第1414話 掌が迫る―〈特殊殲滅大天使・ハンドエル〉!
「いつもこの瞬間はドキドキするわね」
「わかる」
未踏破のボス部屋に入る。
俺もゲーム時代、何度も経験したドキドキ体験。
すでに別のドキドキになって久しいが、何度も感じたあの感覚は未だ忘れられない。
ラナの言葉はとてもよくわかる。
「そして、これがボス部屋の主ですか」
「とりあえずは、前のようなレアボスじゃないみたいデスね」
「神々しい」
シズの言葉に全員が正面に注目し、パメラが最初から待ち構えるボスに少しホッとした表情を見せ、フィナはボスを「神々しい」と感想を漏らした。
その姿は女神のようでもあり、天使の最上級と言われても納得するほどの神々しさを放っていた。
大きさは20メートル強。
女性をベースとして銀色の長髪を背中に靡かせ、頭にはサークレットと天使の輪。
上半身は羽衣に近いゆったりとした衣装を身に着け、背中には巨大な3対6枚の天使の翼を持っている。無手で武器はなく、手は交差して胸に当てられていた。
ただ下半身は人ではなく巨大な球体で地面から浮かんでおり、まるで生命の中心のような鼓動を感じる姿だ。
「ワァァァァァァァァ」
まるで歌っているかのような声。複数人が同時に合唱しているかのような、そんな声を放つと同時に、ボスが動く。
「散開だ! 『看破』!」
「はい! 『天空飛翔』!」
今回〈幼若竜〉は俺が持っている。
これは安全を考慮して、だな。
フィナが最初にスキルを使うと、盾を構えて飛び掛かる。
「こいつは〈特殊殲滅大天使・ハンドエル〉だ! フィナ、手に気をつけろ!」
「! はい! 『天使の敵』! 『宣戦布告』!」
「ワァァァァァァァァ」
「『エルアサルト』!」
まずはフィナの挑発。
『天使の敵』と『宣戦布告』とか、名前とこの光景だけ見るとこの戦いが天界の大戦争に見えるから半端ない。
続いて使う『エルアサルト』は攻撃挑発スキル。攻撃を当ててヘイトを稼ぐスキルだ。これでバッサリ切ろうとしたフィナだが、さすがに相手も黙って受けてはくれない。
フィナの前に割り込んで来たものがあったのだ。
それは、天使の手。なお、大きさは2メートル強。フィナよりも大きい。
その掌がフィナの攻撃を防いできた。
「これは、掌の盾? ですが防いでも挑発効果は乗ります」
「その通りだフィナ! だが、すぐに手から離れろ!」
「え?」
「ワァァァァァァァァ」
俺が忠告した瞬間、フィナの攻撃を防いだ掌が、フィナを叩き落とさんと強襲してきた。
「フィナ!」
「大丈夫です!」
「油断するなフィナ! まだ追ってくるぞ!」
ギリで回避しきったようで〈ハンドエル〉本体の側面に回り込むフィナ。人型は側面や後ろは手の関節的に攻撃がしづらいポジション。普段ならばこれで正解の対応だ。
しかし、ここでフィナにとって予想外なことが発生する。
「ワァァァァ」
「な! 手が!」
なんと〈ハンドエル〉自体は前を向いているのに、手がフィナに迫ってきたのだ。
これにはフィナだけではなく、俺以外の全員がびっくりする。
驚くことにこの天使、実は手と腕が繋がっていないのである。つまり手だけを独立行動させることが可能なのだ。
そのまま掌で叩き落とそうとする〈ハンドエル〉。しかし。
「やらせんぜ――『サンダーボルト』!」
もちろん俺は知っていたので『サンダーボルト』で援護。
フィナを襲おうとしていた
「あ、ありがとうございます教官!」
「この天使は手を切り離して自在に操るみたいだぞ! フィナは天使本体よりもその手に気をつけろ! 手は2つあるぞ!」
「はい!」
そう言っている間にももう1つの無事な
もう完全に飛んでいるものを打ち落とさんとする、はたくような攻撃だった。
しかし、種が割れてしまえば問題は無く、フィナはこれを回避。
受けタンクよりも避けタンクとして相手を翻弄し始める。
タンクのヘイトが安定してきたら続いて俺たちの出番だ。
「『守護の大加護』! 『獅子の大加護』! 『迅速の大加護』! 『病魔払いの大加護』! 『光守られし聖なる奇跡』!」
