第1377話 切り札VSユニーク。Sランク戦試合終了!
〈百鬼夜行〉VS〈ミーティア〉。
これまで2度行なわれてきたランク戦だが、その全てに〈百鬼夜行〉が勝利している。
だが、ハクは当時まだ1年生だったために〈ミーティア〉とギルドバトルをするのは初めてだった。
さらにサブマスターになって初めての防衛戦でもある。
しかし、ハクには欠片も憂いは無かった。
「地力はこっちが上ですぅ。みなはん作戦通りお願いしますぇ」
「まっかせろいハクの姐さん!」
「力を付けたのは〈ミーティア〉だけじゃねぇってところを魅せてやりまさぁ!」
〈百鬼夜行〉はいろんな獣人の集まりなためか、言葉使いが色々と雑多だ。
しかし不思議と調和が取れていた。
ここでは力こそが格。
最初に上級職LV30を突破し、力を見せつけたハクをみんなが認め、全員が指示通りに動く。だが、雑多なためか未だ〈ジャストタイムアタック〉には遠く、〈南巨城〉と〈中央巨城〉は奪われてしまう。
まあこれは仕方がない。だが、北側は全て〈百鬼夜行〉のものだ。これで逆転。
そして〈ミーティア〉は想定通り、〈百鬼夜行〉の赤本拠地に全軍で突撃をカマしていた。
ここで選択肢がある、〈ミーティア〉の白本拠地を狙うか、奇襲で部隊の側面を叩くか。ハクの狙いは〈ミーティア〉の部隊。
狸人の【幻想の化身】に〈クマライダー・バワー〉を取り出してもらうと、熊人の男子たちがすぐにそれを装備し、一気に〈ミーティア〉の部隊に突っ込んだ。
しかし、〈ミーティア〉にはとんでもない切り札が存在した。
「みんな、ツーマンセルで固まって! やるわよ!」
「「「「おおー!」」」」
〈流星のアンジェ〉の言葉に箒に跨がる〈ミーティア〉の部隊。
2人1組で固まって、片方が装備している箒に乗ったのだ。
「何をするかしらんけどなぁ、うちらのスピードを舐めてもらっては困りますぇ。このまま〈ミーティア〉の西に出て本拠地の部隊と挟み撃ちや」
「「「「応!!」」」」
そうしてついに〈百鬼夜行〉と〈ミーティア〉が接触。
ハクの部隊が直前で下車、否、〈クマライダー・バワー〉から飛び出し、〈ミーティア〉へ奇襲を浴びせんとした。その速度はかなりのもので、本来なら本拠地襲撃中の〈ミーティア〉は陣形を整えることも出来ず奇襲を食らう場面。
しかし、ここで〈ミーティア〉の切り札が発動する。
「『魔法飛行』!」
「「「「『魔法飛行』!」」」」
「な!」
「「「「なにぃ!?」」」」
〈ミーティア〉が空を飛んだのだ。しかも全員が。
獣人として『直感』持ちも多い〈百鬼夜行〉だ。これがとても危険なものだとみんなの『直感』が警報を鳴らしていた。
呆気にとられた者も多い中、〈ミーティア〉の行動はまだ続いていた。
「『ソウルメテオブラスト』!」
「『魔神の睨み』!」
「「「「「『フレイムロックブラスト』!」」」」」
瞬間来たのは、まるで絨毯爆撃。
奇襲で飛び込んで来た〈百鬼夜行〉が足を止めた瞬間の出来事。
挟撃でハクの部隊とホシの部隊が交差するそこへ、〈ミーティア〉が集中攻撃を放ったのだ。魔法攻撃に加え、さらに大量の爆弾が降ってきたのである。
それを読んでいたハクはすぐに動く。
「全員防御や叩き落とすんや!――『
五段階目ツリーである強力な七尾の範囲攻撃魔法を叩き込んだのだ。
他の獣人も次々と防御の姿勢を取る。
そんな中、やはり頼りになるのはギルドマスター、タンクのホシだ。
「『負けないんだから』! 『吸属封印盾』!」
【嫉妬】の〈五ツリ〉自己バフ『負けないんだから』で防御力と魔防力を大幅に強化し、属性攻撃を吸収する五段階目ツリー『吸属封印盾』で絨毯爆撃の半分近くを受け持ったのだ。
しかし、そこからもガンガン攻撃を降らされ、数名の退場者が出てしまう。
「反撃や! 『
「「「「おおおおおお!!」」」」
ハクも『
攻撃の数こそ減っている気はするが、制空権を取られたことにハクはニコっと笑って評価する。
「やるやないかぁ。―――でもなぁ」
素直にすごいと感心するハク。
