第1412話 久しぶりの〈集え・テイマーサモナー〉で交換




「ふ、ふわぁ~! こ、この子、本当にもらっても良いんですか!?」


「ヒヒヒーン!」


「うん! 可愛がってあげてねアルテ」


「ありがとうございますフラウ先輩!」


 今日は先日手に入れた〈聖獣ペガサス〉をアルテに渡す日だ。

 頼むのはAランクギルド〈集え・テイマーサモナー〉で【モンスターブリーダー】に就くアニィ。


「というわけで、契約の譲渡をお願いねアニィ」


「任せてくださいですフラウ!」


 フラーミナとアニィはかなり仲良しなのか、とても親しい感じがするな。

 アルテとも仲が良いみたいなので、テイマーにはテイマーのコミュニティがあるのかもしれない。


 場所はモンスターを預けておける施設〈ファーム〉。

 今日の俺は傍観役だ。冗談だ、ちゃんとここに来ている理由がある。

〈集え・テイマーサモナー〉のギルドマスター、カリン先輩から呼ばれているのだ。


「ゼフィルスくーん!」


「お、早速だな。カリン先ぱーい!」


 遠くから何かに騎乗してやってくるカリン先輩を見つけて手を振る。

 その姿を見て、俺は色々と得心がいったよ。


 今日は先日テイムした〈聖獣ペガサス〉をアルテに譲渡をしようと思い、ついでに〈集え・テイマーサモナー〉にも1体プレゼントしようと話を持っていったら、〈集え・テイマーサモナー〉からも渡したいモンスターがいると言われてこの場を設けていた。

〈エデン〉と〈集え・テイマーサモナー〉は支え合い、ではないが、それなりに付き合いのあるギルドだからな。


〈エデン〉が〈採集無双〉を連れていけない時は〈集え・テイマーサモナー〉に面倒を見てもらっている。しかもその採集物の何割かが〈エデン〉のものにもなるため、かなりありがたいと感じている。

 カリン先輩も「私たちも優秀な上級採集職が借りられてありがたいよ! こういうのは持ちつ持たれつさ!」と言ってくれているので上手く付き合っている関係だな。


「どうどう~、止まって止まって~」


「リヴァアアアアア!!」


「おお~。凄い迫力だな~」


「おんまたせゼフィルス君! この子、水に潜ってなかなか反応しなくてさ~」


 そう言って騎乗していたモンスターから飛び降りて俺の前に来るカリン先輩。

 俺は気にしないでと手を振る。


「久しぶりだなカリン先輩。気にしないでくれ、それで、この子が例の?」


「うん! ようやく育ったんだよ! 〈リヴァイアサン〉に!」


「リヴァアアアアアア!」


 おお、すげぇ迫力だ!

 そこに居たのはまごうことなく〈リヴァイアサン〉。

 ヘビ系のモンスターからウミヘビ系列を経て進化して行く先にある特殊な進化先。

〈島ダン〉で上級採集職しか入手できないとあるアイテムを使ってタマゴにし、さらに進化させる必要があり、非常に入手難度が高い。だが、その代わりにとんでもなく強くなる海の王者だ。〈ダン活〉に水で戦うフィールドなんてほぼないけど。


 ここはまんま陸地だが。〈リヴァイアサン〉は海の中だけではなく、空も泳ぐことが可能なためまったく問題は無い。

 海と同じブルーの鱗を持つ半分〈亜竜〉のカテゴリーを持つ強力なモンスター。

 全長10メートル超えの龍型で、手足は無し。人が騎乗して空を泳ぐことも可能だ。


 以前〈集え・テイマーサモナー〉に〈ワイバーン〉や〈ベヒモス〉を初めとした強力な4つの種族を教えていたが、どうやら無事〈リヴァイアサン〉の進化にも成功したようだ。


「もちろんそれだけじゃないよ!」


「ほう。というと?」


 カリン先輩が胸を張る。その意味を正確に理解した俺が期待の眼差しを送ると、1つ頷いたカリン先輩が宣言した。


「うん! 来てリーシェン!」


「オオオオオオオオオオ!」


 瞬間、地面からズボオオオオオっと生えてきたのは、樹皮に顔面がある樹木型モンスター。

 生えてきた瞬間からどんどん伸びて葉を付け、実を付け、とうとう8メートルにまで伸びてしまったモンスター。

 こいつは〈古代樹〉だな。間違いない。

〈ワイバーン〉や〈ベヒモス〉、〈リヴァイアサン〉に並ぶ植物系の強力な種だ。


「おお~。〈古代樹〉じゃないか!」


「やっぱり見て分かるんだ。さすがはゼフィルス君!」


「教えたの俺だしな!」


 とはいえ教えたのはあくまでヒント。それをしっかり仕上げてきたのだからさすがはAランクギルドのギルドマスターだ。

 感心していると、俺の言葉にそれだと言わんばかりにカリン先輩がビシッと指を突きつけた。


「そうそれ! ゼフィルス君のおかげでね、もう〈集え・テイマーサモナー〉の株はうなぎ登り! もう感謝感激で雨あられ、ついでに嵐もプレゼントみたいな状態なんだよ!」


 うむ。いろいろツッコミどころがあるが、とりあえず感謝しているというのは伝わってくるな。


「それで、もし良かったら、この子たち使ってみない? フラーミナちゃんでも、アルテちゃんでもいいからさ」


「なに? だけどこの子は〈集え・テイマーサモナー〉がやっとの思いでたどり着いた子だろ?」


 思わぬ提案に思わず聞いてしまう。

 それはつまり、苦労して育て上げた〈リヴァイアサン〉と〈古代樹〉を別のギルドに渡してしまうということだ。

 すると、想像以上の答えが返ってきた。


「いやいや、〈エデン〉にはとってもよくしてもらっているしね。というかこれ、〈聖獣ペガサス〉ってなにさ! 中級に出る普通の〈ペガサス〉じゃなくって上級中位ダンジョンのモンスターってだけでもとんでもないのに、しかも私たちに1頭くれるって! 私たちにもお返しさせてよ! みんな、〈集え・テイマーサモナー〉は〈エデン〉に感謝しているんだよ!?」


