第1418話 56層エリアボス〈カメパルト〉でレベル上げ!




「ここの守護型ボスも居ませんわね」


「どこのボスもみんな倒されてしまっています」


「つまんないですわクラリス」


「お嬢様、口調が少しだらしなくなっていますよ」


 現在55層を通過。56層へと突入する。

 だが、そこにも以前戦った守護型ボス〈エルダートレディアンの主枝〉はいなかった。

 38層から始まり、40層、45層、50層と通ってきたが全ての守護型ボスはすでに撃破済みのようだ。

 ショートカット転移してすぐ遭遇するからな。

〈上級転職チケット〉集めとレベル上げが横行し、毎朝リポップしてもすぐ狩られてしまうんだ。もしくは最奥ボスに誰か挑戦しているのかもしれないな。


「守護型ボスを撃破したければ朝一番で来ないともう無理かもしれないな」


 何しろ、ボスの取り合いがおきているらしいからな。

 だが、それを聞いたノーアが可愛く口を尖らせる。


「ずっと移動ばかりなので腕が鈍ってしまいそうですわ」


「そんなすぐには鈍らないだろう」


 いや、ノーアはカウンターの名手。

 意外にありうるかもしれない?

 カウンターの勘が鈍るとか?


 そう頭を悩ませていたら運転手のアルテから声が上がる。


「ゼフィルス先輩。次はどこへ向かえばいいですかー?」


「おっとそうだな。56層は経験値効率の良い狩り場なんだが、ふむ、周りに人も居ないし、ここで狩りをしている人もいなさそうだ。今日はここでレベル上げをしよう」


「ここですか?」


「おう。階層門に近いところで一旦降ろしてくれ」


「はーい」


 素直な返事と共に〈イブキ〉が停車してみんなを降ろす。


「これからみんなには〈山ダン〉、〈島ダン〉、〈夜ダン〉と攻略してもらう訳だが、できるだけLVは上限まで上げた方がいい。ここなら経験値効率が良くてLV25まで比較的短時間で上げられるから全員がLV上限にいくまでレベル上げしよう」


「それは賛成っす!」


「レベル上げ、重要」


 新メンバーの中でも一番LVが低いのはナキキやミジュだ。あとシュミネも。

 実は他のみんなは〈岩ダン〉でレベル上げしたことでLV25を超えているが、3人だけはまだLV23だった。故にレベル上げがしたかったかたち。

 だが守護型がこうも倒されている現状。最奥ボスの挑戦者が思ったよりも多そう、周回が出来ない可能性が高い予感。よってエリアボスで周回しておこうという結論に至った。


「それじゃあ〈フルート〉を吹くぞ。エリアボスが来たら最初は誰がやる? もちろん2パーティだ」


「うちらは確定っす!」


「ふんす」


 ナキキとミジュが気合いを入れる、ミジュの「ふんす」が可愛い。

 今回のメンバーは14人。

 パーティは5人、5人、4人となり、4人のところに俺が入っている。

 内訳はシュミネ、ナキキ、ミジュ、俺という戦力だ。

 さすがにこれだけだと、まあ勝てるとは思うが時間が掛かるので、もう1つパーティに参加してもらう、ということだな。


「トモヨかノーアのパーティどっちか参加してほしい」


「それでしたら私が加わりますわ!」


「ちょっとノーアちゃんそれは譲れないよ? 参加するのは私のパーティだよ!」


「トモヨさんといえどこれはそう簡単には譲りませんわ! 勝負ですわ!」


「望むところなんだよ!」


「新メンバーもノリがいいなぁ~」


 パーティを募集したら勝負が始まった件。

 ちなみにパーティの詳細はノーアのところがクラリス、アリス、キキョウ、アルテ。

 トモヨのところがヴァン、サーシャ、カグヤ、クイナダだ。


 ノーアのところはアタッカー寄りだが、カウンターのノーアが時々タンクを受け持って上手くバランスを取れればかなり強いパーティだ。

 トモヨのところはタンクが2枚でとても固い。トモヨはヒーラーにもなれるのでガチガチで堅実なパーティだな。


 俺のパーティはタンクがナキキだが、今は【破壊王】に転身してアタッカー&タンクな構成。純粋なタンクより安定度は下がっているため、そこがちょっと不安定な部分だ。


「勝ったー!」


「ま、負けましたわー!」


 おっとどうやら決着した様子。

 トモヨの勝ちだな。あとどんな勝負をしたのかはよくわからなかった。

 隣に居たヴァンに声を掛ける。


「じゃ、同じパーティだな。よろしくなヴァン」


「光栄の至りであります! ご指導ご鞭撻よろしくお願いするでそうろう!」


「おいヴァン、上がってる上がってる」


 そういえばヴァンはあのノーアとトモヨの勝負を見ていた。あのでっかい2人の戦いを。最近慣れてきたかなと思っていたが、不意打ち(?)だとまだヴァンの耐性は突破されてしまう模様だ。不意打ちじゃなくてもダメっぽい気がしなくもないが、おそらく気のせいだろう。


 ……マジでノーアとトモヨはどんな勝負をしたんだ?


