第1384話 レアボス〈宮廷氷魔導師団長・グライナダレ〉
「それじゃあ、行ってくる!」
「ゼフィルス! 次は私と攻略しなさいよねー!」
「ん。リカ、がんば」
「ミサトちゃんもメルト君も頑張れ~」
「セレスタン、ゼフィルスを頼んだわ」
俺が手を挙げてそう宣言すると、みんなからいってらっしゃいと見送られた。
ラナは次の攻略予定だ。俺が付いていく必要はあるかな? どうかな?
カルアは少し残念そうな表情でリカを見送る。カルアは斥候系がメインで活躍するメンバーなので
ルキアが同じ兎人のミサトと、ついでにメルトを応援していた。シンプルにやる気が出る応援だ。
最後にシエラがセレスタンに何か俺のことで頼み事をしていたが、何を頼んでいた、何を頼んだのか気になるところだ。
まあいい。
これからボス戦だ。
俺たちも気を引き締めて、ボス部屋の門を潜った。
「む、これは?」
最初に気が付いたのは先頭で入ったタンクのリカだった。
続いて俺たちも中に入り、状況を把握して少し冷や汗が流れる。
「ボスが、いない?」
「ってことはだよ。これ――」
「こりゃ、レアボスをツモっちゃったな」
メルトの言葉にミサトがまさかという顔で俺の方を向いたので、頷いて答える。
そう、中にはなんと最奥ボスがいなかった。
つまりはレアボスである。
「徘徊型のように隠れている可能性もありますが――いえ、その可能性はないようですね」
俺の横に出てきたセレスタンが敵が隠れている可能性を考えて、おそらく索敵スキルと察知スキルで居場所を見つけようとしたのだろうが、しかしその前にレアボスポップのエフェクトが現れたことで構えに移行する。
「まさか、いきなりレアボスか。どうする、ゼフィルス?」
「作戦に変更は無い。いつも通りいくだけだ。リカは厳しくなったら下がっていいぞ」
「ふ、それはタンクの名が泣くな。だが、やられるのが一番ダメなのも事実だ。出来る限り、耐えられるよう頑張るとしよう」
リカは真剣な表情からさらに集中力を増した瞳で、まず前へ飛び出した。
そしてエフェクトが静まり、とうとうレアボスがその姿を現す。
「ボォォォォォォォ!!」
その姿は10層の守護型ボスを務めていた〈宮廷氷魔導師・マドウ〉に少し似ている、魔導師系の姿をしていた。
「ミサト!」
「『看破』だよ! 分かった、あれは――〈宮廷氷魔導師団長・グライナダレ〉だって!」
〈幼若竜〉を持つミサトがすぐに看破する。
そう、こいつは例の宮廷氷魔導師の団長、つまりトップだ! つまりはそれほどの強さを持っているという意味。
見た目は〈マドウ〉の時と比べてだいぶ小さく5メートルくらいの身長。氷色と言えばいいのか、透き通るような青いローブ姿で右手に巨大な木製の杖を持っている。
ローブの中は仮面で顔を隠しており体は青色の陽炎のようなものが揺らいでいた。
「なかなかの貫禄。我が相手に不足なし! 我が名はリカ、出会った中で一番の強者の雰囲気を持つ者よ、その首、もらい受ける! ――『名乗り』!」
「ボォォォォォォォ!!」
リカが名乗りを上げてヘイトを稼ぐと〈宮廷氷魔導師団長・グライナダレ〉、通称〈ナダレ〉がリカに向けて攻撃を放つ。
手始めと言わんばかりに10以上の氷の飛礫が飛来する。しかも1つ1つが1メートル級にデカかった。
「その程度! 『制空権・刀滅』!」
リカは〈四ツリ〉防御スキルで迎撃。リカの間合いに入った飛礫は一瞬で斬られて砕け散っていった。
全ての攻撃が防がれ相殺されたことでヘイトが上がる。
「ボォォォォォォォ!!」
「よし、ヘイトが十分稼げた!」
「メルト、ミサトは魔法で攻撃! あの杖とか攻撃してみようか!」
「任された――『ドラゴン・ロア』!」
「オッケー! 『サンライト』!」
「『サンダーボルト』! セレスタンは俺と共に接近だ! 行くぞ!」
「畏まりました」
メルトの武器スキル、『ドラゴン・ロア』が放たれる。狙いは寸分違わず杖の頭だった。
リカに追撃の吹雪を放つ〈ナダレ〉だったが、直後に杖に直撃すると杖が弾かれ、吹雪があらぬ方向へまき散らされる。
その隙にミサトと俺の魔法が直撃してダメージを与え、続いて俺はセレスタンと共に足下へと突っ走った。
「なるほど。攻撃の要はあの杖だな。『ドラゴン・ロア』が直撃してもダメージは出なかったが、攻撃を逸らすことは可能ということか。覚えておこう」
「メルト様、ゼフィルス君がリカちゃんのヘイトを超えないよう気をつけながら攻撃してくれだって」
「任された――『グラビティ・ボール・エクス』!」
メルトの言うとおり、攻撃の触媒となるのはあの杖で、アレが吹き飛ぶと攻撃まで吹き飛ぶというギミックが存在した。とはいえ生半可な攻撃では吹き飛ばすこともできないんだけどな。メルトの火力があってようやく実現する戦法だ。
加えて狙いを定めて撃つのはなかなかの難易度だが、メルトならやってのけるだろう。
「ボォォォォォォォ!!」
すると〈ナダレ〉は「先程のは序の口だ」と言わんばかりにリカへ攻撃を連打する。
なかなかに強力で、巨大な氷の玉を落としたり、氷の飛礫を放ったり、
本当ならミサトが反射してもいいのだが、リカは相手の攻撃を防ぐことでヘイトを稼ぐタンク。リカがピンチにならない限り、リカを助けるために反射は使わないよう言っておいたのだ。
「くっ、しかし、やりづらいな! 『
「ボォォォォォォォ!!」
リカがそう言いながらも吹雪を掻い潜って足に一撃を入れていた。
とはいえやりづらいというのは分かる。元々防御型の最奥ボスを想定してリカを連れてきたのに、レアボスにチェンジして魔導師が相手になってしまったのだ。
リカの防御破壊が活かせず、ミサトに反射してもらってその隙に懐に入り込んだリカが防御を崩すことを想定していた俺からすれば、今回のレアボスツモはちょっとタイミングが悪かったなと思うところ。
「セレスタン、顎を狙ってくれ!」
「畏まりました――『不動高遠爆』!」
「ここだぁ! ――『スターオブソード』!」
「ボオオオオオオ!?」
とはいえ、この程度では負けないけどな! セレスタンが遠く離れたボスの顎を飛ぶ拳で爆発させると、俺がその瞬間に盾と剣を合体させた大剣の一撃で足を刈る。
するとボスは抵抗も空しくひっくり返ったのだった。ダウン!
