第1427話 ハンナと回る夏祭り。身バレ防止が必要かも!?




「おおハンナ様! ど、どうかこの〈星ザラメのクッキー〉を食べていってください!」


「ハンナ様! 喉は乾いておりませんか!? どうぞこの〈リ・スプラッシュサイダース〉を受け取ってください!」


「ハンナ様! 美味しいポーションが出来上がったんです! その名も、〈ハニーポーション〉です! どうかご飲食を!」


「ハンナ様!」


「ハンナ様!」


「混沌!」


 ハンナと2人で回る夏祭りは、凄かった。カオス的な意味で。

 やっべぇ。みんなハンナのこと知ってるじゃん。

 出店の前を歩けばこれ持っていってくれあれ持っていってくれと差し出され、優しさからハンナが1つ目を受け取ってしまったためにどんどん貢がれる。

 これがハンナ様。

〈生徒会〉生産隊長様の実力。パナイ。


「あ、あはは。どうしようゼフィルス君?」


 ハンナがちょっと困った顔で聞いてくる。

 うーむ、これでは落ち着いてハンナと楽しめないからな。

 そう思ったところで俺の視界にお面屋さんが入って来て「ピン!」と閃いた。


「ならお面で顔を隠すのがいいんじゃないか?」


「あ、それ夏祭りっぽいかも!」


 もらった物は全て巾着型〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に入れ、ハンナがお面屋さんでネコのお面を買ってくる。

 ん? ちょっと待てハンナ!? それはただの猫のお面じゃねぇ!? 

 そ、それはまさか、〈幸猫様〉のお面では!?


「ねぇねぇ見て見てゼフィルス君! すごいよ! これ〈幸猫様〉のお面だって!」


「やっぱり〈幸猫様〉のお面!? なにそれ売ってたの!?」


「どうかなゼフィルス君。にゃ~ん?」


「ごっふ!? すげぇ可愛いです」


 ただでさえ破壊力の強いハンナと〈幸猫様〉がコンビを組んだらもう最強。お面を被ったハンナが「にゃ~ん?」してきた瞬間、俺は一瞬で敗北した。もはや親指を立ててイエスするしかできない。

 よく見ればここのお面屋、〈攻略先生委員会〉の出店やん。

〈幸猫様〉のお面は反則だぞ。というか俺も欲しい!


「えへへ。ゼフィルス君のお面はどうする?」


「俺も〈幸猫様〉のお面が欲しい!」


「お揃いだー!?」


 まさかのおそろ

 俺に〈幸猫様〉以外を選ぶなんてできないよ。ちなみに〈仔猫様〉のお面は見つからなかった。うーむ、公式ギルドには下部組織ギルドが無いからな。見習いならあるが。おかげで〈仔猫様〉の能力が生かし切れず知名度がまだ低いのかもしれない。


 まあ〈幸猫様〉グッズをゲット出来たので良し。

 俺は右半分を隠し、ハンナは左半分をお面で隠して出店を回る。


 ハンナは普段と髪型が違う関係もあって、これだけでハンナと見破る人は居なくなった。

 俺も勇者とバレることはない。

 相変わらず手を繋ぎながら真っ直ぐ校舎へとたどり着く。


「ここは見た目は櫓だけど、中は校舎がそのままなんだね」


「校舎の姿が出ないようカモフラージュされているけどな。中は普通だ」


〈戦闘1号館〉の外見は完全に櫓にしか見えないが、中は普通に校舎なのだから不思議である。

 真っ直ぐここまで来たからかまだ空いていて、廊下を歩く人は疎らだ。

 ちょこちょこいろんなお店を周りながらハンナと夏祭りを楽しんだ。


「ハンナ、もう一度頼む」


「んふふ、ゼフィルス君ったら気に入ったの? いいよ、はい、にゃーん」


「あーん」


 ハンナがアイスをにゃーんあーんしてくれて美味しさ100倍超えです。

 お祭りと言ったらこれだよねみたいにハンナが自然とあーんをしてくれたのだが、その時お面に因んで「にゃーん」と口にしたのがパナかった。

 もう俺はハンナから抜け出せないかもしれない。


〈幸猫様〉! こんな時までありがとうございます!