 というわけで、エリアボスには俺、シュミネ、ナキキ、ミジュ、トモヨ、ヴァン、サーシャ、カグヤ、クイナダが挑むことになった。


「今回はレベル上げとのことだけど、ゼフィルス君の役割ポジションはどうするの?」


「最初は新メンバーに戦ってもらって、危ないところは俺が割って入る感じだな。いわゆる遊撃ポジションで参加する。だから基本は手を出さないぞ。指示なら出すけどな」


 トモヨが聞いてきたことに俺は腕を組んで答える。どのポジションでも運用可能。これがオールマイティの素敵なところだ。

 そして、これから戦うボスのことについて、新メンバー組に共有していった。

 この連絡大事。


「それじゃ、準備が出来たところで〈フルート〉を使うぞ。~~~♪」


 準備完了で〈フルート〉発動。

 相変わらず似付かないホイッスルのような音が辺りに響き渡った。

〈フルート〉は便利。エリアボスがいなければ目の前にリポップさせるし、同階層に居れば呼び寄せる。


 そして『直感』に僅かな警報。

 どうやら成功のようだ。今回は呼び寄せるの方だったみたいだな。


「向こうからだな。来るぞ!」


 俺の掛け声で臨戦態勢。

 木々の向こうから現れたのは背中にカタパルトのような発射台を背負い、地を這うように動くカメのような姿の樹木系。

〈カタパルトカメキ〉だった。通称〈カメパルト〉。


「ギャアアアアアス!!」


「『シールドタウント』! 『タウントセカンド』! 『タウントサード』!」


「『敵対予告』! 『終わりの予告』! 『始まりの予告』!」


「『国防の城主』! 『ここから先は何人たりとも通さない』!」


 戦闘開始と同時にナキキ、トモヨ、ヴァンがヘイトを稼ぎ、デバフやバフで味方を優位にしていく。


 総勢3人のタンクに挑発された〈カメパルト〉がタゲにしたのは――ナキキだった。

 まあ、ナキキだけ3発挑発使ってたからな。


「ギアアアアアス!」


 瞬間、いきなりカタパルト発射。


「『鋼』っす!」


 ガキンと衝撃。金属同士がぶつかったような音が響き渡った。

 ナキキは背丈に見合わない両手盾を構え、防御スキルでこれを防御したのだ。

 

