第1405話 〈聖ダン〉最初のボスは――またもクマ!?




「ゼフィルス。説明して頂戴」


「え? いや、はっはっはっは」


「また笑って誤魔化したわね」


 シエラのジト目光線に俺は笑うしかない。

 ジト目ありがとうございます!


 というのも現在俺たちがいるのは5層。

 あれから何回か検証を繰り返し、使っても大丈夫なスキルと、使うと敵が集まって来てしまうスキルを明確にして、準備は整った――さあ出発! というところで〈イブキ〉を使って真っ直ぐここまで来たのだ。うむ。全く問題らしい問題はなかったな!


「そもそも〈イブキ〉って静かだし浮いてるし、ここの攻略にとても向いてるよって話だったな! だから俺のせいじゃないぞシエラ?」


「…………分かっているわ。でもね、ちょっとどうしようもないやるせなさというか。こう、覚悟していたのにとてつもない肩すかしをされた感覚がゼフィルスの時ととても似てたのよ」


 失敬な。俺がいつ肩すかしをさせたというのかね?

 そう言ったらダメな気がしたので俺は沈黙を保った。


「はぁ。分かってはいるのよ。検証した結果〈イブキ〉で進むいつものスタイルが最適解だった。そんなこともあるのね」


「そんなこともあるさ」


 シエラはとても悩ましそうだったが、なんとか状況を飲み込んだ様子。

 他のみんなは多少シエラと似たり寄ったりで悩ましそうだったり「本当にこんな簡単に進んでいいの?」と見知らぬ何かを疑ったりしているが、概ね前向きだ。

 まあいつもと同じだもんね!


「お、階層門発見!」


「守護型ボスもいるよー!」


 そろそろ見えてくるかなーと目をこらせば、とある雲海から見える山。海に聳える島のような場所に黒い階層門が置かれているのを発見した。

 島と言っても平らであり、ボスがいるボスフィールドであることも同時に教えてくれる。

 俺の発見報告に、ノエルの声が良く響いた。そして同時に『直感』に警報。


「あ」


「モンスターの襲撃、来ます!」


「ノエルちゃーん!?」


「あ、あはははー。ごめーん!」


 ノエルの声にモンスターが来ちゃった!

 うむ、ここ静かにしていないといけないダンジョンだからね。

 歌う系を得意とするノエルとオリヒメさんのスキルはほぼ全滅だ。

 むしろノエルの高いただの声でモンスターが集まって来てしまうほどである。さすがはアイドル系なんだぜ。


 まあ、出てきたモンスターはみんな〈イブキ〉に撥ねられたりして光になったのでなんの問題も無し。

 でも勿体ないので一旦降りて素材は回収だ。


 ちょうどボスステージが目の前なので、そのまま誰がボス戦をするか話し合う。


「ボスは、ここからだと分かりにくいけど、天使系? みたいよね」


「見た目がクマなんだがそれは?」


 シエラの言葉に俺は謎を問いかけてみた。


「クマなのです! 見た目はとってもクマさんなのです!」


「いえきっと天使よ! だって天使の翼が生えているもの!」


「いえ、クマですし動物系じゃないでしょうか?」


 ルル、エリサ、フィナの意見が分かれている。1対2で動物優勢?


