第1376話 アンジェVSホシ。クラスメイトの因縁の対決!




〈ミーティア〉が本拠地へと攻め込む。

 北側の巨城全てを〈百鬼夜行〉に取られるなんてそんなのは想定内。本命は北まで足を伸ばして手薄になった〈百鬼夜行〉の本拠地へ進軍することだったのだ。


 しかし〈百鬼夜行〉もそれは読んでいた。

 現在学園を賑わせている〈乗り物〉装備、〈クマライダー・バワー〉を2台召喚し(召喚じゃねー)、強力な速度と突破力で〈ミーティア〉の側面から突き破ろうとしていた。


〈ミーティア〉の部隊が赤本拠地を攻めに出ている間に留守白本拠地を狙うことも出来たはずの〈百鬼夜行〉だったが、ポイントは〈百鬼夜行〉優勢である。

 わざわざ本拠地を落としてもメリットが少ない。ならば、相手の側面に突っ込んで数を削ることを優先した。


〈百鬼夜行〉は獣人系がメインのギルド。

 熊人も当然のように囲っていたということだ。


 そして〈百鬼夜行〉の防衛を務めるリーダーは、〈百鬼夜行〉のギルドマスター。


「懲りずにまた来よったのよ。何度来ても同じだわ。今回も返り討ちにしてあげるのよ」


 狐人であり、ヨウカやハクのような高身長の女子。

 黒髪をポニーテールにして背中に流し、キツネ耳をピコピコ揺らし、腕を組んでいる。しかし、組んだ腕に乗るようなボリュームはほぼ無し。そこら辺はヨウカやハクにそっくりだ。


 本拠地の2階部分から見下ろす形で進軍してくる〈ミーティア〉を見る、上から目線で堂々と立つこの女子こそ、〈吸星のホシ〉。

【大罪】職の一角、【嫉妬】の大罪に就くSランクギルド〈百鬼夜行〉の現ギルドマスターだ。


 ギルドマスターのホシが声を張り上げる。


「ハクちゃんたちが来るまで防ぎきるのよ。相手は〈ミーティア〉、これまで2度勝った相手、今回も返り討ちにしてやるのよーー!」


「「「「おおー!!」」」」


〈百鬼夜行〉の士気は高い。

 犬人も猫人も兎人も狸人も熊人も、そして狐人もやる気満々だ。

 ここに集まる獣人たちは、実力主義。

〈百鬼夜行〉の加入条件は非常にシンプルだ。


 ―――強い者。

 これだけである。

 ギルドの枠が満杯ならばランク戦のように親ギルドのメンバーに挑み、勝てればメンバーが入れ替わる。負けた者は脱退し、勝った者たちのみで構成されているのが〈百鬼夜行〉である。

 もちろん、挑む側は指名出来ないためギルドが相手を決める。用意した相手を倒したのなら力を認める、という風習だ。


 すでにSランクとして50人の枠はいっぱい。さらに学園が認めた留学生の追加5枠も真っ先に埋まったというびっくりギルドである。


 なんでこうなってしまったのか。

 元々はタバサ先生と同じ職業ジョブである【メサイア】を持つ女子がギルドマスターを含み何人も居たのが始まりだ。加入方法もヒーラーである【メサイア】を守れる者を募集し、召喚した鬼を倒せた者を採用していた。〈百鬼夜行〉の名前の由来でもある。だが【メサイア】女子が卒業し、受け継いだのが同じく召喚能力を持つ狐人の女子になってから風習が少しずつ変化し、今では強い者たちの集まりどころになってしまっていた。


 狐人の魔法は派手だ。そして強い。

 物理最強は熊人なら、魔法最強は狐人。

 そんな風に言われているほど狐人の攻撃魔法というのは獣人に取って羨望の対象だった。故に最近は狐人ばかりがギルドマスターとサブマスターを務めている。


 その中でもホシは異例のタンクでギルドマスターに就いた強者だ。

 職業ジョブ名こそ【嫉妬】だが、ホシ自体は別に嫉妬なんてしていない。むしろギルドのメンバーが大好きだ。故に襲い来る襲撃者には全力を持って仲間を守り、そして襲撃者は全て排除する。Sランクギルドで、周りも強者だらけの環境でそんなことが言えるほどの実力者。

