第1395話 ヴァンのユニークスキルは、別名一夜城なり!




「わーキャー!」


「ヴァンー! 今度は海でやってみてー!」


「承ったであります! 出でよ一夜城――『第二拠点建造』!」


「海にお城出来ちゃった!」


「乗り込めー!」


 突如としてできた、海の真ん中に立つ城。

 ヴァンのユニークスキルで生み出した第二拠点だ。

 ダンジョンでは宿泊にも使えるとあって、別名〈一夜城〉なんて呼ばれていたりする。なお、建つのに1日も掛からん。一瞬だ。


「ヴァン大人気じゃないか!」


「ゼフィルスさんのアドバイスのおかげであります!」


「いやぁ、海の真ん中に作れるのかと思ったが、本当に作れちゃったな!」


 ゲームではダンジョン内ではあっても陸地にしか築けなかった拠点だが、リアルではなんと海にも建てられた!

 一度浜辺で試した後、本格的に海にも出してもらったのだが、そしたら一瞬で女子の遊び場に変身していたよ。


「サーシャ、サーシャ! ここ、こんな感じで作って!」


「任せてくださいですの――『アイススロープ』!」


「氷の滑り台、完成だよー」


「あ、意外にあんまり冷たくないかもです」


 なんかカグヤの指示でサーシャが城の最上階から氷の滑り台を建造していた。

 いや、アリスがやりたいと言ったのか? キキョウは安全確認に余念がなさそう。


「よーし、早速滑ってみよう!」


「氷は滑るものなんだよー!」


「ここは海だけどね」


 こういうとき真っ先に遊びに飛び出すのはやはりサチ、エミ、ユウカ。

 一般的な女子高生組の感性からか、こういう遊び関係には積極的に参加していく様子!


「「「きゃー!」」」


 ザッバーン!

 海に向かって伸びる滑り台、もとい氷のスロープを滑って海にダイブ!


「「「あはははは」」」


「楽しー!」


「全然危なくないよ!」


「1年生たちもどんどん滑ってみよう!」


 とても楽しそうだ。


「よし、俺もいくぜ!」


「ゼフィルスさん、お供します!」


 おっと、さっきまで愕然としていたサトルがもう復活してる!

 ふふふ、落ち込んでいる暇なんて無いよな!


 氷のスロープは、意外にも結構気持ちよかった。真夏の太陽さんと海と、上手く共存出来ている気がするよ!

 そこで『直感』さんが警報!


「ひゃー、ゼ、ゼフィルス君退いてー」


「なに、ハンナ!? うっひょわー!?」


 ザッブーン!

 滑り台の出口付近からすぐに横にズレていたはずなのに、なぜかハンナが途中で滑り台をコースアウトして落ちて来た! おかしい、カーブなんて無いのに! これが空から落ちて来た少女!(錯乱)

 もちろん『超反応』さんが受け止めたよ。


「ご、ごめーん、大丈夫だったゼフィルス君?」


「なんの、ハンナなら軽く受け止めてやるさ。実際羽のように軽かったしな」


「も、もうゼフィルス君てば。あの、ありがとね」


「おう!」


 そう言ってハンナと離れると、とても注目されていることに気が付いた。


「まさか、そんな手があっただなんて、盲点でしたわ」


「ううー、ハンナ、それはズルいわ! というか上手いわ!」


「真似しないようにねリーナもラナ殿下も」


 え? リーナやラナも空から落ちてくる? ひょっとしてシエラも?

 そんな未来がもし起こっても、俺は大歓迎で受け止めるぞ?


「ぐぬぬ、なんでゼフィルスさんばっかりそんなおいしい目に……!」


 サトルよ、邪念だ。邪念が漏れているからだ。あとハンナは渡さん! 絶対だ!


