第1413話 2年生のクラス対抗戦が360組あるっぽい件。




「クラス対抗戦は激しいものになりそうだな」


「たはは~。今年は留学生もいるしね」


〈集え・テイマーサモナー〉のギルドマスターカリン先輩の話をギルドハウスでしたところ、メルトやミサトからさもありなんといった反応が返ってきた。


 去年と比べ、今年はクラス数が爆発的に増えている。

 特に2年生は〈転職制度〉のおかげでクラス数増加が著しい。

 なにしろ、去年の〈戦闘課1年生〉は127組だったのに、今年は280組だ。

 倍を超えている。そこに留学生が入ったら。もうね、とんでもないことですよ。


 留学生は、基本俺たちと同学年だ。

 というのも彼ら彼女らは転校ではなく留学、つまりは帰らなくてはいけない。

 これは〈本校〉での経験を〈分校〉にもたらしてほしいという願いもあってのことだ。留学の期限は1年。

 そのため人選は、1年生の時点で優秀な学生をピックアップし、2年生への進級と同時に留学に送りだしたのだ。2年生の期間を〈本校〉で過ごしてもらい、1年で帰還。3年生では〈分校〉でその経験を活かしてもらいたい、という狙いがある。


 故に留学生のほぼ全員が2年生なのだ。

 クラス対抗戦となると、やはり〈本校〉2年生とぶつかるのが筋だろう。

 留学生は約3000人。〈戦闘課〉では〈留学生80組〉までクラスがある。

 本校の〈戦闘課2年生〉と合わせると、その数、なんと360クラス。

 去年の規模の約3倍だ。パナイ。


 開催日数もアリーナの数も試合数も、何もかも去年と同じでは足りないだろう。


「まあ、クラス対抗戦のあれこれが発表されるのも9月になってからだろう。その前に俺たちにはすべきことがあるんじゃないか?」


「だな」


 メルトの言うとおり、去年は9月2日に発表があり、急遽1週間後にクラス対抗戦が開催となった。

 今年も、夏休みが終わったタイミングで発表があるだろう。


 夏休みはもうすぐ終わる。

 だが上級ダンジョンの攻略に夏祭りなど、色々予定が残っている状態だ。

 クラス対抗戦のことよりも、今は目の前の夏休みに集中しよう、という話だな。


「それで、ボスはいつ倒す? 今日か?」


「早ければ早い方がいいな! 今日にでも最奥に到着出来るから、そのまま倒しちゃうか!」


「そうこなくてはな。ふ、腕が鳴るな」


「レアボスは出ないでほしいね!」


 ということで、今日も俺たちはダンジョン攻略だ!

 ミサトのセリフはフラグにならないことを祈る。



「着いたーーー! もう声を出して良いぞ! ここはモンスターが出ない救済場所セーフティエリアだ!」


「ん。最奥!」


「これはまた、神々しいボス部屋だな」


 場所は〈雲上の聖域ダンジョン〉の70層最奥。

 到着後、ここは救済場所セーフティエリアなので大きな音も解禁だ。

 まあ、今までもあまりセーブしていなかった気もしなくも無い。


 そしてその最奥は、さすがは〈聖域〉と名の付くダンジョン。

 雲海に浮かぶ円盤状の巨大な広場があり、一際目立つ存在が正面に聳えていた。

 それがボス部屋の門。


 まず圧倒されるのはその巨大さだ。

 なんと高さ50メートルを超えている。

 マジパネェ。

 間違いなく過去最大級の大きさだろう。

 ボス部屋も、外観ではどのくらいデカいのかよく分からないくらいの大きさを誇っている。雰囲気的に神殿っぽい感じだ。


 そしてその扉を守るように門番が待機。これまた超巨大な天使の像が後ろから翼で門を塞いでいる。なお、扉が大きすぎて塞ぎきれてないが。

 だがさすがは聖域。なんとなく、入っちゃダメな感じがするぜ。

 入るけど。


「じゃあ、早速ボスに挑戦しようと思う!」


「では、料理の準備ですね」


「腕が鳴るわ! ゼフィルス、今回は私も参加するわよ! 否なんて言わせないわ!」


「そうだな。戦ってみたくはあるが、前回は俺たちが先鋒を務めた。ならば、ここは譲ろうと思う」


「たはは~。どうぞラナ殿下~ぶっ飛ばしちゃってね~」


「任せなさい!」


 ああ。ラナの参加がすでに決定してる。まあいいけど!

