第1403話 また〈エデン〉が新しいダンジョンに入ったー




 ブリーフィングが終われば入ダンだ。


 1年生はまずやりやすい所ということで〈岩ダン〉でレベル上げに取り組むらしい。

 地図や階層門の情報はサティナさんが仕入れているので、アルテの〈イブキ〉とミジュの〈クマライダー・バワー〉を使い、自分のレベルにあった階層でエリアボスを呼んで周回するとのことだ。


 上級生の戦闘職がいなくて大丈夫か? とは思うが、サティナさんが度重なる出張、それも来る日も来る日もエリアボスばっかりずっとやっていたために、今ではエリアボスのスペシャリストになっていて、非常に的確なアドバイスを送れるようになっている。サティナさんに任せておけば大丈夫だろう。

 攻略経験者のトモヨもいるしな。


「1年生の方は心配しないでください。私がしっかり面倒を見ます」


「頼りになるよサティナさん。頼む」


「お任せください」


 いや、ほんとサティナさんが凄く頼れる存在に化けたな。

〈千剣フラカル〉や〈獣王ガルタイガ〉などからも聞いていたが、成長が目覚ましすぎる。出張はかなり人を成長させるようだ。

 まあ、だから学園も〈助っ人〉制度を推し進めているんだけどな。


「これで、俺たちは上級中位ダンジョンに集中できる」


「ゼフィルス、こっちの準備も終わったわ」


「早っ!」


「元々どこかのダンジョンに行くと思ってみんな準備していたもの。慣れたものよ」


 素晴らしいことだ。シエラの言葉に俺はちょっと感動。

 気が付けばみんな装備姿だった。このまますぐに出発できる。


「よし、それじゃあみんな! 〈エデン〉のダンジョン攻略、始めるぞ!」


「「「「「おおー!」」」」」


 いざ出発。

 1年生たちに見送られながら〈上中ダン〉へ向かった。




「ま、また〈エデン〉だ」


「〈上中ダン〉方向に進行中!」


「〈上中ダン〉に向かうのか? あんなところで活動しているのは〈エデン〉だけだぞ!?」


「最近エクストラダンジョンで遊びまくっていると掲示板には書かれていたが、まさか……!」


「本格的に攻略を再開する気か!?」


「誰か! 誰か付いていって情報をくれ!」


「混沌の予感!」


 久しぶり、というには久しくは無いが、ちょっとぶりに〈上中ダン〉へ向かうと集まる集まる。いつも遠目から俺たちを見ていた学生たちが、なんか集まってざわざわしていた。まさか、俺たちがランク4に潜ると気付かれたのか?

 今朝決めたばかりなんだが。

 おっと到着。ケルばあさんに見てもらって、なんの問題も無かったので即入ダンした。


「ちょ、入った!? ランク4ダンジョンに入っていく!?」


「ケルばあさんから手を振られてたぞ!?」


「俺、前に〈上下ダン〉に何度か行ったことあるが、いつもケルばあストップされて潜れなかった」


「〈エデン〉だとケルばあさんが欠片も止めない!? 30人以上の団体行動なのに全員問題無し判定だと!?」


「いったいどうなってやがんだ〈エデン〉って集団はーー!!」


「ばかやろう! そんなこともはやどうでもいい! 問題なのは、〈エデン〉がまた未知のダンジョンに潜り始めたってことだろうが!」


「!!」


「そうだった! ランク4だぞ!」


「レベルキャップが……上がる!?」


「〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉、〈攻略先生委員会〉でもまだ5層までしか調査が進んでいないという」


「いや、それはまず広く浅く、全てのダンジョンの危険性を確認したかったからで、本気になればもっと深い階層まで行けたはずだ」


「つまり、〈エデン〉も階層更新して戻ってくる。ということだな?」


「階層、更新……? また、攻略して戻ってくる気がしてならない」


「ああ。俺も同じ気持ちだ。ついこの前〈守氷ダン〉を初めて攻略したとか言って学園中を騒がせたことは記憶に新し過ぎる」


「あれは良い混沌だった」


「おい、今誰か混沌って言ったか?」


「混沌!」


「言ってる! 言ってるぞ! どこかに混沌野郎が居る! どこだ!」


「探せ探せ! 実物の混沌さんだ!」


「な!? お前まさか、混沌ファンか!?」


 騒がしい喧騒を置いてきぼりにし、俺たちはダンジョンへ入ダンした。


 切り替わると外の喧騒が嘘のように静まり、耳に痛いくらいの静寂に包まれる。


「ここが、〈雲上うんじょう聖域せいいきダンジョン〉」


 ラナの小さな呟きが、しかし全員に聞こえるくらい響き渡る。

 とても静かな場所だった。地上の喧騒と偉い違いだ。


 そこはまさに名前の通り雲の上の聖域。

 眼下には雲海が広がり、雲からいくつもの山が飛び出ている。

 それは海に広がる島にも見えた。


 そして島と島を結ぶのは白亜の巨大な道。

 車が、おそらく50台並んでもまだ余裕のある巨大な幅の道。いや、本当に道か? と思うかもしれないが、道っぽく島から島へ伸びているのだから道だろう。

 端には転落防止柵のようなものが設けられて、大きく「天落てんらくダメ」と書かれた看板が掲げられている。

 ちなみにこれは天からの落下、及び堕天禁止という意味で、フィナの『天落』スキルが使用禁止という意味ではないぞ。


 ゲームでは不思議なバリアに守られていて、たとえ空を飛んでも突き抜けることができなかった進入不可エリアだった。後で調べてみたところ、現実でもフィナが突破出来ないと知ることになる。


 雲海には様々なモンスターが住んでいて、歩いていると結構な頻度で襲ってくる。しかもランク4だからか、結構強いのが特徴だ。

 その代表的なモンスターが天使族になる。まあ、これはまたあとで説明しよう。


「静かなところなのね。というより、静かすぎるわ」


「はい。声がいつもより大きく、ハッキリと聞こえます」


「思わず、少し小声になってしまいますわ」


 ラナの言葉にエステルが同意し、リーナは自分の声が耳障りなのか、むしろ小声で話しているくらいだ。

 ゲーム時代、静かなダンジョンとはいえBGMはちゃんと流れていたが、リアルだと本当に、耳が痛いくらい静かなのな。なんだか自然と声を小さくしてしまうんだ。

 だが、むしろそれで正解。


「みんな〈救護委員会〉がくれた情報は頭に入っているな?」


「ええ。大きな音を出すとモンスターが襲ってくるというやつね」


 俺の言葉にシエラが話したかった流れをフォローしてくれる。

 ありがたいと思いながら再確認の意味を込めてみんなに告げた。


「その通りだ。見ての通り、凄まじく静かなダンジョンで、自然の音が何一つ聞こえない。音系の探知はほぼ役立たずになるほどのダンジョンだ。その理由が、ここでは大きな音を発する者には、モンスターが排除しに襲ってくるからだ」


 みんな大体頭に入ってはいたものの、俺の言葉に少しざわめきが生まれる。

 そう、ここは静かな環境のダンジョン。騒音を立てればたちまちモンスターに襲われてしまうのだ。

 静かに行動するというのは思いのほか難しく、戦闘で大技を使い大きな騒音を立てると次々モンスターに襲われ、最後は物量に押し切られて負ける。


 上級下位ダンジョンのランク4〈島ダン〉と同じようなコンセプトのダンジョンだ。

 あそこは見晴らしが良く目視で襲ってきたが、ここでは音で襲ってくる。

 ―――第二の物量攻撃型ダンジョンである。




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