まずはラナのバフ。だがいつもより強力なスキルが1つ混じっていた。
レアイベントボスを経験してから、この初手のバフでユニークスキルも使う戦法を新たに編み出している。
これで万が一バフの解除を繰り出されても安心だ。
「いきます――『フェニックスショット』!」
「『必殺忍法・分身の術』デース! 続いて――『忍法・影分身雷竜落とし』デス!」
「浮いているのは1メートル半ってところか。これなら余裕で届くな。まずは『聖剣』!」
タゲがしっかりフィナの方へ向いているので足下にいる俺たちが本体を攻撃しても問題は無い。
ラナがバフを掛け、シズがまずは〈五ツリ〉で攻撃し、パメラはいきなりトップスピードで攻撃を仕掛けていく。
もちろんパメラの攻勢にはわけがあり、万が一フィナに何かあった場合、次のタゲをパメラに向ける狙いがある。故に攻撃の密度を上げてもらっているのだ。
そして俺は手始めに『聖剣』を発動してぶった切る。
これは斬られた者の動きを一瞬止める効果があるが、この大きさと切り離された手にも効果があるのか試したかったのだ。
ゲームではもちろん切り離された手も止まっていたが、リアルでは違う可能性もあったため確認しておきたかった形。すると、切られてズドンと衝撃波が放たれると、フィナを追いかけていた手も止まった。
「よし。『聖剣』は使えるな!」
「『バードデスストライク』! ダメージは、飛行型特効がしっかり付いております」
いいね。ゲーム通りだ。
『バードデスストライク』は飛行型特効。もちろん天使にも特効だ。ただこいつは飛行というより浮遊型に見えるんだが、ちゃんと特効ダメージが入っていたようでなにより。
「『くノ一流・
「攻撃し放題ね! 『大聖光の四宝剣』!」
その通り、こいつの第一形態は非常に戦いやすい。
本体は置物で、両手の方が本体なんて言われていたほどだ。
まあ、本来ならタンクが地上で戦うことになるので、手の攻撃、薙ぎ払いやハエ叩きなど、近くにいれば巻き込まれる危険のある恐ろしい攻撃も多かったのだが、空中で回避に専念しているフィナのおかげで俺たちは攻撃に専念できている。
とはいえ、これは第一形態までの話だ。
「あっという間に、1本目のHPバー全損よ!」
「フィナ、今のうちにMPを全快にしておいてくれ!」
「はい!」
本当にあっという間に1本目のHPバーが消える。
ここまではいいんだ。フィナも回避に集中していたおかげかダメージはほとんど受けていない。受けていたとしてもラナが回復していたからだ。
だが、本当に恐ろしい始まりは、これからなんだよ。
「ワァァァァァァァァ!」
「第二形態――? これは!」
「眷属召喚?」
「手も4つに増えてるデース」
置物本体の姿は変わっていない。だが、その背後に魔法陣が現れると、様々な天使が姿を現した。その姿は20体を超える。
1体1体が武器に盾、そして鎧を着ている戦士階級の天使で、飛行して襲ってくるのだ。
さらにフィナを追いかけていた本体の手が2つから4つに増えた。シエラと同じ数、自在盾ならぬ自在掌だ。
今まで2つから追いかけられていたフィナは、今度は4つから追いかけられることになる。
先程でもダメージを受けていたフィナがこれ以上となると結構キツいだろう。さらに眷属まで受け持てるのかというと厳しいと言わざるを得ない。
それは誰もが感じたのだろう、まずパメラが動いた。
そして俺はシズに指示した。
「フィナにこれ以上負担は掛けられないデース! 私に任せるデス! 『目立つ』!」
「シズ『フラッシュ・バン』」
「はい! 『フラッシュ・バン』!」
「へ?」
パメラがシュパンと目立った瞬間、眷属の全てがパメラに向く。
だがその瞬間、シズの銃口からスキルを発射。
ドンと撃ち出された大きな弾丸が、襲い来る眷属たちの前で発動。
バァァァン! と凄まじい音と閃光を放ちながら弾けて眷属天使の多くを〈盲目〉状態にして撃ち落としたのだ。