 それと、また誰かが落ちて来たらとても心配なのでここで待機してようかなと思ったのだが、サーシャが『聖操氷層』を使って手すりを作ってくれたよ。これでコースアウトしても落ちる心配は無いので安心だ。でもとても残念に思うのはどうしてだろう……。


 他には去年もやった賞品ありの宝探しや、ビーチフラッグもやってみた。

 ビーチバレーも含めてとても盛り上がったよ。スクショも大変活躍した。

 1年生や、去年来たことがなかったメンバーは、海での遊びがとても新鮮だったみたいだ。

 ルルやパメラを初めとした経験者組が胸を張りながらルールを説明していたのが微笑ましい。あ、全競技スキルと魔法は禁止ね。景品もあるよ。パシャパシャ。


「って、いつの間にかもう夕方だよ!?」


「楽しい時間は過ぎるのが早すぎるですのー!?」


 まあ、海の時間なんてあっという間に過ぎていくよね。ってことでキャンプの時間がやって来ました!

 俺がそれを見て満足そうに頷いていると、メルトがとても微妙そうな顔でセレスタンに聞く。


「セレスタン。ちょっと聞いて良いか? キャンプなんだよな?」


「はい」


「俺はテントを想像していたんだが……城なんだが?」


「今年はヴァン様の力が借りられましたので」


 メルトがとても複雑そうに見ていたのは、さっきまで海にあったはずの第二拠点!

 海の拠点はもう消え去り、今度は砂浜の崖の近くに建てられていて、今日はここで寝泊まりの予定だ。


「ヴァン、凄い!」


「ダンジョンの戦闘中では発動すらできない役立たずですのに。でもこれは痒いところに手が届くですの!」


「照れるでありますな」


 カグヤもサーシャもこれにはヴァンをべた褒めだ(?)。

 そう、ヴァンのユニークスキルはさっきも言ったとおり宿泊可能。

 こういう時に結構便利だったりするのだ。なお、〈食ダン〉の時は雰囲気を大事にしたかったのでテント型キャンプ方式にした。でも〈海ダン〉なら城があっても雰囲気的におかしくはないよね?


 城は5階建てなので、2階を男子、3階から上を女子部屋とした。

 風呂は残念ながら無かった。無かったのだが、安心してほしい。


「じゃーん〈温泉結晶〉持ってきといたぜー!」


「なんてものを持ってきてるのこの人ー!?」


 俺が取り出した〈温泉結晶〉を見てクイナダが目を剥いて驚いていた。

 おっと、そういえばクイナダってこれの存在を知らないんだったな。

 ギルドハウスの温泉にこれが使われているって言ってなかったはずだし、知らないのも無理はない。


「ふっふっふ。今日は、せっかくの海キャンプだったので、ギルドハウスで使っている〈温泉結晶〉を取り外して持ってきておいたんだ! これでいつでも温泉に入れるぞ!」


「「「「「やったー!」」」」」


「「「ええー!?」」」


「ギルドハウスの温泉、こんな高価なもの使ってたの!?」


「よっしゃ、さっそく工事に移ろうか!」


 喜ぶ声に一部びっくりな声が入っているのが微笑ましい。

 問題は浴槽だが、そんなものはアルルに任せておけば問題はない。材料だって豊富に持ってきてるからな。砂に穴掘ってなにか加工して、平たい石かタイルを敷き詰めれば完成だ。

 おおー! 工事早っ!? さすがはドワーフなんだぜ。ということで〈温泉結晶〉セッティング。温泉じゃばーん。


「「「「「おおー!」」」」」


「なんじゃこりゃーーー! アルルが完全に〈エデン〉に染まっとる!? 兄さんも相変わらずぶっ飛んでるで!?」


「いやー、そんな褒めるな」


「褒めてへんわ! 全然褒めてへんわ!!」


 久しぶりにマリー先輩の度肝を抜いてしまったぜ!

 やっぱりマリー先輩はこうじゃないと。俺は嬉しいぞ。


「んじゃ、ちょいと拡張と男女の仕切りも作るで!」


 さすがに巨大な浴槽が1個だけだと物足りなかったアルルが工事に取りかかっていた。すごくいい。

 これならイベント後にはゆっくりと温泉に浸かることができるだろう。


「それじゃあ。夕食をみんなで食べたら、例の〈夜のモンスターハント〉に行きますか!」


 海は明日もあるからな。

 今日はここまでにして、今年もやるぜ〈夜のモンスターハント〉をな!

 大丈夫、シエラの許可はもう取ってあるんだ!

 本日最後の大イベントの始まりだーー!!




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