空を飛んで安全圏からの一方的な攻撃。しかも、ハクたち奇襲部隊が挟撃しようとしてホシの部隊と接触し足を止めてしまう、その瞬間を狙った素晴らしく完璧なタイミングでのカウンター。
とんでもない戦術だ。
普通ならばこれで決まってしまうかのような強力な作戦である。
―――しかしだ。こんなことでやられてしまうようではSランクギルドは名乗れないのだ。
「ホシ姉。あれ、落としてぇな」
「もちろんよハクちゃん。お姉さんに任せてなのよ」
いつの間にかハクの側にまで来ていたホシがその言葉ににっこりとしながら頷き、手を空に翳す。そこへ自在本である〈羨望取消書〉は滑り込み、本が開いた。
そして告げる。【大罪】職最強と言われたユニークスキルを。
「――――『羨ましいからそれ禁止』!」
瞬間、〈ミーティア〉全部隊が墜落した。
◇
少しだけ時間は遡り、〈ミーティア〉が切り札の箒を取り出した時の実況席。
「こ、これはーー!! 〈ミーティア〉の秘策か!?」
「箒、でしょうか? 全員が2人1組になって箒に跨がりました! いったい何が起こるのでしょうか!」
「ふっふっふ。刮目して見よ! これからすんげぇことが起こるぞ!」
「ゼフィルスさん、アレが何かご存じで?」
「おう。だが、見てもらった方が早い。――使うぞ!」
「あ、あああああーーーー!? な、なんてこったーー!? 〈ミーティア〉が空を、空を飛び始めましたーーー!?」
「なんと! あの箒は空を飛ぶためのものだったのですか!」
「その通りだ。あれは〈魔法使いの箒杖〉。スキル『魔法飛行』と言って、MPを消費しながら空を飛ぶことが可能だ。
「〈百鬼夜行〉が唖然としております! 〈クマライダー・バワー〉から飛び出した面々が真下を通り過ぎていきます! 会場のざわめきが絶好調だーーー!!」
「誰でも飛ぶことができる杖とは驚きました。しかしそれならば最初から使えば良かったのでは?」
「さっきも言ったとおり飛ぶとMPを消費する! 補給が厳しい〈城取り〉では使い続けるのは難しい! だからこそ、奇襲に奇襲で返すためにここで手札を切ったんだろうな!! タイミングは完璧だ!」
「これは〈百鬼夜行〉も意表を突かれたかーーーー!! 奇襲は奇襲に弱い! サブマスター率いるメンバーたちが一気にピンチかーー!! あれ!? 空飛べるのは強いけど、〈スキル〉〈魔法〉〈ユニークスキル〉も使えないなら攻撃もできないんじゃ――って攻撃したーーー!!」
「なんと! 大量の爆弾まで使っている様子です! これは!」
「魔法は使えないのではなかったのかーー!? ゼフィルスさん、解説を!」
「2人1組というのがミソだな。俺たちもびっくりしたんだが、どうやら〈スキル〉〈魔法〉〈ユニークスキル〉が使えなくなるのは『魔法飛行』を使っている術者だけらしくて、それに便乗している人は使うことが出来るらしいんだ。いやぁ最初はそれ使えるの!? って盛大に驚いたぜ」
「な、なんですと! それは飛びながら魔法が使えるのと同じではないですか!?」
「そうなんだよ。もうびっくりだよなぁ、ははははは! 〈ミーティア〉はこれを〈百鬼夜行〉への切り札として使ったんだろうな!」
「笑い事じゃなーい!! というか、ゼフィルスさんはなんでそんなに詳しいのーーーー!?」
「ふっ、それはな。俺たちがレシピを当てたからだ。ついでに作ったあれを〈ミーティア〉に売った」
「〈エデン〉の仕業かーーーーー!! 全部〈エデン〉の仕業だったーーーー!! なんてもん当ててるんですかゼフィルスさんーーー!」
「実は俺たち〈エデン〉の練習ギルドバトルの時に使おうと思ったんだが、とある事情でやっぱりやめたんだ」
「なにそのとある事情! 凄く気になるんだけどーーー!」
「やるなら、このタイミングだな。よーく見ておくと良いぞ」
「なんということでしょうか! ああっとここで〈流星のアンジェ〉がさらに猛攻を仕掛ける! 〈百鬼夜行〉なすすべがな…………あ?」
「へ? お、落ちたーー!? 墜落ーーー!? しかも〈流星のアンジェ〉だけじゃなく、サブマスターのマナエラも、〈ミーティア〉が全員墜落したーーー!?」
