうお祭りもいいもんだよね。(魅了)
「ああ。乾杯だシエラ。この夏祭りに」
そしてカランとグラスを当てる。
飲んだドリンクは、やはりジュースだった。しかもこの味、俺たちが〈食ダン〉で大量にゲットしてきた〈
美味い! 雰囲気も合わさってさらに美味い!
さすがは〈味とバフの深みを求めて〉。味に深み出てるわ。
食事はがっつり、と言うには少なかったが、この後も他の子たちと祭を楽しむためにこれくらいでいいだろう。
シエラとは食事をして、この静かで、でも祭な雰囲気の空間でたわいない話をしながらまったりしたのだった。
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