第1392話 海で〈水バイ〉起動! 2人だけのタンデム!
「早速海の名物いくぜ! 〈水上バイク〉だ!」
「でっかー!?」
ズドンっと海に浮かべた〈水上バイク〉。
去年はハンナやシエラたちとタンデムした記憶が未だに鮮明に思い出せる。
しかし今年の〈水上バイク〉は去年よりも少し形が違った。
「これ、何人乗りなん兄さん?」
「たしか5人から6人乗りだぜ?」
「船やん」
そう、俺が取り出した〈水上バイク〉はとんでもなくデカかった。サイドカーもあるぜ。これ、実は去年
勿体ないから持ってきた! のだが、ここでトラブル発生。
〈水上バイク〉を一目見ようとしたのだろうか、シエラ、ラナ、リーナ、アイギス、ハンナがこれを見て口を揃えて言ったのだ。
「却下ね」
「こんなのダメよ! もっと小さいのじゃないと!」
「これはゼフィルスさんは乗せられませんね」
「ロマンはありますけど、ゼフィルスさんにはレンタルしてきた小ぶりの〈水上バイク〉に乗ってほしいです」
「あ、あはは~」
まさかの不評! 否、なんだか俺だけ乗っちゃダメな感じを出された!?
俺、1年間これ運転するの楽しみにしてたんだが!?
「わひゃー! おっきー! これ去年当てたやつじゃない! ねぇねぇ! これ乗ってもいいシエラさん!?」
「いいわよサチ、みんなで乗ってね」
「ありがとうシエラさん! わひゅー!」
「ああ!? 俺の〈水バイ〉!」
無念にもサチが気に入ってエミ、ユウカ、アルル、カイリ、あとニーコも巻き込んで沖へ向かってしまった!
そういえばサチもあの時〈
「ゼフィルス、なにやってるの、あなたはこっちでしょ」
「お、おお?」
俺が愕然としたらシエラからお声が! 見れば2人乗り〈水上バイク〉に1人乗ったシエラが俺を待っていた。なぜか周りでラナやリーナが悔しそうにしている。
「優しく運転してね」
「おっふ! 操縦は任せろシエラ! 去年鍛えまくった運転テクを見せてやるぜ!」
シエラのタンデムのお誘いに〈大型水上バイク〉のことは秒で忘れた。
即でシエラの後ろに乗り込むと、シエラを腕の中に入れるようにしてハンドルを握り、エンジンを入れて沖へと出る。
その際サトルが呆然とした顔で見送っていた気がしたが、おそらく気のせいだろう。
2人乗りの〈水上バイク〉は去年人気だったので今年は6台もレンタルしてきた。存分に遊んでくれ!
「ふう。風が気持ちいいわね。潮の香りが懐かしいわ」
「だな! 俺も凄く楽しいぞ。シエラはどうだ? このくらいの速度で大丈夫か?」
「ええ。速度もいい感じ。これくらいの方がゆっくり話が出来るもの」
え? もしかしてシエラは俺と2人でお話したかったのでは? そんな考えが脳裏を過ぎる。
「ふう」
一息ついたシエラが背中を俺に預けてきた!
グッとハンドルを握る手に力が入る! 慌てるな俺! クールになるんだ!
ここではしゃいだら負けだぞ! 何に負けるのかは分からんけど!
「ねぇゼフィルス、今年も肝試しをするのかしら?」
「もちろんだ! ちゃんと幽霊船の予約も――あれ? 肝試し?」
「やっぱり」
しまった! 油断を誘われた!? これは誘導尋問だ!!
腕の中を見れば少し振り向いて若干口を膨らませている様に見えるシエラが!
こ、これはこれで良い―――はっ!? そうじゃない!
俺は去年肝試しを提案して却下されたことを思い出す。このままでは一夏の夜の海の思い出がなくなってしまう!?
「いや、あれは肝試しじゃなくて〈夜のモンスターハント〉でだな。ちょっと間違ったんだよ。うん。決して肝試しじゃないぞ?」
「…………」
シエラがとてもジト目の横目で見てきます!
いかん、思わずテンションが上がるままにエンジンを吹きそうになってしまう!
「いいわ」
「へ?」
「いい、と言ったのよ。私も夜のトレジャーハント、参加するわ」
「シ、シエラ!」
俺の説得と思いと願いが、シエラに届いた! 俺は〈夜のトレジャーハント〉を勝ち取ったのだ! しかし、これには続きがあった。
「でも条件があるわ。私がゼフィルスと同じチームになるなら、オーケーよ」
「なん、だと!?」
俺の脳内で「私、あなたと一緒のチームになりたいわ」というシエラの言葉がリフレインした。なお、内容は俺の都合の良いように一部改編されている。
ゴクリ。これは、チーム決めを改めなくてはいけない! 全ては〈夜のトレジャーハント〉を成功させるためだ! 俺は決意に燃えた。
「俺に任せておけ」
そうキメ顔でシエラに告げると、砂浜からラナの声が。
どうやらシエラとのタンデムは時間切れで交代のようだ。
砂浜にへ引き返すと、シエラが綺麗な髪を靡かせて降りる。
「それじゃあ後でねゼフィルス」
「おう!」
「次は私の番よ!」
「おう! ラナ、気をつけて乗れよ」
続いてはラナの番。ラナに手を差し出して掴むとひょいっと俺の前に乗せる。
「こ、こんなに近かったかしら?」
「どうしたラナ?」
「な、なんでもないわゼフィルス、全速前進よ!」
「全速希望!? オーケー! とりあえず崖まで飛ばすぜ! うおおおおお!」
「わきゃああああああ!!」
ラナの要望通りエンジンに気合いを入れたら、慣性に従ってラナが俺の腕の中、しかも体が密着するくらい下がってきた。
やっべ! 一気に意識をそっちに持っていかれそうになる!?