「あー、まあそうなるよな。さすがは【嫉妬】。完璧なスキル選択だ」
「〈ミーティア〉の切り札が、〈ミーティア〉の切り札がーーーーー!? ゼフィルスさん解説お願いします! いやほんと、何が起こったのーーー!?」
「解説しよう。あれは【嫉妬】のユニークスキル、『羨ましいからそれ禁止』を使われたんだ。それで〈ミーティア〉の『魔法飛行』が全部禁止された。だから落ちた」
「き、禁止ーーーー!? しかも全部ーー!? 全部禁止とは、全部禁止とはどういうことなんだーー! もっと! もっと詳しい解説プリーズ!」
「おう、今言った通りだ。【大罪】職が1つ、【嫉妬】のユニークスキルはLV10の時、現在発動中の〈魔法〉〈スキル〉〈ユニークスキル〉いずれか1種を使用禁止にしてしまうというとんでもない能力なんだよ。発動も強制キャンセルされて再使用不可。【嫉妬】がユニークスキルを解除するか使用者を倒さないと解除されないという狂った性能をしてるんだ。まあ、【嫉妬】も禁止している間はユニークスキルが使えなくなるんだけどな」
「と、とということは!?」
「1種というのがミソでな。1つじゃない。だから全員に効力がある。『魔法飛行』を禁止されてしまえば、同じものを発動している全てが
「強すぎじゃないですか!?」
「そりゃ【大罪】職だからな。まさに大罪!」
「ああ! 〈ミーティア〉が〈百鬼夜行〉によって大きなダメージを受けているーー!」
「〈ミーティア〉はすでに7人退場! いや、8人目が退場しています! どんどん増えています!」
「これは〈ミーティア〉が厳しいな。空からの墜落でダウン判定がキツすぎた。流れが完全に〈百鬼夜行〉に向いてる。また、1つのスキルを大きな切り札にしていると、それを封じられた時こうなりやすいんだ。だから手札は何枚も持っておくべきだな。というかSランクギルドは1つの切り札でやられるほどヤワじゃない」
「さ、さすがはゼフィルスさん、言うことが違いますね」
「切り札を〈ミーティア〉に売ったのはゼフィルスさんだけどね!!」
「いやいや、俺たちが〈魔法使いの箒杖〉を売る前から〈ミーティア〉は〈百鬼夜行〉にランク戦を挑んでいたし、他に切り札があるならさらに1つ手札を増やしてみないか? という感じだったんだ……だから〈ミーティア〉の最初の切り札はまだ温存してあるはず!」
「〈ミーティア〉のメンバー、10人目が退場! 撤退して行きます! 対し〈百鬼夜行〉の退場者は5名! 新サブマスター〈百炎のハク〉の炎が4人を一度に退場させてから完全に形勢が逆転しました!」
「2年生だけど、Sランクサブマスターの格を見せたーーー! 〈ミーティア〉この後どうするのか! 勝てるのか!? ゼフィルスさんの言う真の切り札はあるのかーーー!」
◇ ◇ ◇
試合は続く。
その後、〈ミーティア〉は何度も果敢に攻めに出るも〈百鬼夜行〉〈吸星のホシ〉の防御力は固く、全てを防ぎきられてしまう。
ならば巨城を狙うかと思うもそれも難しい。何しろ近くの巨城は全て〈百鬼夜行〉にマークされていたからだ。
後は北にある3巨城を狙うしかないが、そんなことをして戦力を分ければ隙を突かれることは必死。足の速い〈百鬼夜行〉によって各個撃破されてしまうだろう。
結局〈ミーティア〉は〈百鬼夜行〉を牽制しつつ〈南東巨城〉と〈東巨城〉を取りに走ったが、その隙を突いてハクを始めとした攻撃部隊が〈クマライダー・バワー〉という超スピードのカウンターで白本拠地を強襲。
足が遅くこれに対応しきれなかった〈ミーティア〉が痛恨のダメージを受け、白本拠地が陥落してしまうのだった。
これが決め手になり、最後まで赤本拠地を落とせなかった〈ミーティア〉が敗北。〈百鬼夜行〉の勝利となったのだった。
ここでSランク戦、試合終了。
勝者は――〈百鬼夜行〉。
防衛成功。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます