第1420話 最弱になった最奥ボスはこんなもの呼ばわりだ




 ここの第一陣はすでに決めてある。


 俺、ノーア、クラリス、トモヨ、アルテだ。

 トモヨがタンクでアルテがヒーラー。

 俺、ノーア、クラリスがアタッカーだな。


「それじゃあ行ってくる。ヴァン、みんなを頼むぞ」


「了解であります!」


 ということで、いざ入ダン。


「相変わらず、大きなボスだね~」


「だな」


 トモヨの思わずと言った呟きに同意する。

 そこに鎮座するのは天井を突き破るほど巨大なボス、〈エルダートレディアン〉。

 守護型ボスでもある〈エルダートレディアンの枝シリーズ〉が全て繋がっている――本体だ。しかし。


「でも、あれ? 確かに大きいけど、上の方が枯れてる?」


「ああ。枝を全部撃破したからだな。〈エルダートレディアン〉は枝から力を供給して強さが変わるボスだ。そして全部撃破すると、こうして力が全く補給できず、枯れ木になる」


「それって別物じゃない!?」


「! ゼフィルス様、トモヨさん、おしゃべりはそこまでに。ボスが動きましたわ!」


「お嬢様、ゼフィルス様に言われたとおり、やり過ぎないようにしてくださいね」


「分かっていますわ!」


「回復は任せてね! どれだけ眷属がいてもすり抜けてみせるから!」


 みんな頼もしいな~。

 そう思うと同時に〈エルダートレディアン〉が眷属を召喚していく。

 セオリーや攻略法は伝えてある、後はそれをなぞるだけだ。


「まずは眷属を倒して行くぞ。トモヨはヘイトを、クラリスは千剣を頼む!」


「はいよ~『敵対予告』! 『終わりの予告』! 『始まりの予告』! そんで『天空飛翔』!」


「お任せください――『千聖操剣』! からの――『千剣の雨サウザンドソードレイン』!」


「「「「――――!?」」」」


 開幕はクラリスの剣の雨から始まった。

 空を飛ぶトモヨに攻撃がほとんど届かず、剣の雨で大きなダメージを受けていく眷属たち。いいね。


「『属性剣・火』! 『ハヤブサストライク』!」 


「『投擲必中』! 『トルネードレボリューション』!」


 俺は剣を〈火属性〉にして弱点属性で眷属を撃破しまくる。

 さすがにLV差もあって楽に撃破していけるな。

 ノーアも大剣と大槍を投擲後、帰ってきた大剣と大槍を振り回して乱舞する。

 あれは両手剣と両手槍だから攻撃力が段違いに高いんだ。さらにノーアはわらわら出てくる大量の眷属の中心地へと飛び込む。


「『革命モード』!」


 そこで自分に攻撃が向きやすくなる『革命モード』を発動し、それに吸い寄せられて攻撃してきた眷属にカウンター発動。


「くらいなさいな――『カウンタープロミネンス』!」


 瞬間、大剣と大槍から強烈な炎が発生してぶん回すノーア。

 それはまるで炎舞えんぶと言っても過言では無い、炎の斬撃による蹂躙。

 カウンターが終わった後にはノーアの周囲にいた眷属はのきなみ光にされて空間ができていた。

 さすがノーア。すげぇかっこいいな!


「お~、ノーアちゃんかっこいい~!」


「ありがとうございますトモヨさん!」


 空中を飛翔しているトモヨもノーアのことを見ていたようだ。

 うーむ、相変わらず眷属は空への有効手段が少ないな~。

 トモヨが空を飛んで回避に集中するだけでほとんどの眷属の攻撃が届かない。


「ヒーラーやること無いから私も蹂躙に参加しまーす! いっくよークーニャ―――『スターストライクノヴァ』!」


「クニャー!」


 アルテはまだポジション的にやることが無いのでアタッカーに参戦、なんと〈集え・テイマーサモナー〉から受け取った〈ベヒモス〉のクーニャ君を操り、眷属を蹂躙しているな。あの頭突きが強い。角あるし。

