第1378話 解説の報酬〈守氷ダン〉46層以降の許可ゲット




「ただいまー!」


「ただいまー、じゃないわよゼフィルス! どこ行ってたのよ! 知ってるけど!」


 みんなと合流したら早速ラナがツッコミを入れてきた。


「知っているなら話は早い。ちょっと急遽依頼があってな。Sランク戦の実況にゲストとして参加してたんだ! いやぁ楽しかったわ~はははははは!!」


「そんな楽しそうなことをギルドメンバーに内緒にして、羨ましいじゃないの!」


「いや、本当に急に入った依頼クエストだったんだよ」


 実はSランク戦の実況ゲストは他に呼んでいた人がいたらしいのだが、その方が急に来られなくなってしまったとのことで、丁度近くにいた俺に声が掛かったんだ。

 学園長から直々に。楽しそうだから受けてみた。


「でも、とても楽しかったぜ」


「それはなによりねゼフィルス。観客席はとても賑わっていたわよ」


「シエラ!」


 とても淡々とした口調でこちらに歩いてくるシエラは、なぜかジト目だった。

 やったぜ!


 実は〈エデン〉メンバーもみんなSランク戦の観客席に招待されていた。もちろん招待してくれたのは〈ミーティア〉だ。〈魔法使いの箒杖〉を納品したからな。

 負けちゃったけど。


「途中まで一緒に来ていたはずなのに、ちょっと目を離した隙に『困ってる人見つけたからちょっとクエストしてくる』なんてメッセージが届いてギルドマスターが消え去り、実況席であなたが紹介されたときの私たちの気持ちがわかるかしら?」


「みんなで――〈何やってるのよゼフィルス(君)!?〉ってハモっちゃったじゃないの!」


「マジで!? それはちょっと見てみたかった」


「はぁ」


 シエラが溜め息を吐く。

 まあ、みんなで一緒にアリーナに行ったのに俺だけ別行動になっちゃったからな。

 さすがに埋め合わせはしないとな。


「何かで埋め合わせしてもらわないと許さないんだからね!」


「もちろんそのつもりだラナ。ということで早速その埋め合わせを発表だ。学園長との交渉が上手くいってな――〈守氷ダン〉の攻略のOKをもらってきた!」


「え、本当!?」


「マジマジ」


 俺の持って来たお土産に即で食いつくラナ。先程の「私、オコなんだからね!」という雰囲気は一瞬で霧散していた。


 それもそのはずだ。

 今まで上級中位ダンジョンは、その危険性から学園が奥地に進むのを制限していた。せめて〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉が全てのダンジョンの調査・・を終えるまでは待ってくれないか、と言われていたんだ。


 まあ学園の管理者として、教職員として、その気持ちは分かるのである程度身を任せていたのだが、〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉でも初めてのダンジョンだ、その進行は遅く、学園長に「なら俺も参加してやんよ」な感じで攻略・・の許可を打診していたのである。


 最近の学園は割と積極的に上級中位ダンジョンの攻略を推し進めてくれているのだが、このペースでは上級上位ダンジョン、そしてその次の最上級ダンジョンまでどのくらい掛かるのか分からない。

 学園長は最終的に俺の要求――じゃなくて要望を認めてくれたのだ。

 急遽な実況のゲストという依頼に加え、夏休み最後のオークションの目玉に〈テレポ〉を渡す提案をしたら、いけたんだぜ。


 どうやら今年の大規模オークションは、去年と比べて〈上級転職チケット〉が目玉としての立場を失ったとかで出展物にとても悩んでいらっしゃったのだとか。

 うむ、力になれて良かったよ。

 ちょっとお腹をさする回数が多かった気がしたが、もしかしたら食べ過ぎだったのかもしれない。


 ついでに〈守氷ダン〉の攻略で良いものがドロップしたら、それもオークションに持ち込んで欲しいと打診されたよ。任せてくださいと胸を張りながら言って学園長とさらばしてきたのだ。