 途中で声を張ったカリン先輩がビシッと〈聖獣ペガサス〉の方を指さして言い募る。

 おう。いいテンション。なんか、ジーンと心が温かくなる話だ。

 そこまで言われては断るのは失礼だろう。

 ありがたく受け取ることにする。


「ありがとう。じゃあ、ありがたく受け取るよ」


「そうだよ、遠慮しないで貰ってよね全く。というか〈エデン〉が上級中位ダンジョン攻略中って話は聞くけど、〈聖獣ペガサス〉って。これどこで出るの?」


「ランク4の〈聖ダン〉、その60層以降だな」


「もうすぐ攻略終わるじゃん!!」


 俺たちの攻略階層を聞いてさらにツッコミの威力が上がるカリン先輩。

 さすが、いいものをお持ちだ。


 とりあえず交換は成立。


 フラーミナとアルテ、アニィも呼んで早速譲渡を開始する。


「ふわ~。これすっごいです~。こんな強力なモンスターの交換とか初めてですよ~!」


「アニィ、なにをのんきなことを言っているのかなこの子は?」


「ふえ?」


 小首を傾げるアニィにカリン先輩が「この子、全然ことの重大さとか分かってないよね」と言わんばかりに肩をすくめる。


「い、いいのですか? 私まで?」


「いいのいいの。実は〈リヴァイアサン〉も〈古代樹〉も順調に量産が進んでるのよ。なんなら〈ワイバーン〉や〈ベヒモス〉も渡そうか?」


「それは嬉しいが、そこまでしてもらわなくてもいいさ。それに〈ワイバーン〉や〈ベヒモス〉は使い勝手が良くて〈集え・テイマーサモナー〉の主力だろ? 聞いたぜ? もうギルドには行き渡ったからギルド外にも少々放出したってな」


「あれは協力してもらった代価だよ~。私たちの夢を手伝ってくれたギルド外のテイマーさんたちには渡してるんだよ? だから別に〈エデン〉も持って行っちゃってもいいよ?」


「ふむ、そうだな。フラーミナ、アルテ、どうする?」


「「欲しい!」」


 というわけで、4つの強種全てを譲ってもらう形で話が付いた。

 まあ、ちょっと貰いすぎな気がしなくもないが、〈集え・テイマーサモナー〉がむしろあげたがっている感じなので貰うことに否は無い。


 結局アルテが〈ワイバーン〉と〈ベヒモス〉を。フラーミナが〈古代樹〉と〈リヴァイアサン〉を受け取っていた。

 これで戦力が凄い上がったな。アルテなんて〈聖獣ペガサス〉〈ワイバーン〉が新たに仲間になって対空戦はバッチリ。

 これで五段階目ツリーになって複数召喚が可能になっても安泰だ。


 また、フラーミナの〈古代樹〉は実を言うと、ヒーラー&バッファー&デバッファー。つまりサポート系のモンスターだ。

〈竜〉種に攻撃されてもそう簡単には落ちないほどの耐久値を持ち、壁としても役立つことが出来る壁ヒーラーだ。

 今後、本拠地を守る際、非常に強力な壁モンスターとして機能するだろう。


 そして〈聖獣ペガサス〉の残り1体は、〈集え・テイマーサモナー〉に渡った。

 カリン先輩曰く、思っていた以上に見た目からとんでもなくステータスが高いので、誰に持たせるか、またギルド内に公開するか悩みどころ、とのことだ。

 確かに〈聖獣ペガサス〉が欲しい、乗ってみたいという子は多そうだよな!


「それとアニィに相談したいんだけどね。実は〈聖ダン〉でこういうのを見つけたんだ。なんとテイムモンスターを〈聖獣〉ルートに進化させることができる素材みたいでね」


「わわ! これ凄い、何これ! 私も欲しい!」


「うん! それで一緒に試験してもらいたいんだけど――」


 また、モンスターの譲渡後にはこんな会話がフラーミナとアニィの間に起こり、盛り上がっていた。〈採集無双〉、〈聖ダン〉でも良いレア素材を発掘してくれたんだよ。

〈集え・テイマーサモナー〉はこういうノウハウが〈エデン〉より上だからな。是非協力して新しいモンスターへ進化ルートの開拓してもらってくれと、フラーミナには助言しておいたのだ。もちろんそこにアルテとカリン先輩も加わる。


 彼女たちのモンスターが〈聖獣〉に進化するのも近いかもしれないな。


「とりあえず、これで用件は終わりだな」


「う、うん! 私たちもずっと渡したかったものが渡せて満足だよ。なんか最後にとんでもない爆弾がまた投下された気がするけどさ!」


 カリン先輩との話はいつも楽しい。ツッコミ力が高いんだもん。


 そして俺がそろそろお開きにしようという雰囲気を出すと、カリン先輩はこんなことを言う。


「あ、そうそう、クラスバトル祭では注意しなよ~」


「ん? 〈集え・テイマーサモナー〉とはメインの学年が違うぞ?」


 いきなり話題に出てきたクラスバトル祭とは、つまりはクラス対抗戦の意味。

 しかし、カリン先輩が少し勿体付けたように俺に忠告する。


「私たちじゃなくて留学生の子たちだよ。気付いているんじゃないかな? 留学生のクラスは、2年生の対抗戦に参加するんだよ?」



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