 どうやらアルテはクーニャ君の運用テスト中の様子だ。


 さすがは〈ベヒモス〉だ。眷属がどんどん吹き飛ばされていく~。

 俺も負けてはいられないな。


「『フルライトニング・スプライト』! よし、そろそろいいだろう!」


 眷属が大分減ってきたら、本体に攻撃を開始。

 枝シリーズはともかく、本体には攻撃しても眷属が増えることはないので安心だ。

 ただ、しばらくするとまた大量の眷属を出してくるので要注意。


 とはいえタンクのトモヨが飛んでいるため、やはりほとんど被害を受けることは無く、第一形態が終了。第二形態に移る。


「トモヨ、降りてきてくれ!」


「うん!」


 第二形態は対飛行特効だ。

 第一形態で飛行こそ優位と認識させて、第二形態で叩き落とす。

 それが〈エルダートレディアン〉!


「私の千剣にも反応してきますね」


「一定以上浮かぶと攻撃してくる仕組みのようだぞ」


「では低空なら平気、ということでしょうか」


「だな。クラリスは低空で千剣を展開。ノーアはあの本体を守って囲んでいる根っこをばっさりやっちまってくれ! 下からの攻撃には注意しろよ!」


「了解しましたわ!」


 第二形態は防御型でもある。根っこで地面から攻撃してくるうえに幹の周りにはひこばえが柵のように本体を中心に生え、壁になっている。

 これは守護型ボスの枝シリーズが生きていればいるほど硬度が増す壁なので、全部撃破されていると。


「行きますわよ~『閃光の一撃』ですわ!」


 ズバーンと刈られるひこばえたち。

 気持ちいいほどの刈り具合だ!


「――――!?」


〈エルダートレディアン〉が抵抗して下からの攻撃を強めてくる。

 突きは速く、鞭のようにしなやかに振るってくるものもあれば、巻き付いて拘束してこようとしてくるものまである。

 下からの攻撃限定なので、なら空を飛べば良いじゃんと飛び立てば、対空特効で叩き落としてくる。

 なお、足を根っこに捕まえられても空に投げ飛ばされるので要注意。


 特にタンクが上に飛ばされることが多く、結構崩されることがままある。

 なかなか難しい形態だ。

 とはいえ、トモヨには『攻撃予測』があるので問題無し。それに飛行も出来るので、空に投げ飛ばされても対空特効への抵抗が可能だ。

 やっぱりタンクが飛行もできるとやりにくくもあるが、やりやすくもあるなぁ。


 トモヨが枝を全て引きつけていてくれたおかげで、無事第二形態も撃破。

 第三形態へ移る。


「んな!?」


「これは、驚きました」


 その姿にノーアとクラリスがおどろきの声を上げる。

 第三形態になった〈エルダートレディアン〉はもう幹は邪魔だと脱ぎ捨て、本体の本体たる姿を見せるのである。

 割れた幹からマンドラゴラが登場する。


「それ脱げるのですか!?」


「樹木でしたよね!? 歩けるのですか!?」


「ぶはっ!」


 アルテとクラリスのツッコミに思わず吹いた。

〈ダン活〉プレイヤーと同じこと言ってるぞ。

 俺も何度もツッコんだよ。こいつ、幹を脱ぎ捨ててきやがった!


「―――」


「あれ? でも、弱ってないですか?」


「確かに、ヨボヨボ、ですね」


「頭も枯れてるね!」


「ぶぶはっ!?」


 ちょ、トモヨ。頭枯れてるはやべぇって。すげぇツボに入った!

 そう、この第三形態は今まで倒してきた守護型ボスの数によって強さが比例する。

 全て刈ってきたときはこうしてヨボヨボ度がかなり割増しになっており、さらに頭に生えている草が枯れている。

 くそう、第三形態でまさかの精神攻撃だ! ちょっと動けるまでタンマ!


「行きますわ! 『トルネードレボリューション』!」


「『千剣突撃』!」


 あーっとノーアとクラリスがいったーー!!

 トモヨを目指していた〈エルダートレディアン〉、しかしこの攻撃には思わず防御をとる!

 腕(?)っぽいなにかで攻撃をガード、しかしなかなかのダメージが入っている!

