第1419話 遊びで〈トラン・プリン〉!先輩の威厳が危険
〈カメパルト〉のドロップは〈銀箱〉だった。
そういえばラナが居ないんだった!
おっふ。今からでもラナを連れてこようかと、ちょっとだけ脳裏を過ぎってしまう。
切り替えて行こう!
「それじゃあ、周回開始だな!」
こいつの攻略法は伝授したのでそれからはスムーズに進んだ。
総攻撃などには俺も火力役として参加したこともあり、速攻で撃破していく。
そして、程なくしてナキキ、ミジュ、シュミネはLV25に到達した。
「早いっす!」
「さすがゼフィ先輩」
「元々LV23だったのと、ここの〈カメパルト〉の経験値が多いのが理由だな」
ここは〈26エリア〉の最難関、ランク3ダンジョン、しかも深層56層である。
経験値的に見れば〈嵐ダン〉の深層に出るエリアボスよりも経験値が豊富に貰えるのだ。加えて有効な攻略法がある。要は狩り場だな。
「準備は整った! 最奥まで行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
良い返事!
〈イブキ〉に乗り込んでいざ出発。
階層門のある崖の下までフルスピードで駆け抜ける。すると。
「前方に何かあります!」
「――プリン?」
「プリンです!」
アルテの言葉にみんなが前を向くと、そこにあったのは、巨大なプリンだった。
アリスとキキョウの反応が心なしか早かった気がするのは、きっと気のせいじゃないだろう。
「あれは、〈山を越えるトラン・プリン〉ですわね」
「おそらく最奥に行くのに誰かが使ったのがそのまま残されてるんだな。これ、回収しなくても1日でダンジョンに溶けて消えるから、基本そのまま放置するんだよ。というか回収出来ないから使い捨てアイテムだな」
そこにあったのはノーアの言った通り、〈山ダン〉の救済アイテム〈山を越えるトラン・プリン〉だった。
誰かが最奥に向かった証拠だな。おそらく55層に転移して、最奥へ向かったのだろう。これまでの道には置いてなかったしな。
しかし、なんだか初めて目にしたというみんなの反応がちょっと気になるぞ?
「そういえば私たちは一度も使いませんでしたね」
「〈イブキ〉と〈パンダ号〉があれば楽に登れたもんね」
「ほんと、〈乗り物〉って反則的ですの」
おっと、クラリスがさらっと口にした言葉に衝撃。
カグヤもサーシャも、〈乗り物〉が凄いのはもちろんだ。しかし、〈トラン・プリン〉を使わないなんて勿体ないぞ! ということで提案。
「じゃあ、乗ってみるか」
「ですがあれはどなたかが設置したもののようでありますが、使ってしまってよろしいのでありますか?」
「それがいいんだよ。〈霧ダン〉の〈霧払い玉〉だって使っていない人も恩恵を受けるだろう? それと同じだ。現におそらく最奥に何組ものパーティが向かったはずだが〈トラン・プリン〉は1つしか設置されてないだろう? ここを通った人たちがこれを使った証拠だ」
「なるほどであります」
「ということで、これから初の〈トラン・プリン〉を体験するぞ! 結構楽しいから、しっかり見ておくように! それじゃあアルテ、あそこの上に〈イブキ〉を乗せてくれ」
「え? 乗ってもいいんですか? プリン潰れちゃわないですか?」
「〈イブキ〉は浮いているから大丈夫だ」
あと弾力が神レベルだから。このプリンを潰すことは多分出来ないんじゃないかな? ちょっと重量オーバーが知りたくなってきたけど。
「そ、それじゃあ乗りますね」
俺に促されたアルテが、恐る恐るといった様子でゆっくりと〈トラン・プリン〉に乗る。瞬間、ぽよよよよーーんみたいな反動に揺られ、気が付けば俺たちは真上に飛ばされていた。
「「「「キャーー!」」」」
うむ。絶叫マシンに乗ったような黄色い悲鳴が心地いい。
そして数秒もしないうちに、俺たちは崖の頂上に乗っかっていた。
「び、びっくりだよ~」
「びっくりしました」
「でも面白かったっす!」
「う、ん。これは嵌まるかも」
おっとアリスとキキョウはびっくりと言いつつも目をキラキラさせ、ナキキとミジュは今すぐ降りてもう一度やりたいと顔に書いてあった。
どうやら気に入ったらしい。
「もう一度やりませんこと!」
「お嬢様、きっとこの先全てに設置されているかと思います」
「ではアルテさん、次の階層へ全速前進ですわ!」
「アイサー!」
ノーアも気に入った様子。
ふっふっふ。そうだろうそうだろう。
実用性とアトラクション、両方を兼ね備えたスペシャルアイテムだ。
伊達に上級のアイテムではない。
ただ上に飛び跳ねただけがなぜあれほど楽しいのか。俺は不思議でたまりません。
それからも57層でもぴょーんと飛び、58層でもぴょーんと飛びながら最奥を目指した。