崖まで飛ばすって言ったがあれは嘘だ。このままコーナーを回るように崖の沿いを走るぜ!
「きゃーーーー! きゃーーー!」
「ラナ、楽しんでるかーー!」
「楽しいわーーー!」
最初は叫びだったが今は黄色い悲鳴だ!
俺も密着してくるラナを腕に感じながら安全を心がけながらブイブイ運転。
テンションが上がるままに駆け抜けてしまった!
「次はわたくしの番ですわ!」
「リーナ、ご希望はありますか?」
「ゼフィルスさんと海の上を走るなら、どこまでも」
テンションが上がりすぎた弊害で少しキザったらしくリーナを誘ったら、リーナから上品でグッと来る言葉が返ってきた! この言葉使い、見習いたい。
そこそこの速度で走る。途中サチたちの乗る〈大型水上バイク〉も見かけたので手を振ったりと、気分は観光。そんな感じ。リーナとたわいない話で盛り上がってしまった。アップされた髪から覗くうなじが大変よろしくないでした。
「はぁ、楽しかったですわ。もう終わりだなんて」
「楽しかった時間ってなんでこんなに早く終わっちゃうんだろうな」
そう言いながら浅瀬でリーナを降ろす。
縦ロールではなくアップにされた髪が眩しい!
「えっと、ではゼフィルスさん。次は私も、良いでしょうか?」
「もちろんだアイギス! 少し、運転してみるか?」
「いいのですか?」
続いてはアイギス。
アイギスはプロポーション抜群のお姉さん系、しかも騎士風なのでこういうなにかを運転する姿の方が合うだろうと思ってさせてみたのだが、予想以上によく似合った。
「これ、楽しいですね!」
「それに気持ちいいだろ?」
「はい!」
そこへ近づいてくる1台の〈水バイ〉。乗っているのはアルテとクイナダだった。
「あー! あそこアイギス姉さまがゼフィルス先輩とタンデムしてるー!」
「ちょ、アルテちゃん、これは邪魔しちゃマズいやつじゃないかな!?」
「アルテ、あまり近づくと危ないですよ」
「分かってますよー! ただ、そんな運転ばかりしてせっかくの機会に勿体ないことしているアイギス姉さまにアドバイスです! せめてゼフィルス先輩に抱きついてもらうくらいしたらどうですかー?」
「な!? こ、こらアルテ!」
「バイバーイ」
おっとアルテ、言うだけ言ってすぐに離脱して行きやがった。慣れてやがるぜ。
「す、すみませんゼフィルスさん。アルテが失礼を」
「まったく失礼じゃないさ。アルテの言うことも一理ある。こんな感じでどうだ?」
そう言って俺はアイギスのお腹に腕を回して後ろから抱きついてみる。
「わ、わひゃ!?」
「わひゃ?」
するとアイギスらしくない声が前から上がった。
「い、いえ何でもありません。そ、そうですね。アルテの言うことも一理あります。是非このままでお願いします」
「おう」
運転する騎士様に後ろから抱きつくシチュは鉄板だよな。
後ろから見ると耳まで赤くなったアイギスが、ちょっと怪しい運転で楽しんでいた。
「お、終わってしまいました」
「お疲れ様ですアイギスさん」
「最後はハンナか」
アイギスを降ろすと、次はハンナだった。
なんか、真打ち登場みたいな貫禄がある気がするのは気のせいか? さっきの水着のお披露目も最後だったし。
もちろんまったく問題無いので手を差し出してハンナの手を取り、引き上げるようにして前へと座らせる。
「どんな運転がご希望かなハンナは」
「去年と同じくらいでお願いね!」
「任せろ!」
ハンナとのタンデムはなぜかテンションが上がるというよりも和んで落ち着くのはなんでだろう?
ハンナ、相変わらず小っちゃい! でも安心の小ささ。腕にすっぽり入るのに横に揺れる度ぽよんぽよん柔らかい。思わずハンドルに力が入る!
「きゃー!」
そして〈水バイ〉をとても楽しんでいた。
アレだなハンナは雰囲気が柔らかいんだ!
「ゼフィルス君! 楽しいね!」
「だな!」
なお、ハンナが終わってからももちろん俺とタンデムできるという話は広がっており、メンバーも増えたことも相まって日が真上に来るくらいまで運転しまくったのだった。
ってもうお昼か! お昼はBBQだ! そして、それが終わったら海イベントするぞ!
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