「あっれーーーー!? ここは私がかっこよく回避に専念する場面じゃなかったのデース!?」
パメラが目を見開いて驚愕していたが、まあ些細なことだろう。
それに全員は目を眩ませられなかったようで3体ほどがパメラの下へと向かってきたのだ。
「ラナとシズは目が眩んだあいつらを倒してくれ! 『フルライトニング・スプライト』!」
「任せなさい! 『大聖光の十宝剣』! 『
「なるほど、眷属はボスと違い状態異常がとても効くということですね『マルチバースト』! 『デスショット』! ――〈即死〉も良く効くようです」
「3体くらい返り討ちデース! こっちは分身合わせて5人デース! 『くノ一流・
よしよし。眷属がいきなり半壊した。
少しして〈盲目〉とダウンが解けた眷属天使たちが飛び立とうとするが。
「シズ『閃光弾』『チェーン』『連射』!」
「はい! 『閃光弾』! 『チェーン』! 『連射』!」
秘技、
シズの連射によって大量の『閃光弾』が空中にばらまかれると、飛び立った天使が再び落ちて来た。楽勝。実はこの天使たち、天界の住人なのに〈盲目〉や〈暗闇〉に弱く、目が見えなくなると墜落するんだよ。
後は俺とシズとパメラとラナの総攻撃にて眷属は一掃が完了。パメラもよく頑張った。
フィナの方を向けば、やはり4つのハンドにさらされ、かなり苦戦を強いられていた。
「『
空中移動の移動速度上昇と回避率を上昇する〈五ツリ〉を発動しつつ、様々な手で追い詰めようとしてくる4つの手を振り切ったり、あるいは『シールドバッシュ』の上位ツリー『天盾飛翔突撃』でぶっ飛ばしたりしながら回避してる。
それでも全てを捌けるわけではなくいくつか攻撃は命中しているが、そのダメージは非常に軽微だ。理由はフィナの新しい装備だろう。
やっぱ防御力が高い避けタンクは反則だって。
そこにラナの継続回復があるので多少のダメージはすぐに回復してしまう。もうね、パナイですよ。
フィナはそういう事情もあってかなり余裕そうな表情だ。慌ててないと分かる。
順調にヘイトを稼ぎながら回避に集中していた。
4つでも全然大丈夫そうだ。
だが、ここで置物の本体が動く。
「ワァァァァァァァァ♪」
歌だ。歌っている。
すると天使の体の前に光の球が発生。あれは、タメを作っている!
「おっとあれはマズい予感! ラナ『慈愛と守護の八障壁』でみんなを守れ!」
「へ!?」
「みんなラナのところに集まれ! フィナは『ミカエルの聖法』で自分を防御!」
「もういきなりね! いくわよ――『慈愛と守護の八障壁』!」
「はい! 『ミカエルの聖法』!」
ラナは自分を中心に8枚の結界を張って全方位から自分を守る結界を展開し、フィナもドーム型結界で自分を守る。
俺、シズ、パメラはラナのところに避難した。
瞬間、部屋が光に包まれた。
全体攻撃だ。
――――――――――――
後書き失礼いたします。お知らせ。
〈ダン活〉小説10巻の発売まであと3日!!
2024年8月20日発売です!
ついに作者の単行本も2桁に突入!
今回は夏休み編(1年生)! 表紙は浴衣、口絵は水着!
書き下ろしでは、多くの読者様から寄せられた要望に応え、シエラやラナの帰省話を書かせていただきました!(各3300字)
2人にいったい何が起こったのか?
ゼフィルスの知らない2人の話を読みたい方は、是非ご購入を検討していただけると嬉しいです!
表紙カバーが見てみたい、もうちょっと詳しい情報が欲しいという方は過去に投稿しましたこちらの近況ノートをチェックしてみてください!
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16818093078968432833
また、TOブックスオンラインストアでは初期の5人(ゼフィルス、ハンナ、シエラ、ラナ、エステル)が描かれた、アクリルマグネットが同日販売となります!
よろしくお願いいたします!
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