第1404話 検証大事。音に反応するモンスターと時間制限




 モンスターは音に反応するとはいえ、どんな小さな音にも反応するわけではない。じゃあどのくらい大きな音なら反応するのか、ちょっと試してみようと思う。


「まずは検証だな」


「ええ。どれくらいの音でモンスターが集まってくるのか、どれほどの規模なのか、確かめる必要があるわ」


「みんなパーティ毎に分かれてくれ!」


 俺とシエラの指示でパーティを分けた後、ダンジョンの出入り口近くで検証開始。

 救済場所セーフティエリア内では大きな声を出しても問題は無いと分かっているので、一先ず出入り口の前で作戦を伝える。


 ここにはダンジョン門へ通じる階層門があるので最悪打ち負けた場合でも安心だ。

 まずは俺のパーティから。

 救済場所セーフティエリアを出てスキルを使ってみる。


「ではまず、小さい音から行くぞ。『アピール』!」


 バンッ! と俺は片手と人差し指を真上に上げるポーズでアピールした。

 メンバーの注目度が心なしか上がった気がする!

 しかし、普通にスキルを発動しただけだと――モンスターは無反応だった。フィールドはシーンとしている。ちょっと空しくなった気がした。


「メルト、この気持ちを共有してほしい」


「俺にもやれと言うことか? まあ、いいが。気持ちを共有するのくだりは意味が分からん」


 いやぁ、いつもメルトが成果を出せなかったとき「フッ」とか言って黄昏れるじゃん? 俺は今あんな気持ちなわけだ。


「少し大きい音を出す――『メガライトニング』!」


 それは〈二ツリ〉の〈雷属性〉魔法。

 ビリビリビリジャシャァァァァァァン! という音と共に何もない地面に電撃と雷音が響き渡った。


 結構響いたな。そして結果。


「モンスターが来たわ!」


「ええ!? メルトなら失敗俺の仲間してくれると思ったのに!」


「何を訳分からないことを言っているゼフィルス。応戦するぞ!」


 雲海から5体のモンスターが飛び出してきたのだ。


「『看破』! 出ました! あれは天使族の〈イニティエル〉という種類モンスターだそうです!」


 最初のモンスターは〈イニティエル〉。

 無機物系の天使でチョウチョ型。体は一本の棒で手足は無く、頭部分は少し分離していて球体になっている。顔も無し。そして体には無数の突起が生えて、いやよく見ると微妙にくっついてない。分離している。その突起が微妙に翅のように見える。

 簡単に要約すると、糸無しのけん玉に骨の翅を付けたみたいな見た目だな。


「―――」


「魔法使い! ミサト、防御」


「あいよー『テラバリア』!」


 まるで無数の銃弾のような魔法の光線を放つ〈イニティエル〉。

 しかしミサトはこれをしっかりと防御した。そして反撃。


「メルト」


「まずは叩き落とす――『十倍キログラビティ』!」


「「「「「―――!?」」」」」


「さすが」


 ズドンと落下音。空中で固定砲台のように撃ちまくっていた天使だが、メルトの重力によって地面に叩き付けられた。

 となれば、次は俺の番。剣と盾をエフェクトに光らせ合体、一気になぎ払う。


「『スターオブソード』!」


 チュドーンと大きな衝撃。

 ここで異常発生。


「! モンスターを感知しましたわ! 次々増えています!」


「『スターオブソード』に反応した!?」


〈竜の箱庭〉担当のリーナとカイリがいち早く気付いた。

 まあ、おそらく『スターオブソード』みたいな大技なら釣れると思ったよ。


「『看破』! あれが〈クォーターエンジェル〉。あちらは〈シード〉です!」


「人型天使だ!」


「あっちはなにあれ?」


「〈シード〉だから、種じゃないかな?」


 出てくる出てくる。モンスターが次々と。20体はいるな。

 サチ、エミ、ユウカの言うとおり、出てきたのは男子の人型、15歳くらいの男の子エンジェルだった。ちなみに顔は整っていてなかなかにイケメンだ。倒せ。


「応戦!」


「「「おおー!」」」


 後は翼のような形の光を纏った巨大な種。見た目は巨大なカカオだが。こいつは早めに倒さないといけないやつだな。


「種が成長してます!」


「にゅるにゅる伸びていくのです!」


 にゅるにゅるとかルルの表現が可愛い。

 そう、〈シード〉は時間経過で成長し、花を開かせ、最後に結実すると自爆する厄介なモンスターだ。自爆の威力はかなり高い。食らうと危険だ。自爆する前に倒すことが推奨されている。つまりは時間制限モンスターというわけだ。