 メルトの言う〈前回〉とは〈守氷ダン〉の最奥のことだろう。

 あの時のレアボス撃破メンバーは俺、リカ、メルト、ミサト、セレスタン。

 今回の〈聖ダン〉メンバーが俺、カルア、リカ、メルト、ミサトなので、かなり被っている。

 そんな訳で、メルトやミサトは今回はラナや他の人に譲る考えの様子だ。


 順番は大事。


「となると、ヒーラーはラナで確定だな。じゃあタンクだが、シエラに――」


「教官、その役目、私を指名していただけないでしょうか?」


「フィナ?」


「それと私よご主人様! 私もパーティに――」


「あ、ヒーラーはラナ殿下に決まっているみたいですよ姉さま」


「しょ、しょんな!?」


 そこにやってきたのはフィナとエリサだった。

 そしてエリサが一瞬で愕然としてた。

 しかし、そんな程度で諦めるエリサではない。


「ご、ご主人様ー! 私の役目は!? ほら、〈マジスロ〉の時みたいに眷属対応メンバーが必要でしょ!?」


「うーむ。そうだな~」


〈謎ダン〉の最奥ボス〈マジスロ〉、あの時は珍しくラナとエリサというヒーラー2枚構成で挑んだんだよな。なんか、それほど昔の話じゃないはずなのに懐かしく感じるのはなぜだろう? まだ2ヶ月も経ってないはずなのにな。


 しかし今回のボスを考えると、確かに眷属を出してくる。

 というか上級中位ダンジョンの最奥ボスともなると大体眷属を出してくる。

 故にエリサはどこでも引っ張りだこだ。

 とはいえ、別にエリサじゃなくても良い。


「ヒーラー枠は、すでに足りてるからな~。フィナも使えるし。俺も回復出来るし」


「が、ががががーん!?」


 うむ。そういうこともあるさ。眷属も、エリサがいないと対応できないというほどでもない。ここは、凶悪な第三形態に備えてアタッカーを多めに入れておきたいところ。

 フィナがエリサの肩に手を置いて首を横に振り、慰めてた。いや、あれは慰めているのか?


「フィナはタンク希望か?」


「はい。なんとなくですが、ここのボスは天使系ですよね?」


「当た――いや、どうだろうな」


「今ゼフィルス「当たり」って言いそうにならなかったかしら?」


「気のせいだ」


 危なかった。

 ラナは妙に鋭いことがある。これがシエラならジト目をされていたことだろう。

 でもラナはジト目をしてくれない。残念。

 そんなことを頭の片隅で考えつつフィナの方を向く。


「分からんが、天使系の可能性は高いだろうな」


「はい。なので天使対決です」


「ほう!」


 天使対決!

 フィナがアタッカーではなくタンク枠で立候補した理由がかっこいい!

 そんなロマン溢れる理由、俺が却下するはずもなく。


「オーケーだ! タンク枠はフィナに決定だな!」


「ありがとうございます教官」


「わ、私は!?」


「姉さまはおとなしくお留守番していてくださいね」


「あー、次の機会にな」


「ケフン!?」


 おっとエリサノックアウトな予感。

 満足そうなフィナがエリサを引きずっていった。


「さて、となると次はアタッカーが2枠だな」


 今決まっているのは俺、ラナ、フィナだ。

 ここからバランスを考えていく。できれば物理アタッカーが多めに欲しいところ。


「魔法系と物理系が欲しいわよね?」


「魔法はラナが使えるしな。ここは物理系を採用して見るか。シズとパメラなんかが良さそうな気がする」


「いいわね! 私の従者は強いんだから!」


「教官、理由はなんでしょう?」


 おっと、いつの間にかフィナが戻ってきてら。

 しかし理由か。俺は適当な理由をひねり出す。


「ここまでのモンスターってほとんど飛んでいただろ? だから対空戦のメンバーを入れようと思ってな」


「なるほど」


 これまでのモンスターは天使系や聖獣系が多かったが、そのほとんどが雲海から飛んできたモンスターが多かった。故にここのボスが飛べるモンスターというのはあながち間違いじゃないと予想出来るだろう。フィナも言われて納得していた。


 シズを入れたのは閃光系で相手を〈盲目〉状態にしたり、バインドで〈拘束〉したり、果ては〈五ツリ〉の飛行特効『バードデスストライク』など、対飛行モンスター系のスキルを持っているからだ。

 パメラは中距離攻撃が得意で、さらに空中では3次元で素早く動くことができるため飛行モンスターに対しても対処がしやすい。ラナとも良い感じな連携が取りやすいということもあって決めた形だな。


 ラナも賛成してくれたので従者2人を呼ぶ。


「私は、不参加ですか?」


「そんなむくれないでくださいエステル。代わりは私たちが務めます」


「大船に乗ったつもりで待っているデース」


「別にむくれていません」


 少し不満そうなエステルと気合いを入れているシズとパメラがやって来た。

 2人とも、とりあえずはトップバッターでも問題無い様子。


「名誉なことです。必ずやり遂げてみせましょう」


「やっふーデス! せっかく来たチャンスなのデス! 気合い入れていくデスよ!」


「それじゃ、最初のメンバーは決まりだな」


 ということで〈聖ダン〉最初のメンバーは俺、ラナ、シズ、パメラ、フィナに決定した。

 いつの間にかセレスタンが用意してくれた料理アイテムを美味しくいただき、そのまま俺たちはみんなに見送られてボス部屋の門を潜ったのだった。



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