第1425話 マリー先輩VSゼフィルス。いつも俺の全勝だ!




 8月28日、明日から2日間は学園恒例の夏祭り期間だ。

 夏休みの最後の思い出作りだな。


 場所は毎年変わり、去年は俺たちが1年生の時にいた校舎、〈戦闘3号館〉だった。

 そして今年は現1年生の校舎、〈戦闘1号館〉が大改造されて夏祭りの会場と――なるはずだった。

 ただ今年は去年の7割増しくらい学生が多く、1つの校舎に収まりきらなかったために、隣接する新しい校舎――〈戦闘6号館〉の校庭や体育館も使用することになった。


 ちなみに〈戦闘6号館〉は新しく出来たばかりの新館で、ノーアたちが勉強している校舎だな。さすがに新館をやぐらに大改造するのは気が引けたのか、校舎だけはそのままとなっている。〈戦闘1号館〉の見た目は巨大やぐらになってるけどな!


 朝の10時から始まり、夜は9時まで続く。これが2日間。

 しかも初日の夜は、去年は無かった花火大会まで企画されているため、非常に盛り上がると予想されているな。

 規模も去年よりでっかい。

 去年だけでも2日ではギリギリ回り切れたくらいだったというのに、今年はこれ全部は回りきれないんじゃないかな?


 出店は学生の任意参加。

 任意参加でも〈生産専攻〉や〈支援専攻〉、〈営業専攻〉の学生はほとんど何らかの形で関わっているらしい。ギルドや個人でも出せるからだ。

 去年はハンナもギルド枠で参加していたっけなぁ。

 しかし、今回ハンナは〈エデン〉枠では不参加だ。去年はいっぱい働いていたので、今年は一緒に回ることを優先するとのことだ。


 大歓迎。一緒に回ろう!


 なお、それを決めるのは俺ではない。


 どういうことかって?

 うむ。ブリーフィングの度に男子は排除され女子だけで話し合いが為されていたのだ。誰がどのスケジュールで誰と回るか、とな。

 男子は女子が組んだスケジュール通りに回ることが義務づけられている。

 義務づけられてるんだ。(2回)


 夏祭りの前日にそのスケジュールの完成版が配られたよ。

 なお、俺に渡されたスケジュールには、それはもうびっしりと予定が敷き詰めてあった。

 初日の1時間半交代は分かる。でも俺に休みや自由の項目が見当たらないのだが、どうしてだろう?


 また、サトルの項目には自由しか無いのもどうしてだろう?

 サトルの顔がまたハニワみたいになってたよ。


「ゼフィルス、分かってるわね? この通りに行動しないとダメなんだからね?」


「俺の自由が拘束されてる……!」


「みんなゼフィルスと一緒にお祭りを楽しみたがっているの。無理を承知で頼むけれど、お願いね」


「そう言われると弱いな。よし、任せておけ!」


 右でラナが顔を若干赤らめてビシッと言ってくる。照れているようだ。

 左のシエラはクールにお願いごとだ。なお、俺がそれを断ることはない。

 もちろん了承する。


「ゼ、ゼフィルスさん~!!!!」


 なお、サトルがすっごく目に汁を溜めた顔で俺の名前を呼んでくるが、それにはサッと顔を背けておいた。

 男は涙を流さないのだ。こういう時は見てあげないのが優しさだ。


「う、うおおおお~! 俺だって女の子の1人や2人と夏祭りを回ってやるんだからなー!」


「あ、サトル」


 なんだか宙にキラキラしたものを流しながら走り去るサトルを見送る。

 なんかすまん。でも俺でもどうしようもないことはあるんだ。


 なお、レグラムの方のスケジュールを見させてもらうと、全てオリヒメさんとのデートで埋め尽くされていた。さすがだ。

 メルトの方は?


「メルト」


「聞くな。そんなんじゃない」


 いや、いったいスケジュールに何が書いてあったし。

 ただ名前を呼んだだけなのに、メルトからは何も聞くなオーラを放たれていた。


 ちなみにモナたちはアンベルさんやサティナさんに誘われて〈採集無双〉の面々で夏祭りを楽しむようだ。こっちは平和だな~。


「ラウの方はどうだ?」


「俺は特に無しだな。むしろ色々交流もあるからなるべくスケジュールを空けてほしいとお願いしていた」


 ラウは外のギルドとの繋がりも深いからな。何しろ【獣王】だ。

〈獣王ガルタイガ〉もそうだが、【獣王】は獣人に非常に人気な職業ジョブ

 一目会いたい、話がしたいという人も多いらしく、とあるステージに呼ばれているらしかった。

 なんかアイドルみたいだな。

 がんばれ。


「セレスタンは、いつの間にか居なくなってるし。ヴァンはどうだ?」


「はっ! 自分は初日はサーシャさんとカグヤさんと一緒に回ることになっているであります!」


「なんか1人だけまともなのがいる!」


 なお、レグラムはもう普通を超越しているのでノーカウント。

 なんかヴァンだけ光り輝いて見える気がするんだよ!(気のせいです)

 青春なのか? 青春なんだな! あれ? でも2人一緒? ……うん、青春だ!


「頑張ってこいよヴァン! 応援してるからな!」


「はっ!」


 細かいことは気にしない。

 夏祭りなんて女子と回れるだけで大感謝だ!