〈クォーターエンジェル〉君は結界や回復を使うミサトポジのヒーラー。

 最初にどっちを倒すか悩みどころだな。まあ、〈シード〉を倒すのを邪魔する〈クォーターエンジェル〉が優先だ。その方が結果的に早く、無駄撃ちが少なく戦闘が終了する。


「〈シード〉は〈救護委員会〉の情報にあっただろ! 最後は自爆するから、その前に倒すように! まずは邪魔をする〈クォーターエンジェル〉から倒すんだ!」


「時間制限、ということか」


「だな。それもモンスターがどんどん増えていくこの環境でだ」


「フ、さすがは上級中位ダンジョンだ。行くぞ! 『グラビティ・アトラクション』! 集まったところを弾け、ゼフィルス!」


「おうよ! 『フルライトニング・スプライト』!」


 メルトが使ったブラックホールの引力に引き寄せられたモンスターを俺がドデカい花火を撃って仕留める。まあ、上級中位ダンジョンとはいえ1層。モンスターの強さはそこまでではない。


「また来ますわ!」


「ちょっとゼフィルス! 今のはちょっと音が大きかったんじゃないの!?」


「まあまあ落ち着けラナ。これも検証だ。みんな集まってくれ、そろそろこれの性能を試す!」


「オッケー! みんなー集まってー」


 俺の持っている物を見てニヤリと笑ったミサトが声を張る。すると。


「! 今のでまたモンスターが現れましたわ!」


「大きな声もダメってこと!?」


「リーナ、『ギルドコネクト』で呼びかけてくれ」


「承知しましたわ『ギルドコネクト』!」


 しばらくするとみんなが集まってくる。

 それを追いかけてくるモンスターは、すでに40体を突破していた。多いな~。クイナダとかに無双してもらいたい。


「みなさん集合完了ですわ!」


「それじゃあ使うぞ〈デンバリさん〉――起動!」


 そこで俺が使ったのはとある罠カテゴリーに分類される〈金箱〉産アイテム。

 電撃の檻を展開して中に侵入する者を弾き出す〈デンバリさん〉だ。

 結界代わりに使えるのが素晴らしいアイテムだ。あと、電撃張っているのに音がしないのも特徴。

 これを張った瞬間、次々とモンスターたちが弾かれていく。


「うわ~。なんだか気持ちいいわね!」


「魔法攻撃も弱いものなら一部弾き返すのですね」


「たまに貫通するけど、それも途中で力尽きてこっちに届く前に消えることが多いわね」


「成功みたいだな」


 ラナははしゃぎ、エステルとシエラは〈デンバリさん〉の性能を改めてチェックする。

 時たま使ってくる大きな魔法はしっかりシエラが弾き、攻撃を寄せ付けない。


 そしてしばらくおとなしくしていると。


「あ、引き上げていくわ」


「やはり、静かにしていると襲ってこない。ということでしょうか」


「みたいだな。〈シード〉は全部自爆したみたいだが」


 空を飛べる〈シード〉はどこでも自爆が可能だが、範囲がそんな広くなかったため〈デンバリさん〉を貫通して俺たちに届くことは無かった。

 というわけで検証の結果、音を出すスキルもしくは魔法を使うとおびき寄せてしまうが、〈デンバリさん〉などを使ってジッとしていれば帰っていくことが分かった。

〈デンバリさん〉強っ!


 とりあえず〈デンバリさん〉を使えば安全地帯を作れると分かったことは大きく、以降はみんな落ち着いた様子で検証に参加出来ていた。

 結果一番有効だったのが。


「いくよー『ミュート』!」


 カイリの環境対策スキル『ミュート』だった。

 人差し指を口元に当ててシーっとカイリがすると、周囲の音が消されてしまい、反応に困った天使たちが雲海に引き上げていくのである。

 俺たちがすぐ目の前にいるのに。


「やっぱりカイリの環境対策スキルが一番だな」


「天使を呼んでしまうスキルは数あれど、天使たちに帰ってもらうスキルはこれしかなかったものね」


「素晴らしいですわカイリさん。さすがは〈エデン〉の支援職ですわ!」


「えへへへへへ~~」


 カイリ大活躍だな!

 シエラやリーナに褒められ、誇らしげながらも照れている。

 ここは支援職必須のダンジョンだからな。支援が凄まじく光ってるぜカイリ!


〈救護委員会〉は〈島ダン〉の時のようにインビジブルやハイド系を駆使してなるべく音を出さないように5層にいったみたいだが、対処法は他にもあった、ということだな。

 基本、ここに居るモンスターは音に反応するので、音を立てないでジッとしていると撤退していく。


 それがここの攻略法の1つだ。問題は、戦闘になるのでジッとなんかしてられない点だけどな! 時間経過で自爆するモンスターが居るのでジッとなんてできないところがマジ上級中位ダンジョンだぜ。


 後は宝箱に眠っている消音系のアイテムをゲットしたり、そもそもサイレント系の結界が使えれば突破もできたりする。

 あと、空中を移動したりとかな。

 うむ。ここって、実は〈イブキ〉でスルーもできるんだよね。

〈イブキ〉ってエンジン音とか無いから。



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