 それがホシだ。


「隣接マスを取って保護バリアを張るのよ! ――3、2、1、今よ!」


「「「おおおー!」」」


〈保護バリア〉戦法。

 本拠地の周囲のマスを取り保護バリアを張って相手の侵入を防ぐ素晴らしい戦法だ。

 これにより、赤本拠地の周囲8マスのうち、7マスが保護期間になる。

 ただし1箇所は必ず本拠地からスタートしなければならないため赤マスとなっており保護期間にできない。


〈ミーティア〉はまさにそこを狙ってやってくる。

 しかし、それは〈百鬼夜行〉も分かっている。隣接マスを取られれば本拠地への攻撃を可能にしてしまう。故に、この1マスで相手を防ぎきる。


「ホシーー! 今日こそは決着を付けるわよ!」


「何度来ても同じなのよアンジェーー!!」


 飛び込んで来た〈ミーティア〉の中央にいたのは、〈ミーティア〉のギルドマスター、〈流星のアンジェ〉。


〈流星のアンジェ〉、〈吸星のホシ〉。

 二つ名が微妙に似ているのは偶然なんかではない。

 ホシの二つ名は、これまでの2戦であの〈流星のアンジェ〉の攻撃を全て防ぎきったところからきている。つまり、因縁の相手なのだ。

 2人とも現在は〈戦闘課3年1組〉。クラスメイト。

 毎日のように顔を合わせているが、因縁の相手なのだ。


「『小隕石流星群』!」


「「「「「『プロミネンスバースト』!」」」」」


 まず仕掛けたのは〈ミーティア〉。

 お馴染みの一斉攻撃。

 あの〈エデン〉の城壁を唯一破壊した実績を持つ強力な攻撃だ。

 しかし。


「『吸魔封印盾』!」


 中空を飛び回る1冊の本が開く。これは〈羨望取消書〉。

【嫉妬】が持つ【大罪】職専用武器だ。

 それが空から襲ってくる流星群を全て飲み込む。

『プロミネンスバースト』は他の獣人たちが防ぎきるが、その内いくつかは〈羨望取消書〉に吸い込まれるように消えてしまった。


「封印!」


「まだまだよー! 五段階目ツリーを開放したことで手数は多いの! 『ソウルメテオブラスト』!」


「「「「「『バーンブラスト』!」」」」」


 封印されても手はあると言わんばかりにアンジェは攻撃を繰り出す。

【嫉妬】の封印は使用してきたスキルや魔法のクールタイムを延長したり使用不可にするというもの。今回の『吸魔封印盾』は防いだ魔法のクールタイムを3分延長し相手の攻撃を防御するというとんでもない防御魔法である。

 時間制限のあるギルドバトルでクールタイムを延長されてはたまらない。

 しかもである『吸魔封印盾』自体のクールタイムは短く、1分30秒でまた使えるようになるというのだから罪深い。


 そんなスキルがいくつもあった。

 相手は使っちゃダメ、自分は使い放題。さすがは【大罪】である。


 これを防ぐ手は無いと分かっているため、〈ミーティア〉は手数で勝負だ。

 上級魔法はこれまで四段階目ツリーのみしか使えなかった。一部五段階目ツリーを使える者もいたが、それでも1個か多くて2個くらい。

 上級の攻撃というのは数が少なく、切り札であり、クールタイムが長いという制限があった。


 しかし、LV30となり五段階目ツリーを開放したことで〈四ツリ〉と合わせて上級の攻撃手段が単純計算で倍に増え、切り札が倍に増え、クールタイムをさほど気にしなくても何度も撃てるようになった。

 以前の時のようにはいかない。


「『連なる破壊の流星』!」


 そう流星を走らせるアンジェ。

 アンジェにとって最強最高の一撃。

 今までの分析からホシがどんな魔法を使うのか分かっている。

 伊達にクラスメイトはしていない。

 だからこそ、度重なる攻撃でホシが防御スキルを使い切ったタイミングで大技を発動させた。


 これは入る。

 そう確信したアンジェ。しかしホシは、冷静にこう言った。


「甘いのよ。五段階目ツリーを開放しているのがあなただけとは思わないことなのよ――『封印解放。お返しします』!」


「んな!」


 それは【嫉妬】の五段階目ツリー。

 今までホシは全て四段階目ツリーを使い防御していた。

 だが、それはカモフラージュ。

〈百鬼夜行〉もすでに〈島ダン〉〈夜ダン〉〈岩ダン〉の攻略に入り、LV30を超える者を多く抱えていた。

 そしてギルドマスターがLV30になっていないはずがない。


『封印解放。お返しします』は文字通り、現在封印状態になっている攻撃をそっくりそのまま発動し一部を相手に返す魔法。

 さきほど『吸魔封印盾』で飲み込んだ攻撃、その一部が発動する。


「『小隕石流星群』に『プロミネンスバースト』、それに『バーンブラスト』まで!」


「今回は3つみたいね。なかなかの当たりなのよ!」


 本から吐き出される見覚えのある攻撃。

 それは『連なる破壊の流星』を破壊し、さらに一部が〈ミーティア〉まで届いた。

 幸い【結界師】系の職業ジョブ持ちが防ぎきったが。アンジェは警戒を強くする。


「ホシ! いつLV30になったの!? ちょっと前までLV15だったじゃない!」


「それはあなたもでしょう! でも教えてあげるのよ。テスト期間の直前くらいかしら。その後もずっと隠してたのよ。ごめんなさいね」


「ああああ! 私をたばかったわねー!!」


 煽るホシ。

 これは【嫉妬】の職業ジョブは関係、無い? おそらく関係無い。

 会話することで時間稼ぎに成功するホシ。

 目標は達したと判断する。


「アンジェ! 北から〈クマライダー・バワー〉が来ているのだわ!」


「奇襲来たわ!」


〈百鬼夜行〉の足止め。

 その間にダッシュで駆けつけたのは、ハクが率いる〈百鬼夜行〉の攻撃隊だった。


 しかし、〈ミーティア〉はこれも織り込み済みだった。


「みんな、ツーマンセルで固まって! やるわよ!」


 相手の奇襲作戦に、〈ミーティア〉はそんなことは分かっているとばかりに切り札を切る。


〈ミーティア〉の半数が装備している特殊な形の杖。

 ほうきの形をしたそれに何を思ったか跨がったのだ。


「『魔法飛行』!」


「「「「「『魔法飛行』!」」」」」


 瞬間、〈ミーティア〉が飛んだ。



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