 それで表立っては臨時の実況ゲストの報酬という形で許可をだしてくれたのだった。

 アリーナの実況って公共事業だからな。


「それで、みんな集まれるなら午後からでも早速〈守氷ダン〉へ行こうと思うんだ」


 俺はそう提案した。




 その日の午後、俺たちの姿は〈守氷ダン〉にあった。


「今日から上級中位ダンジョンの攻略だーーーー!!」


「「「「おおー!」」」」


 ショートカット転移陣でやってきたのは45層。

 ちょくちょく攻略を進めていた俺たちだが、50層からは深層に突入するのでここまでしか入ダンを許可されていなかった。


 ここも40層で階層門が2箇所あり、片方の45層ボーナス宝箱ステージで〈氷宮殿の第三の大鍵〉をゲットできる。それをもう片方の階層門に使えば46層へ侵入できるのだ。


 これまでも25層では〈氷宮殿の第一の大鍵〉、35層では〈氷宮殿の第二の大鍵〉を使用して階層門を突破している。

〈謎ダン〉の上級中位ダンジョンチュートリアルが効いているな。あれのおかげで混乱することなく進んでこられている。


 ちなみにこの〈氷宮殿の第三の大鍵〉は使用制限が1回なので使用すると消えてしまう仕様だ。だが、ボーナス宝箱ステージには何個も何十個も〈大鍵〉が置いてあるし、翌朝なれば宝箱も少しリポップしているので無くなることはない。