 ボスステージで俺たちを待つのは、天使の翼を1つい背中から生やしたシロクマだった。見事に宙を飛んでいる。むしろ腕組みまでして待っている。

 もう見た目からしてやばい。これを見た多くのプレイヤーが「これどうしよう」と一旦止まって考えさせられた、そんなボスだ。


 見た目ではよく分からないとリーナがエステルに振る。


「エステルさん。ここから『看破』は出来ますか?」


「やってみます。『看破』! 出ました!」


「名前は!?」


「えっと、〈クマエンジェル〉です!」


「どっちなのよ!」


 もうね、これは仕方ないよね。

 ここって普通に聖獣系のモンスターも出るのにクマ天使って。ラナがツッコミを入れる気持ちも分かる。あといつもより小さいツッコミで感謝。

 まあ、一応天使系統だぞ。

 天使系の中には人型だけじゃなくこうして動物系の天使もいた。ネコ天使とか。なお、ネコ天使の方が人気があったのは余談である。


「初めてのボスだ。俺が行こう。メルト、ミサト、カルア、リカは来てくれ」


「任せろ」


「たはは~、腕が鳴っちゃうね!」


「ん。仕留める」


「相手は見た目からして物理型だろう。相手に取って不足は無し」


 まずは恒例。俺のパーティが挑むことにした。

 だがリカ、相手は天使だ。物理型に見えるからといって物理型とは限らないぞ。


「リカ。相手は天使だ。おそらく遠距離攻撃もしてくるだろう。空を飛んでいることからも三次元の攻撃をしてくる。用心しておいてくれ」


「なるほど。確かに今までの天使は魔法攻撃がメインだったな。了解した」


「みんないってらっしゃい! 気をつけてよ――『プレイア・ゴッドブレス』!」


「サンキューラナ! 行ってくるぜ!」


 ということで戦闘開始。


「我が名はリカ! 天使族のボスとお見受けする! いざ尋常に勝負――『名乗り』!」


 リカがまずヘイトを稼ぐ。

 すると〈クマエンジェル〉、通称〈クマエル〉が脇を締めながら両腕を広げるようにし、叫ぶ。


「グマアアアアアアア!!」


「クマって言ったよ! 今クマって言った!」


「落ち着けミサト! クマって言ったからどうしたって言うんだ!」


「本当に天使なのかなって!?」


「それは戦いが終わった後だ。今は目の前のボスに集中しろ!」


 メルトのツッコミが心地良い。まあミサトの気持ちも分からんでもない。

 だが、こいつは天使族なんだ。だって攻略本に書いてあったもん。


「グマアアアア!」


「はああ! 『制空権・刀滅』!」


 ここで激突。

 空中から襲ってくる天使の翼を生やしたクマが急降下し、リカに『突撃のクマエルパンチ』をお見舞いするが――これをリカが防御スキルで弾く。相殺。


「ガアアアア!」


 そこからクマラッシュ。

 無数のクマの爪がリカを襲わんとするが、リカはその全てを全部相殺した。


「隙有り――『64フォース』!」


「『サンダーボルト』!」


「『グラビティ・ロア』!」


「『サンクチュアリ』!」


「グマア!」


 流れるように全員が反撃の〈四ツリ〉。

 そのままリカがヘイトを十分稼いだと判断してからは徐々に大きい攻撃を放ち始める。


「『128スターフィニッシュ』!」


「『フルライトニング・スプライト』!」


「『グラビティ・ボール・エクス』!」


「『防御力ドレイン』! 『魔防力ドレイン』!」


 よし、〈五ツリ〉を放ち始めても大丈夫なほどリカがヘイトを稼いだな。

 大きな衝撃や音が鳴ったが、ボス戦中なため他のモンスターが現れることはない。

 しかしノックバックをほとんどしない〈クマエル〉。空中殺法とでも言うような腕も足も使った変幻自在の攻撃でリカを攻める。なかなかに激しい攻めだ――しかし、相性が悪いな。


「『制空権・乱れ椿』!」


「グマアアア!?」


 リカの『制空権』は、リカの防御範囲に入り込んだ攻撃に反応し問答無用で迎撃する。

 空中からの攻撃だろうが手足を使った攻撃だろうが、リカには通じない。だって間合いに入ったらスキルが迎撃してくれるから。


「メルト、今だ! 撃ち落としてくれ!」


「任せろ――『十倍キログラビティ』!」


「グマ!?」


 急に重力が強くなり、少し踏ん張るもすぐにズドンと落下。

 重力を操るメルトがいれば飛んでいる相手は怖くない。

 というか相性が壊滅的に悪い。


 ミサトはさっきからドレインしながら『色欲の鏡』でリカにバフ投げまくってるし、ちょっと攻撃が当たりにくくてぴょんぴょん跳ねてたカルアも落下すればこっちのものと嬉々として飛び掛かった。

 俺もしっかりと『勇気ブレイブハート』でパワーアップしておいたので準備完了。


「総攻撃だ!」


「「「「おおー!」」」」


 落下の衝撃でダウンした〈クマエル〉に総攻撃。

 中々のダメージを稼いだ。


「グマァァァァァ!」


「うん? あれは!?」


「おそらく遠距離攻撃が来るぞ」


「任せてもらおう!」


 ダウンから復帰した〈クマエル〉が両手で何かを包むようにして腰でタメを作った。

 まさか、あのポーズは!


「クマクマアアアアアア!!」


「クマクマ波キターーー!!」


 本当はただの〈聖属性〉の光線。名称は『天クマクマ破弾』だったか。

 ただそのアクションと両手からぶっ放される〈聖属性〉の光線が、あまりにもプレイヤーに刺さりまくってとんでもなく沸かせてたんだよ。そのせいでみんなはこれを『クマクマ波』って呼んでいた。俺も刺さった者の1人である。

 実物見れたーー!


 しかし――。


「甘い! 『残像双ざんぞうそう・一太刀』!」


 リカは華麗に回避。残像を置いて攻撃を潜り、懐に入って一閃する。

 ズバンという音と共にクマクマ波は躱され破られてしまった。

 ク、クマクマ波ーーーー!!!?


「グ、グマーー!?」


 まあ、もう見るものは見れたのでバイバイだ。

 そこからはガンガン攻め、飛ばれたらメルトに撃ち落としてもらって総攻撃。

 すると呆気なく〈クマエル〉のHPはゼロになり、エフェクトの海に沈んで消えてしまったのだった。

 うん。クマクマ波見れて、満足満足。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る