そして最後の59層に設置されていた〈トラン・プリン〉もぴょーんと飛び、黄色い悲鳴を聞きながら満足感に浸る。
するとノーアとクラリスの会話が聞こえてきた。
「終わってしまいましたわ」
「楽しかったですねお嬢様」
「ええ! とても面白かったですわ!」
「これなら道中で〈トラン・プリン〉を使っても良かったですか?」
「それはいけませんわ。私たちが預かった〈トラン・プリン〉は〈エデン〉のみなさまが素材を集め、ハンナさんが作製したものだと聞き及んでいますわ。私たちが楽しみたいために使うのは間違っていますの」
「そうですね。ご立派ですお嬢様」
「当然ですわ」
「…………」
レギュラーメンバーが攻略したとき、〈イブキ〉があったけど面白楽しく〈トラン・プリン〉を使用した件は黙っておこうと思う。
これは
そんな、先輩の威厳を左右する出来事が発生したものの、俺たちは無事最奥に到着した。
〈イブキ〉を降りてみんなで最後の階層門を潜る。
するとそこには案の定、3組のパーティが休憩を取っていた。
「あ! あれはまさか〈エデン〉メンバーでは!?」
「勇者さんがいる!?」
「例のギルドバトルで見た人たちがいっぱいいるよ!?」
「ちょ、マジ? あれ1年生じゃないか!?」
「い、いっちねんせーい!?」
「ヒエッッ!?」
「1年生がなんでここに!? というか10人以上いる!?」
「知らないのか? 〈エデン〉に下級職はいないんだ」
「そりゃ〈リンゴとチケット交換屋〉やってるしな!?」
「サインとか求めてもいいんだろうか?」
「これが、Sランクギルド……っ!」
うむ。俺たちが着いた途端3パーティから一斉に注目されたな。
そして一瞬でざわめきができたぜ。
しかし、俺の知らないエンブレムを掲げているパーティもいるな。ということはBランク以下のギルドかな?
そうか、もうBランク以下のギルドもここまで来る猛者が出始めているのか。
ちょっと感激だぞ俺は!
「よし、俺たちも休憩にしよう。料理アイテムでバフを積んだら、順番に最奥を攻略して行くぞ!」
そう宣言するとさらにざわめきが広がる。
「おい、今挑戦じゃなくて攻略って言わなかったか?」
「順番に攻略して行こう? 何かの聞き間違いでは?」
「俺にもそう聞こえた……」
「攻略が前提になってる……」
「俺、敗北して回復中だ……」
「え? この人数を全員1発突破する気か?」
ざわめきはあれど俺たちは気にしない。
シュミネとカグヤが率先してテーブルや椅子や料理アイテムを用意して並べてくれる。
ナキキとミジュも手伝い感覚でシュミネたちの指示に従って昼食の取れる場所を整えていくな。この子たちは元〈エデン店〉従業員。その動きも見事なものだ。
「いつも悪いですわね」
「お嬢様は動かないようにしてください。あとゼフィルス様も」
おや。クラリスも参加。
テキパキとノーアの仕度を調えていく?
ノーアには全く手伝わせないクラリス。いったいどうしたのだろう?
その答えはトモヨからもたらされた。
「ノーアちゃん、前に手伝おうとしたことがあったんだけどね、ちょっと失敗しちゃったんだよ。それでクラリスちゃんから今も動かないよう厳命されてる感じ」
「ま、まあノーアの分を代わりにクラリスがやってるから良いんじゃないか?」
答えのような、答えじゃないような。ノーアが何をしたのか、ちょっと気になった。
まあ、深くは聞かないでおこう。あと、俺も座らされて動かないよう言われているのは、先輩だからに違いないだろう。
それからみんなで料理アイテムをいただき、その美味しさに舌鼓を打った。
もちろんこれらは上級料理アイテム。ミリアス先輩作だ。
「はぁ~、美味しかったですわ。家のシェフと良い勝負が出来そうですわ」
「さすがは学園が誇る〈生徒会〉のNo.2ですね。堪能させていただきました」
「これは毎日食べたくなっちゃうね」
ノーア、クラリス、クイナダが絶賛する。
うむ。そうだろうそうだろう。何しろハンナの先輩だ。いつもお世話になってます!(ちなみに〈生徒会〉のNo.1はハンナである)
ふと周りを見れば、ざわめきは収まったものの、何やらそわそわとした視線が多く届いた。それなりの数の学生がお腹に手を置いたりさすっているのを見るに、美味しそうなご飯にやられたと思われる。
次回からはボス戦の時は料理アイテムを持参することを勧めるぜ。
「それじゃあ、ボス戦を始めるか。ちょうどボス部屋は空いているみたいだしな」
「賛成ですわ!」
他の3組のパーティは動きが無い。どうやら、俺たちに譲ってくれるらしいのでボス部屋の前へと進む。
それじゃあ、まずは第一陣から入りますか。
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