第1422話 新メンバー〈五ツリ〉開放!『ドロップ革命』




 ―――〈夜ダン〉52層。

 ここには〈ダークリッチ〉という、かなり強力なエリアボスが出現する。

 名前の通り〈リッチ〉系。しかも『リッチ特性』とかいうスキルのせいで〈幽霊特性〉や『浮遊』、『闇魔法威力上昇』などのいくつかの能力を得ていて、本来ならとても強力でやりにくく倒しにくいボスだ。


 まず無属性攻撃にかなりの耐性を持つ〈幽霊特性〉を持っているだけでも厄介だろう。なのに空も飛んでいるために攻撃が届かないしやりにくい。

 だが、そのおかげでHPは低く、〈夜ダン〉のエリアボスの中では屈指の経験値をくれるのが利点。

 そのため、もし効率的に〈ダークリッチ〉を倒すことが出来れば、周回は非常に良い感じにレベル上げが捗るだろう。


 そして、その効率的な戦法というのがこれだ。


「『羨ましいからそれ禁止』!」


「ア、ア??」


 キキョウの無慈悲な禁止令に『リッチ特性』という〈ダークリッチ〉の要を封印されてしまったボスは、バタンと上から落ちてきてダウンした。


「今だ! 総攻撃――!!」


「「「おおー」」」


 ボスに〈封印〉って効くの?

 答えは、効くんです。だってキキョウは【大罪】職だもん。

 そんな罪深いことも平気でこなしてしまう。そこに痺れる憧れる!


 まあ、パッシブスキルを封印することはできないんだが、実はこの『リッチ特性』ってアクティブスキルなんだよね。

 つまり〈ダークリッチ〉は一定時間、この凶悪なスキルでパワーアップしてプレイヤーを追い詰めてくるわけだ。効果が切れたら地面に降り立つので、そこを攻撃する感じなんだが。


『リッチ特性』なんて1つのスキルに色々纏めちゃっているせいで、逆に言えばこのスキルを封じられちゃうと超クリティカルヒット。

 つまりは【嫉妬】が仲間にいると、とんでもうまうまな感じになるのである。


 おかげでさっきから〈ダークリッチ〉を呼び出す度に、こうして空を飛んでは叩き落とされてダウンし、袋だたきになっては撃破されるという悲しい最期さいごを送っていたりする。


 1戦平均8分だな。宝箱を開けることも含めて。


「やりましたわ! LV30になりましたわーーー!」


「アリスも! アリスもーー!」


「わ、私もLV30になりました」


 キキョウがパーティに所属しているノーアチームを毎回参加させていたおかげで、まずノーア、クラリス、アリス、キキョウ、アルテの5人がLV30に到達した。

 つまりは五段階目ツリーの開放だ!


「早速SP振りをするぞー!!」


「「「おおー!」」」


 本当ならギルドハウスに戻ってじっくり振りたいところだが、〈ダークリッチ〉はキキョウがいないとやや面倒なボスなので、今ノーアチームにパワーアップしてもらい、ボス戦を再開してもらいたい所存。

 ということで今SP振って〈ダークリッチ〉で試し撃ちしてもらいたい!


 そう言ったらなぜか視界の端で〈ダークリッチ〉がまるで追い剥ぎにでもあうかのように震えていたが、きっと気のせいだろう。


 俺は最強育成論メモ(五ツリ版)を取り出してそれぞれに渡す。


「ねぇ、なんでゼフィルスって私たちの次のツリーの内容とか知っているのかな? というか、あのメモってなんであるのかな?」


「ゼフィルス先輩だもんね~」


「深く考えるとダメなことも世の中にはたくさんあるんですのクイナダさん」


 俺がノーアたちに五段階目ツリーを伝授していたら、クイナダとカグヤとサーシャが集まってゆっくり首を横に振っていた。

 どうしたんだろうね?


「振り終わりましたわ! これで私も〈五ツリ〉使いですの! オーッホッホッホ!!」


「ノーアさん早っす!?」


「迷いの無い振り」


「私たちの番になっても、きっと同じことになるんでしょうね」


 ノーアが真っ先に振り終わる。

 俺の言葉になんの疑問も抱いていない、潔いSP振りだった。

 ナキキがなぜか戦慄し、ミジュが感心し、シュミネは達観したように頷いている。

 うむ。シュミネの言うとおりだ。

 君たちも遠くないうちに同じことになるんだよ。


「うわ~。ゼフィルス君派手にやってるよ~。後でシエラさんたちにも伝えておかないと」


 ん? 今カイリなんか言ったか? 微妙に『直感』さんが反応したような気がしたんだが、気のせいだったかな?


「アリスも終わったよ~」


「わ、私も、終わりました」


「頭にスキルの使い方が流れてくるこの感覚は、いつ感じても良いものです」


「それ分かります~。最初は気が付いたら知ってた~みたいな感じでしたけど、意識すると頭に入ってくる感じしますよね。これが結構気持ちいいんですよ」


 インストールかな?

 クラリスとアルテの会話にそんな感想が出てくる。

 だが、あながち間違いとは言いがたいんだよな~。

 俺も下級職時代はあまり気にしなかったが、実は新しいスキルなどを覚えると、体にその使い方がインプットというか、インストールされるらしい


 最初はSPを振ったんだから使えて当然、みたいに使っていたけど、考えてみればなんで使えるの? って疑問に思うよな。

 あと、このインストールされる感覚が、全能感とでも言えばいいだろうか。なんでもできる気がしてきて気持ちが良いのだ。まあ、意識しないと感じ取れないくらいの自然な感覚なのだが。


 でもこの感覚が結構重要で。感受性が高い人は、この全能感というか高揚感を得たいがために微妙なスキルにも思わず手を出しがちなんだという情報は最近知ったものだ。


 この世界、やけにスキルの振り方が雑だと思ったが、そういう理由もあったんだな。


「ゼフィルス様、試し斬りしてもよろしいかしら!?」


「よろしい! じゃあ〈ダークリッチ〉を呼び出そうか! サティナさん、頼む」


「お任せください」


 哀れ〈ダークリッチ〉。試し斬りの相手になってちょうだい!