「総攻撃だー!!」
「うおおお! ―――『グラビティ・ロア』! 『ダークネスドレイン』! 『アポカリプス』!」
「総攻撃だよー『ミラーピアー』! 『サンライト』! 『サンクチュアリ』!」
「『
「攻勢に移る! 『二刀斬・
「『
ダウンを捥ぎ取ったので総攻撃。フィニッシュだ!
今回、防御型を倒そうということもあって火力の高いメンバーを多く連れてきていた。相手が魔導師ということもあってかなりのダメージが入ったな。
ダウンから復帰した〈ナダレ〉が杖を突いて立ち上がる。
「ゼフィルス、少しおかしいぞ。
「……油断するなよメルト! まだ第一形態だ!」
距離が離れているメルトが大声で訴えてくる。
まあ、言いたいことは分かる。だってこいつ、さっきから全然リカばっかりに攻撃を打ち込み、それも全部防がれ、しかもダウンまで取られているのだ。
〈謎ダン〉の〈マジスロ〉の方がよっぽど強いと感じたのだろう。もちろん、今のままでは、だ。
その瞬間、先程とは一風変わった行動を取る〈ナダレ〉――来るか!
〈ナダレ〉はリカに杖を向けると―――大量のこけし型氷を発射した。
あれは『こけし
「こけしだ!?」
「ぶふっ!?」
「む、『制空権・乱れ椿』!」
しかしリカはそれを全部叩き落としたーーーー!
「こけしが!?」
「ぶはっ!?」
ミサトのツッコミに思わず吹き出しそうになるのを賢明にこらえる。ちょっと笑いが漏れた気がするが、きっと気のせいに違いない!
「おいゼフィルス!」
「い、いや待てメルト! アレは俺たちを油断させるための罠に違いない! 警戒を怠るな!」
「ゼフィルスが一番油断しているように見えるが!? というか笑ってるじゃねぇか!」
ごもっともなツッコミ!
でも仕方なかったんだってメルト! 俺が「油断するなよ(キリッ!)」とした瞬間、大量の『こけし流氷群』とミサトのツッコミが同時飛来したんだ! これを耐えた俺をどうか評価してほしい! ちょっと漏れたけど!
ぐぬぬ、おのれ〈ナダレ〉め! 俺が成敗してやんよ!
「こんにゃろめーー! よくもやってくれたな! 『聖剣』!」
「ボォ!?」
勇者の一撃によって大きなダメージを受け、一瞬硬直する〈ナダレ〉。
そこへセレスタンとリカが斬り込んで、ついに第一形態が終わり、第二形態へと移る。第一形態で一番警戒すべき全体攻撃が来なくてホッとしたよ。
なにしろ今回、全体攻撃を受けるようなタンクがいないからな。火力の高いメンバーで一気に削りきったのが功を奏したか。セーフ。
「全員距離を取れ!」
俺の言葉に全員が距離を取る。形態が変化すると、何か不測の事態が起こらんともかぎらない。
「おいゼフィルス、こいつは本当に宮廷魔導師団長だったのか?」
「…………分からん」
そうとしか答えられない俺を、どうか許せ〈ナダレ〉。というかもっと頑張れよ〈ナダレ〉! 確かに第一形態とかその弱さは目を見張るものだったけど。
あれに騙されて、あとは第二形態と第三形態だけ倒せば勝てるからと思い込んで突撃し、何度戦ってもペッてされたプレイヤーは多かった。
本番はここから、第二形態からだ。見れば分かる。
「ボオオオオオオオオオ!」
「ぬ、下を見ろ! これは、召喚陣か?」
「召喚盤に描かれているのと同じ感じの線字だよ!」
「こいつ、何かを召喚しようとしているぞ!」
メルト大当たり。
〈ナダレ〉の第二形態、それは召喚だ。
〈ナダレ〉が杖を振り上げると、足下の召喚陣から出てきたのはまるで氷山のような巨大な氷の結晶。そこにヒビが入ると、ガッシャーンと氷が砕けて、中から封印されていた怪物が現れる。
それは巨大な牛のような頭とがっしりとした下半身を持つ、二足歩行の〈オーガ〉系のモンスター。
しかし、その大きさはとんでもなく、なんと15メートル近くもある。
〈ナダレ〉の3倍だ。その肩に乗る〈ナダレ〉が小人に見えるな。
「ブオオオオオオオ!」
「ボオオオオオオオ!」
現れるHPバーは2本、しかし〈ナダレ〉のみに表示されている。
つまり、こいつは2体で1つのボス。
主と召喚モンスターがHPを共有している〈ツインズ〉型の第二形態である。
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