 アイスが食べ終われば次の店を物色する。


「よし、じゃあ次はどんなにゃーんを食べさせてもらおうか」


「そんなにしてほしいなら今度から寮でやる?」


「いや、こういうのはお祭りだからいいんだよ。このドキドキ感、お祭りでなくては味わえない」


「ド、ドキドキしちゃうんだ。うん、ちょっと分かるかも」


「分かってくれるかハンナ! じゃあ早速次のものを」


「でもちょっと待ってゼフィルス君。多分もう時間切れだよ」


「な、なんだってー!?」


 ハンナの絶望的なセリフに慌てて時間を確認すれば、いつの間にか11時20分。

 11時半から次の待ち合わせなので時間は10分しかなかった。


「他の出店も結構並んでいるし、もう買い物して食べる時間は無いかも」


「なんてこった」


 楽しい時間が過ぎるのって早すぎると思うんだ。


「はぁ。仕方ない。じゃあ残りの時間は散策するか?」


「うん!」


 そう言って手を差し出せばハンナがその上に手を置いて自然と手を繋ぐ。

 ハンナと交代の時間が来るまで夏祭りを楽しんだのだった。


 ◇ ◇ ◇


「はぁ、もう時間か~」


「本当に時間は過ぎるのが早いな」


「ゼフィルス君、楽しかった?」


「もちろんだ。また一緒に回りたいな」


「私もだよ~」


「そうだ、最後にスクショを撮るか」


「え? 誰かにシャッターを任せるの?」


「いや、スクショには自撮りっていう方法があってな。まあ近くに寄ってくれ。撮るぞ」


「はわわ!?」


 ハンナの隣、肩がくっつく位置まで近づいてスクショを掲げる。


「ハンナ、目はカメラ目線。撮るぞ」


「う、うん!」


「はい、ピース!」


 パシャパシャ。


「ついでにハンナの浴衣姿も撮ろう!」


「撮影会始まっちゃった!?」


 パシャパシャ!


「もう! ゼフィルス君時間だよー」


「やっべ! じゃあハンナ、一緒に回ってくれてありがとな! 〈生徒会〉の仕事頑張れよー」


「うん! また後でねゼフィルス君!」


 とっても惜しみながらハンナと別れる。

 最後に思い出も撮れたし良しとしよう。

 というかスクショいいな。

 去年は無かったが、今年はこれでみんなの浴衣姿を撮りまくれるぜ!

 素晴らしい!


 そして俺は少し駆け足気味に次の場所へ向かう。


 待ち合わせ場所は体育館前。

 そこに気品溢れ、遠目からでも目が吸い寄せられる美少女が待っていた。


「シエラ」


「ゼフィルス」


〈エデン〉のサブマスター。シエラである。

 時間ピッタシ。大丈夫。


「悪い、待ったか?」


「大丈夫よ。私も今来たところだもの」


 なんとなくやり取りが男女逆だと思いつつも、改めてシエラの姿を見る。

 シエラは、端的に言って女神だった。う、美しい美少女!

 白をベースに紫の花が描かれている浴衣。シエラの長い金髪はアップで纏められていて、普段は隠れているうなじが凄まじい主張を放っていた。目が引きつけられるー! その所作は浴衣を着慣れているもののそれで、なんというか、いつもより気品が3倍増し。あまりにも美しかった。


「シエラ、綺麗だ」


「! ど、どうしたのよ突然」


「いや浴衣姿がな、とんでもなく美しかったんだ。シエラの浴衣姿が美しかったんだ!」


「に、2回も言わなくても聞こえているわよ。そう……でも似合っているなら、良かったわ」


 思わず口からキザったらしい褒め言葉が出るこの感覚、入学式の時シエラと初めてあった時を思い出すな。

 2回目に会った時は正直に褒めたら溜め息を吐かれたけど、今日のシエラは照れているのか少し顔を赤くして目を瞑ってそっぽ向いている。

 その仕草だけでもう今日は大満足。たとえお祭りが今急遽終わったとしても無念はないだろう。


「こほん。時間もあまり無いのだし、行きましょうか」


「お、おう。そうだな!」


 いつまでもここに居るわけにもいかない。

 俺は再びお面で顔半分を隠して先を歩くシエラの隣へ急ぎ足する。


「……そのお面はどうしたの?」


「よくぞ聞いてくれたシエラ! 身バレ防止のためにお面屋を覗いたら売ってたんだよ! 見よ! 〈幸猫様〉のお面だぜ!」


「テンションが高いのは、よく分かったわ」


 おっといけない。〈幸猫様〉のお面自慢は帰ってからにしよう。

 時間はまだまだあるんだ。

 ふふふ、みんなに羨ましがられる光景が目に浮かぶぜ。


「それはそうとゼフィルス。ハンナとは手を繋いで校舎を回ったそうね」


「俺とハンナの行動がバレてる!?」


 一瞬で現実に呼び戻された気分。

 シエラの顔を、今は見ることができない予感!


「……私とは手を繋いでくれないの?」


 そう言ってシエラから手が差し出される。

 ホワッ! 今日はどうしたんだシエラ!?

 祭か? 祭の雰囲気に当てられたのか!?

 この美しいシエラの手を掴んでもいいの!?

 ありがたく繋がせてもらおう!


「……もちろんだシエラ! 一緒に祭を回ろうな!」


 俺はそう言ってそっと、優しく、シエラの手を握った。





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