 サティナさんが〈フルート〉を吹くと、黒い闇の塊がポップし空に出現したかと思えば、そこから〈ダークリッチ〉が出ようとする。

 ゆっくりと、相手に恐怖を抱かせるように、まるで地獄の底からやって来たような不気味さで闇のゲートから出て来――。


「五段階目ツリーだよー『雷竜らいりゅうアターック』!」


〈ダークリッチ〉だけじゃなく、雷竜も召喚!?

 アリス、待ちきれなかったか~。

 いや、雷竜というより、雷で出来た竜である。大きさは15メートル。雷耐性を貫通する『雷虎アターック』の上位ツリーだ。


 アリスの命に従った雷竜が、全力で現在登場中の〈ダークリッチ〉へヒットする。


「アアアアアアアアア!?」


 大ダメーーーーージ!

 まだ出現の途中だったのに! 〈ダークリッチ〉の哀れみが留まるところを知らない。まあ、ポップ現象じゃないので攻撃通るよって教えたのは俺だけど。(←原因)


「ヘイトを稼ぎますね。『嫉妬心は黒と闇』!」


 キキョウが使うのは〈五ツリ〉の挑発スキル。青白い火の球がキキョウのすぐ側に灯ると、〈ダークリッチ〉は叫び声を上げながら巨大な闇の球『ダークリッチ玉』を展開する。溜め技だ! 強力な威力になるのは間違いないだろう。しかし。


「良いですね! 『あれ良いな~欲しいな~』!」


「ア?」


 それはキキョウの略奪スキル。

 相手の攻撃に対し、それを乗っ取ることができるスキルである。

 乗っ取れる攻撃は結構限定されているが、ああいう溜め・・て放つような魔法は大体乗っ取り対象だ。


 せっかく〈ダークリッチ〉の頭上に出来上がった巨大なボールがそのまま落下フォールして〈ダークリッチ〉に直撃した。


「アアアアアア!」


「『零千ゼロセン』!」


 続いてはクラリスのスキル。

 998本の剣が組み合わさり、飛行機へと形作られる。


「発射!」


 ズドドドドドド。

 そして翼から剣が連射され〈ダークリッチ〉へ飲み込まれる。さながら剣の爆撃とでも言うような威力の攻撃に〈ダークリッチ〉の叫びも聞こえてこない。

『零千』は悠々と空を飛び、まるでテイムモンスターのようにクラリスのことを援護する。


「『聖獣展開』!」


「ヒヒヒーン!」


「5体まで聖獣を召喚できる、強力なスキルなんですけど! まだ1体だけなんですよね」


 アルテが使用したのは、スキルLV10では最大で5体の聖獣を一時的に召喚可能という破格で凄まじいビジュアルのスキル。

 だったのだが、アルテの聖獣はまだ〈聖獣ペガサス〉だけなのでちょっと迫力負けしてるな。


「グァ!」


「ごめんごめんヒナがいるので迫力負けしてないですって! よーし、ヒナ、やっちゃいましょうー!」


 まるで「聖獣じゃない私は迫力が無いって言うのー!」と抗議するようにヒナがくちばしでアルテを突つき始めるが、なんとかアルテが諫めてノーアへと〈聖獣ペガサス〉を送る。


「――ノーアさん、そっちの子に乗ってください!」


「お願いしますわアルテさん!」


 最大5体の聖獣。それはパーティの数にぴったりだ。

 そしてアルテは、聖獣に乗る者へ回復やスイッチなどの支援を送ることが可能なのである。


 ノーアが〈聖獣ペガサス〉に騎乗し、『リッチ特性』を使って空へ逃れようとする〈ダークリッチ〉へ肉薄する。

 まだキキョウのユニークスキルは使わない。だって、ノーアのスキルはカウンターがメインだからだ。


「アアアアア!」


 案の定、接近されたリッチは魔法弾の連射をノーアに放った。しかし。


「聖獣を舐めないでね! 『聖獣の加護』!」


 アルテのスキルで聖獣の周りに防御の膜が張られ、全て防がれてしまう。

 そして十分接近したところで膜が消える。攻撃が通るようになり、ノーアのカウンターが発動する。


「『アグニ』!」


 それは攻撃にも使える〈火属性〉の中距離攻撃。

 だがカウンターでも使用でき、その場合は相手の攻撃を粉砕し薙ぎ払った場所に居るものを全て排除するような強力な威力に変化する。


 右手と左手に持たれた大剣と大槍が激しく、まるでマグマのような色に変化すると、ノーアはそれで薙ぎ払った。闇弾の連打が全てマグマの様な熱線に飲み込まれズッッドンという大きな手応えのあと、〈ダークリッチ〉は大ダメージを受けてノックバックした。


「そこに私たちがーー! 『クリティカルスマッシュ』です!」


「グァ!」


 追撃にアルテの攻撃。

 強力な〈五ツリ〉のヒナの蹴りが叩き込まれるとクリティカルが発生。

〈ダークリッチ〉は見事にダウンした。


 やっば。すでにみんなが〈五ツリ〉を使いこなしてるんですけど。


 そして、1パーティのみで〈ダークリッチ〉を撃破するのに、そう時間は掛からなかったのだった。


「さあ! 『ドロップ革命』の時間ですわ!」


 そして、ノーアたちにはさらに先がある。




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