〈テレポート水晶〉を持っている俺たちなら一度行けば再取得は必要ないけどな。


「それじゃあ。46層、行くぞ!」


 鍵を使うと階層門に渦巻きのような次元の渦が出るのでみんなで潜る。

 この次元の渦は1日でなくなってしまうので要注意。


「ねぇ、これって私たちは大鍵を取りに行くために寄り道したけど、他の人は寄り道しなくても通れるんじゃ無いの?」


「? 何言ってるんだラナ。もちろん通れるぞ」


「通れるんじゃない!」


 俺が一度区切って頷くと、ラナがツッコんだ。

 エステルが苦笑しながら弁護する。


「おそらく、そういう人たち向けのボーナス宝箱ステージなのでしょう。少なくとも徒労ではありませんでしたよラナ様」


「とはいえ探すのは大変だったけどな」


「宝箱がありすぎて全部開けた」


 その言葉にリカが苦笑気味に言ってカルアはニコニコしていた。

〈謎ダン〉とは違い、〈守氷ダン〉は広大だ。

 そのボーナス宝箱ステージともなるととんでもなかった。そこら中に宝箱があるのだ。マジで夢のステージだったよ。

〈大鍵〉の入っている宝箱もかなりの数あり、とんでもなくだぶついてしまっている。


 これを売る場合、買ったギルドは寄り道せずに階層を突破可能だ。

 それを聞いてラナがずるいわ、となったわけだ。

 とはいえあの大量の宝箱を全部開けたのだから損は無い。時間はすんごく使ったけどな。


「ではみなさん、いつも通り行きますわよ。〈竜の箱庭〉起動! よろしくお願いしますわ!」


「が、頑張ります!」


「こちらこそだよ。リーナちゃんもカイリちゃんも地図の方よろしくね~!」


「みんな、いってらっしゃーい。――んじゃやるよー『立体地図レーダー完備』!」


 リーナとカイリに見送られ、ラクリッテやノエルと一緒にダンジョンを探索する。

 作戦はこれまでと変わらない。

〈竜の箱庭〉という地図とバックアップのリーナとカイリによる指示、俺たち現場班が怪しい場所をくまなく探索するのだ。


「あ、『ハミングサーチソナー』に罠が引っかかったよ! アレじゃないかな?」


 ノエルの『ハミングサーチソナー』は探知と罠発見スキル。

 本人はハミングしているだけだが、その反響音で異常を見つけるスキルだな。

 ノエルが指を差したところは俺も『直感』で感じていた。氷の巨大ハンマーが天井に仕掛けられている。あれで何をしようというのか、恐ろしい迷宮だぜ。


 俺がいつも通り指示を出す。


「よし、ノエルそれ停止させてくれ」


「うん! 『トラップサイレント』!」


 ノエルが人差し指を立てて唇の前でシーとする。一見何も変化が無いように見えるが、俺の『直感』がアレを危険と認識しなくなったので活動を停止したのだろう。


「ノエルちゃん、それ便利ですね」


「私がこのパーティの索敵役だからね! ふんふふ~ん♪」


 俺のパーティ1班はタンクをラクリッテ、オールマイティでなんでもできる俺とノエル、そしてニーコとアタッカーのエステルというパーティだ。

 索敵役は基本ノエルが担当している。


「『ゼフィルスさん、そこを左に曲がって北西を目指してくださいませ』」


「了解だ。みんな、あの角を左だそうだ」


 時々リーナの指示が届くのでその通り動きながら1つずつ潰しながら探索範囲を広げていく。

 あのラナが交渉(?)した〈アイスクリスタルゴーレム〉は5層以降は出なくなってしまったからな。仕方がないのだ。


「む、ぼくの『お宝レーダー』が近くに宝箱があると告げているよ!」


「なんだって! 寄り道しよう!」


 でもたまに道を逸れてしまうこともある。


「あ、敵発見! どうするゼフィルス君?」


「エステル、行けるか?」


「どちらにします? 轢きますか? 撃ちますか?」


「轢いて戻ってきてくれ。俺とニーコは宝箱に集中する!」


「了解しました」


 エステルはこういう時凄く便利。

〈イブキ〉を出して乗り込んだエステルは、そのまま『ドライブ』系を使うと即でモンスターたちを轢いて光にしていた。エンカウントカットだな。

 轢き倒すと経験値はもらえないが、俺たちはすでに〈謎ダン〉でLV40まで育成していて経験値が入らないので構わない。


 最初こそラナがいないこのパーティに来たエステルもどこか残念そうだったが、今ではやる気もバリバリだ。見事な働きである。

 ラナのところはシズとパメラがいるし、なんと言ってもタンクはシエラだ。

 安心してくれ。というかこれ以上エステルなんて大戦力を投入したらバランスが崩れてしまうのだ。


 そんなことを考えながらニーコとお宝のある扉の前に立つ。


「ふっふっふ、ぼくの勘がこの中にはすごいものがあると告げているよ」


「ニーコもか? 実は俺もだ」


 全パーティが別行動しているので〈隠し扉の万能鍵(金)〉が足りない。

 そのため〈氷宮殿の鍵〉でガチャリと開錠して扉を開ける。

 するとそこにあったのは〈金箱〉が2つ。しかし、その1つに俺の『直感』さんが警報を鳴らす。


 ニーコもそれを見て目を見開いた。


「「こいつ宝箱じゃない!? 〈ミミック〉だ!」」


 俺とニーコのセリフが見事にハモった。


「ミーーー!」


 ―――〈ミミック〉。

 それは宝箱に擬態するモンスターで有名だ。

 騙されたが最後、バクンと食べられて骨の髄までしゃぶられる。

 2つの宝箱のうち、1つは部屋の奥の中心に、そしてもう1つがその右側に置かれていた。中心から若干ズレてシンメトリーになっていない宝箱。

 それが見破られた瞬間、パカッと蓋を開けて飛び掛かってきた。


「うそ!? 私の探知に反応無かったのに!?」


 ノエルが驚くがこいつは擬態が得意なモンスターだ。探知系にはまず引っかからない。え? 『直感』は別だよ? そしてニーコは【トレジャーハンター】だ。その発見特化パッシブスキル『隠した財宝はここかな?』はたとえ完璧な擬態でもお宝か否かを看破する。


 俺とニーコは怒りに燃えた。


「〈金箱〉に擬態するとは不届き千万! こんの不届き者め! 俺が成敗してやんよ!」


「ぼくも成敗してやんよ!」


 エステルがいないので、俺たちが相手だ。


「『激射げきしゃ』!」


「『テンペストセイバー』!」


 ニーコの二丁拳銃が火を噴いた。

 おお! ニーコの半目が釣り上がっている。珍しい!


 ニーコの弾幕が〈ミミック〉を押しとどめると、俺がそこへソニック系の上位『テンペストセイバー』で近づいて叩っ切る。


「ミーーー!?」


「まだまだこんなもんじゃ終わらん! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「『ファーストドロー』!」


 俺がぶった切って吹っ飛ばすと、ニーコが追撃に早撃ちスキルでガンガンダメージを与えまくる。良い腕じゃねぇかニーコ!


「これでトドメじゃーーーーー!! 『聖剣』!」


「ミ!?」


「ニーコ!」


「食らいたまえ! そしてお詫びの品を落としていくと良いさ! 『トレジャーショット』!」


『聖剣』で斬られ動きが止まったところにニーコがトドメを刺す。

 ボスでもなかった〈ミミック〉はそれでHPがゼロになり、エフェクトに光って消えてしまう。

 ニーコの『トレジャーショット』はトドメで使うとドロップ品が増えるラストアタック効果がある!


 そして〈ミミック〉は〈金箱〉擬態で分かる通り、全身金色のレアモンスターだ。


 レアモンスターのドロップが、ニーコの攻撃で増える。


 ドロップしたのは――〈隠し扉の万能鍵(金)〉。

 それも3本だった。




 ―――――――――――

 後書き。


 学園長「オークション、何を出せば良いんじゃ。生半可なものでは……」


 ゼフィルス「いいのあるよ? そこで相談なんですが――」


 結果→〈守氷ダン〉攻略許可。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る