 さすがは最大弱体化だ。

 というか、これに負けたのか外の人たち? 第三形態までいけなかった、とかいうオチであることを祈るんだぜ。


「来ますわ!」


「――――!」


 最大まで弱体化させると、本来なら武器や防具などを持っているはずの第三形態は手ぶらに裸に枯れた頭という最弱モードで登場する。

 だが、枯れても上級ボスだ。

 自分の腕を最大限使ってぶん回し、まるで台風の中心地のようにぐるんぐるん回す。これはなかなかに近づきがたいだろう。植物なので枝が結構生えてきている。

 腕や足も2本ではないので予測が付きにくいのだ。しかし、俺たちにはそれは悪手だ。


「それいただきですわ! 『カウンタースロースタンス』!」


 相手がまるで踊るように回転すると、ノーアもそれに合わせて回転。

 攻撃を受け流しながらカウンターを決める『カウンタースロースタンス』でノーアの攻撃がどんどん回転する〈エルダートレディアン〉に入っていく。


「切り刻まれてください――『大空千断罪』!」


「キャンセルだ――『ディス・キャンセル・ブレイカー』!」


「一気に崩しますわよ『逆襲』ですわ!」


 ズドドドンと衝撃。

 さすがはクラリスとノーアだ。しっかりと遠慮のない攻撃で合わせてきた。

 俺のブレイク系とノーアの超カウンターで相手をぶっ飛ばす攻撃で、一瞬でぶっ飛ばしてダウンを捥ぎ取った。


「総攻撃だ!」


 ダウンしたら総攻撃!

 ドデカいダメージが入ったな。


「――――!」


 悔しいだろう。〈エルダートレディアン〉が立ち上がり何かをしようとするが、もう遅い。


「トドメ行くよー! 『大天使フォーム』!」


 トモヨが『大天使フォーム』を使ったからだ。これで3分間、同じ「エル」の名前のスキルを連続で発動するとき、そのクールタイムはゼロになる。

 当然使うのは、このスキルだ。


「『エルシール』!」


「――!?」


 ゼロ距離『エルシール』は疑似的な拘束状態。

 相手にピトッとくっついて離れない、トモヨの最強コンボだ。


「『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』!」


「―――!!」


「ガンガン攻撃だ! 一気にHPを削ってやれぃ!!」


「「おおー(ですわ)!」」


 ボスも抵抗を続けるが、そこへ走ってきたアルテが、ボスの攻撃を潜り抜けてトモヨにタッチ。


「『聖乗の癒し』!」


 トモヨのHPが回復する。ボスの抵抗でダメージを受けたとしても、アルテが回復してくれるので無問題。


「――――!?」


 ここで〈エルダートレディアン〉が最後の賭けに出る。

 そう、抜け殻となった大樹の自爆攻撃だ。最弱形態とはいえこれをまともに受ければ大ダメージからの戦闘不能は避けられない。やべぇスキルだ。

 だが、ここの戦闘経験者であるトモヨはこれを冷静に対処してしまう。


「まっかせてー! 『ガブリエルの盾壁じゅんぺき』! 『ガブリエルの盾壁じゅんぺき』! 『ガブリエルの盾壁じゅんぺき』!」


「――――!!」


 トモヨが『エルシール』を解いて大樹の前で防御スキルを発動しまくると、瞬間爆破。強烈な全体攻撃が室内でぶっ放され、強烈な爆風が部屋に吹き荒れた。

 おかげで〈エルダートレディアン〉の枯れていた頭の草まで吹っ飛んで禿げてしまう。痛恨の自爆!

 ぶほっ!? ちょ、タンマ、今の自爆がツボに入った!?


 だがトモヨは見事に爆発を防ぎ、俺たちのHPにダメージはゼロ。笑いのツボには深刻なダメージを負ったが、ノーアは無事でトドメを刺してくれた。


「これで、終わりですわ! 『投擲必中』!」


「―――…………」


 ズドンと〈エルダートレディアン〉の頭部にノーアの大剣が突き刺さると、そのHPがゼロになり、悲しげな鳴き声を残してエフェクトの海に沈んでいったのだった。

 あ、あぶねぇ。吹き出す寸前だったぜ。


「…………あれ? これで終わりですの?」


 なお、あまりに手応えが無かったためか、ノーアが倒し終わった後に逆にビビっていた。

 ま、最弱になった〈エルダートレディアン〉はこんなもんだ。




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