「『勢いに乗った熊の拳ベアードブースト・フルパンチ』!」


「『青竜偃月刀せいりゅうえんげつとう』!」


「『極寒照射光線ごっかんしょうしゃこうせん』ですの!」


 相手が攻撃した瞬間は隙が出来る。

 そこへアタッカーがすかさず攻撃を加えていた。

 うむ。教え通り、タイミングもバッチリだ。かなりの成長を感じるぜ。

 これはなかなかのダメージが入ったな。


「ギャアアアス!」


「む!」


「腹の下に小型のカタパルトがある! 2人とも気をつけて!」


 お、ミジュとクイナダが気が付いたか。

 そう、遠目だと分かりづらいんだが、実はあの〈カメパルト〉は背中だけじゃなく腹の下にもカタパルトを隠し持っている。

 不意打ちで足(?)を上げて腹を見せ、ズドドドンと撃ってくるんだから初見殺しだな。


 気付かなければ俺がフォローに入ろうと思ったが、必要なさそうだ。

 いや、必要あるかな。


「ギャアアス!」


 なんと〈カメパルト〉がピョンとジャンプを決める。

 あの巨体で、カタパルトを装備しながら中々のジャンプ力。そのまま、まるで円盤の様に回転。

 瞬間、上のカタパルトと下のカタパルトがズドドドドンと放たれ、周囲に範囲攻撃を放った。


 だが、その対処はすでに出来ている。


「シュミネ」


「『番人の重結界』!」


 二重のドーム状の盾だ。

 これにより後衛は問題無く防げる。


 そして前衛はもちろん、ナキキ、トモヨ、ヴァンがタンクとしての本領を発揮。

 ヴァンがミジュを、トモヨがクイナダを庇い、ナキキが後衛をかばう位置に付いて攻撃を来させない。

 シュミネに結界を張ってもらったが、必要なかったようだな。

 やっぱタンク3枚は固いって。


 再び地面に着地した〈カメパルト〉は今度はダッシュしながらカタパルトだけをナキキに向け発射。ナキキは防御する。

 だが【破壊王】のパリィ戦法は砲使いとは相性最悪だ。半分の防御スキルが封じられていると考えてもいい。この辺でスイッチしておくが吉だろう。


「ヴァン、そろそろ交代スイッチしてくれ!」


「了解であります! 『我が相手になろう』!」


 ヴァンが3つ目の挑発スキルを使うと、それまでナキキを撃っていたカタパルトが今度はヴァンの方を向く。

 ナキキが攻撃を受けてヘイトが低下していたため、ヴァンのヘイトが上回ったのだ。

 タンクスイッチである。


「軽い軽い! こんなもので我が城を落とせるとは思わないでもらおう!」


 おお~ヴァンはなかなかやるな。

 両手盾と両手杖を持っているため、かなりのステータスの高さを持っているヴァン。

 スキル無しで攻撃を受け止めても軽度のダメージで済むとか。

 一応ここって56層だぞ?


「トモヨは『天空飛翔』で上を守ってくれ。そろそろナパームがくるぞ」


「はい! 『天空飛翔』!」


 俺の指示にトモヨが空へ飛び立つ。実はこれはこいつの攻略法の一種だ。

 そろそろかなぁと思っていたが、案の定、カタパルトが上方へ向く。


「ミジュ、クイナダ。退避!」


「ラジャ」


「はい!」


「トモヨ!」


「うん――『ガブリエルの盾壁じゅんぺき』!!」


『攻撃予測』を持っているトモヨはこれに完璧に対応。

 カタパルトが発射された直後、すぐのところで防御スキルを展開する。

 すると弾がトモヨの盾にぶつかった瞬間、驚きのことが起きた。

 弾が爆発したかと思ったら地面に降り注ぎ、燃えだしたのだ。


 これは広範囲攻撃『ナパームカタパルト』。

 名前の通り本来なら上空からナパームの雨を降らせる強力な攻撃だ。しかも火は消えず、地上のあちこちで継続ダメージエリアみたいな環境に変化するのだ。

 だが、発射直後に防御すると、これが低空で爆発、そのまま地面に落下して燃え始めるのだ。そしてそこにいたのは。


「ギャアアアアアス!」


「さすがトモヨ! 完璧な仕事だ!」


「ゼフィルス君の指示あってこそだよ~」


 要はやろうとしていたことを弾き返された感じ。

 こいつらは樹木型モンスター。燃える〈カメパルト〉は継続ダメージを受けながらなんとか火の海から出ようとするが、そこは出さないのが〈ダン活〉。

 こいつ、カタパルトは優秀なんだが、いかんせん突破に必要な突進系の攻撃を持っていないので、そうするとどうなるかというと。


「『ここから先は何人たりとも通さない』!」


「ノックバックするっすー! 『メタルインパクト・クラッシャー』!」


「ギャアアアアア!?」


 火の海から脱出できなくなってしまうのだ。ナキキなんて強制ノックバックさせるユニークスキルで海へリリースしてる。まあ、海は海でも火の海だけど。

 もちろん火の海は時間経過で消えるのだが、1分は燃え続ける。

 その間継続ダメージを受け続ける。パナイ。ボスもやられちゃう。


 こうなると〈カメパルト〉が脱出するためには1パターンしかない。

 お、やる気だな。


「ギャアアアアス!」


 ここで先程のジャンプ。

 中々のジャンプ力でタンクを撃ちながら頭上を越えようとするアクション。

 だが、それしかないと分かっていれば対処は容易い。


「今だ! 『テンペストセイバー』!」


「『ベアストリーム・ストロング』!」


「『必殺・急所に届く勝利の一撃チェックメイトジャッジメント』!」


「ギャアアアアア!?!?」


 ジャンプしたところを俺も含めたアタッカーが総攻撃。

 文字通りギャアアアだな。


「これで叩き落ちろですの!」


 そう言ってサーシャが操るのは『聖操氷層』で出した大きな円柱。

 これを〈カメパルト〉の上から落としたのだ。

 ちなみに円柱は縦だった。


「ギャア、アア!?」


「ダウン! 今だーーーー! サーシャは消火!」


「はいですの――『フロストエリア』!」


 ちなみに燃え続ける炎は〈氷属性〉の範囲攻撃などで消すことが可能だ。

 総攻撃に炎は邪魔なのでサーシャに地面を凍らせてもらい、俺たちは全員で総攻撃をしかけると、あっという間に〈カメパルト〉のHPはゼロになり、エフェクトの海に沈んで消えていったのである。


 あ、思わず最後に思いっきり攻撃しちゃった。




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