 俺も、色々準備しなくてはなるまい。 


 今日も今日とてダンジョンに行き、夕方。

 俺はAランクギルド〈ワッペンシールステッカー〉を訪ねていた。


「マリー先輩いるか~?」


「これはゼフィルス様!? 今日はお一人で!? どのようなご用件でしょうか!?」


 対応してくれたのは〈商業課〉の学生だった。

 お店、でっかくなっちゃったもんな~。

 マリー先輩はずっと小っちゃいままなのに。

 あのマリー先輩とのやり取りが無くなってしまったのが少し哀しみ。


 なぜか学生たちがビクビクしているのは、俺が度肝を抜きすぎたせいではないだろう。きっと。

 まあ、それはともかく伝言を伝えてもらうとする。


「マリー先輩を頼む。明日着るための浴衣を取りにきたんだ」


「あ、浴衣の件ですね。承知いたしました。奥へご案内いたします!」


 そう言って〈商業課〉の学生が一礼すると、実にキビッとした動作で案内してくれる。向かうのは奥のVIPルームだ。

 そう、今日俺は注文していた浴衣を取りに来ていた。

 去年はギリギリになってしまってマリー先輩に借りを作っちゃったからな。まあ、すぐに返したけど。


 その反省から今年は前もって、それこそ水着を注文したときについでに注文していたので今日は受け取るだけだ。

 VIPルームで待っていると、すぐにマリー先輩が元気な声でやってきた。


「兄さんご無沙汰~よう来たな~」


「よっす、マリー先輩! マリー先輩も元気そうだな!」


「このクソ忙しい時期に寝込んでられへんからな! 今一番元気を振り絞ってるで!」


「お疲れさん」


 夏休みは海や夏祭りで、衣類を扱うマリー先輩としては嬉しい悲鳴な季節だ。

 来る途中に見たが、店もかなり繁盛していたからな。


「今日は浴衣の受け取りだけか?」


「おう。それと素材の納品もな」


「い、いつもおおきに~」


 最近は買い取りも〈商業課〉の学生に全てを任せている俺とマリー先輩だが、たまにはこうして顔を合わせて話をする。

 マリー先輩との話は楽しいからな。それはマリー先輩も同じなようで、こうして忙しい中、少し時間を作ってくれるのだ。


「聞いたで兄さん。ギルドメンバーの女子と夏祭り行くんやろ? しかもスケジュールがパンパンらしいやないの」


「耳早すぎじゃね!? 俺なんかそれ今朝知ったんだが?」


「そらもう、〈エデン〉メンバーの浴衣や水着作ってるのは誰やと思ってんねん。その辺の話は女子ネットワークで筒抜けや!」


「さすがは商売人!?」


 誰かがマリー先輩に言ってしまった予感。

 いや、もしかしたら相談したのかな?

 ……それはないか。マリー先輩だしな。


「なんか今妙なことを考えなかったか兄さん?」


「ノーノー。何も考えてないよ。マリー先輩は去年から身長変わらないな~とか思ってないよ?」


「よっしゃ上等や! そのケンカ高く買い取らせてもらうで!」


「ならありがたく買い取ってもらおう、食らえ、素材のシャワーだー!」


「またこんなに狩ってきてからにーーー!?!?」


 勝敗は一瞬で決着した。

 まあ、俺とマリー先輩のいつものじゃれあいだ。

 上級中位ダンジョン素材の山を作ってあげればマリー先輩に勝ち目は無い。

 いつも俺の全勝だ!


「まーったく兄さんには敵わんな~。――ほな、出番やで」


「「「はい!」」」


 マリー先輩が手を2回パチパチ叩くと、商業課の学生たちがぞろぞろ入って来て素材に目を丸くし、しかしプロ(見習い)の成せる技か、きびきびとした動作で素材を引き取って去って行った。

 マリー先輩、なにその芸! 手を叩いただけで人を動かすとかかっこよすぎだろ!

 あと〈商業課〉の学生たち、ほとんどノータイムで来たけど、もしかしてルームの外で待機してたのか? なんかすごい。


 そして商業課の学生が去ったところで俺は奥の手を出すのだ。今だ!


「そうだマリー先輩、追加で依頼があったんだ!」


「な、なにぃ!? なんか嫌な予感がビンビンするで!?」


「なーに安心してくれ、ただの上級中位ジョーチューランク4、〈聖ダン〉の最奥ボスからゲットした、装備全集レシピだからさーーー! しかも3枚あるぜ!」


「ちょ、何これ、〈神〉素材を使つこうた装備!? 〈神装剣士シリーズ〉に〈神装本士シリーズ〉、〈神装弓士シリーズ〉ってなんやこりゃ!? しかもなんで全部全集なんやーーーーーー!!」


 俺がピラリと取り出したのは〈聖ダン〉の最奥ボス〈ハンドエル〉からドロップした、【神装】系の専用装備シリーズレシピ。最初に〈神装剣士シリーズ装備全集〉を手に入れてから程なくして〈神装本士シリーズ〉と〈神装弓士シリーズ〉の装備全集まで手に入れてしまったのだ。ニーコには頑張ってもらったよ。


 こうなったらもうマリー先輩に渡すしかないよな!

 結果、もの凄く良いリアクションが帰ってきた。

 久しぶりにマリー先輩の度肝を抜いてやったぜ! はーっははははは!!


 マリー先輩がレシピを見て唸るのを見て加工を頼む。


「はっ!? 〈神〉素材ってなんやねん。素材加工がなんや凄まじい難易度なんやけど!?」


「頼むぜマリー先輩。これはマリー先輩にしか頼めないんだ!」


「無論分かっとるわ! まったく兄さんには毎度びっくりさせられるなぁ。ほな、これはすぐに取りかからせてもらうで」


「任せたぜマリー先輩! それと、浴衣ありがとな!」


「また何かあったら注文してってなー」


 途中なんかハプニングが起きた気がしなくも無かったが、無事浴衣ゲット!

 これで明日の準備も整ったな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る