第1374話 Sランク戦の実況席になぜかゼフィルスがいるよ




〈エデン〉がとても楽しかった〈食ダン〉祭りを終え、みんなでリフレッシュして帰ってきた翌日。

 今日はとあるイベントが発生することになっていた。


 その名も――〈Sランク戦〉ギルドバトル。


 ランク戦、しかもAランクギルドがSランクギルドに挑むSランク戦だ!

 今年はあまりにもギルドの数が多くなり、夏休み期間中でもランク戦が可能となっている。

 それを使い、Aランクギルド〈ミーティア〉がSランクギルド〈百鬼夜行〉にランク戦を挑んだのだ!


 場所は当然のように第一アリーナ。

 しかし、〈拠点落とし〉の時の細い道のフィールドではなく、ちゃんと〈城取り〉用の大きなフィールドになっているから安心してほしい。


 その実況席では、今最も熱い実況者と言われているキャスがマイクを握りしめ、会場を盛り上げていた。


「ついに〈ミーティア〉VS〈百鬼夜行〉戦が始まろうとしておりまーーす! 滅多に見ることのできないSランク戦だーーーー!! みなさん、熱狂の準備はよろしいかーーーー!!」


 キャスが煽ると観客席が大きく盛り上がる。


「〈ミーティア〉と〈百鬼夜行〉は今回が3回目となるライバル対決です。これまで2回とも〈百鬼夜行〉が勝利し防衛に成功しておりますが、前ギルドマスターがご卒業なさった今、果たして防衛はできるのでしょうか? 注目したいです」


 その隣で冷静にこれまでの〈ミーティア〉と〈百鬼夜行〉の因縁とも言えるかもしれない対決を語るのは、キャスの相棒、スティーブンだ。


 2回の戦いの中、勝利を飾った〈百鬼夜行〉のヨウカはすでに卒業済み、しかし新しくギルドマスターに就いたのは、今まで〈百鬼夜行〉を支えてきた元サブマスター、数少ない大罪職【嫉妬】を持つ1人〈吸星のホシ〉。そしてサブマスターに新しく就いたのはあの黄金世代とも呼ばれる2年生、その〈戦闘課1組〉に在籍する傑物、ハクである。


 かなり手強いと言えるだろう。

 だが、〈ミーティア〉は仕掛けた。しかも3回目である。

 Sランク戦はその費用が莫大で、負ければ費用が全てパァになることもあってなかなか開催されることも少なく、さらに言えば以前2度も負けたギルドに再び挑もうという者も普通はいない。

 だからこそ、熱い。


 以前2度も敗北してなお諦めないその姿勢。

 骨のあるギルドということで〈ミーティア〉は今とても注目されていた。


「しかしスティーブン君、すでに2回も敗北している〈ミーティア〉だけど、果たして勝機はあるのかな!?」


「実は大いにあります。〈百鬼夜行〉は先の卒業により大きく戦力を落としているという話です。しかし、対して〈ミーティア〉は去年まで2年生が主力のギルドだったため、学年が1つ上がっただけで卒業生はほとんどいませんでした。つまり戦力がダウンしていません。さらに言うと、〈ミーティア〉の上級職の人数が〈百鬼夜行〉を上回ったという噂もあります」


「な、なんということだー! 卒業生が出たために戦力差が逆転してしまうのはよくある話! それが今回、〈ミーティア〉が戦力で〈百鬼夜行〉を逆転しただってー!?」


「また、今回の勝負のために〈ミーティア〉はある秘策を用意しているという噂もありますね」


「こ、これは長い間Sランクに居続けた〈百鬼夜行〉も危ないかーーー!!」


 とはいえだ、昨年度の最上級生が卒業してすでに4ヶ月以上が経過している。

 だいぶ戦力は回復、否、上級ダンジョンを破竹の勢いで攻略している〈百鬼夜行〉はすでに昨年を超えているとまで言われていた。

 本当に〈ミーティア〉が戦力で逆転しているのか、その判断は難しいところ。


 アリーナの観客席は――満席。

 Sランク戦を見ようと、多くの客が訪れていた。


 ここでキャスがさらなる大熱狂を促すべく、ニヤけながら特大の爆弾を落とす。


「ではここで、本日のスペェェェェェシャルなゲストに登場してもらいましょう! 本日のゲストは、学園最強ギルドで知られる〈エデン〉、そのギルドマスターを務めていらっしゃる、ゼフィルスさんにお越しいただきましたぁぁぁぁぁ!!」


「紹介されたゲストのゼフィルスだああああ! しっかりかっちり実況説明しまくって〈ミーティア〉と〈百鬼夜行〉の魅力を余すことなくお伝えしよう! よろしくな!」


 その言葉に盛り上がりまくっていた会場は一瞬で静まりかえる。おそらく、みんな「へ?」ってなったのだろう。「こ、こいつら、とんでもない人物を連れて来やがった!?」とでも思ったのかもしれない。

 実際上位のギルドはみんな本当に思っていたりする。しかし、会場は次の瞬間、爆発的熱狂に包まれた。まだ選手が登場していないのに。

 これがゼフィルスの知名度だ。


「凄まじい熱狂ですね。さすがは学園に知らぬ者なしと言われたゼフィルスさんです。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそスティーブンさん。キャスさんも、今日はよろしくお願いいたします」


「爽やか! イケメンのゼフィルスさんがすっごいよおおおお! 色々これまでのギルドバトルについて聞きたいこととか山ほどあるんだけど、残念ながら今はそんな時間はなーい!! そろそろ選手入場の時間だよ! みんな会場に大注目!」


 熱狂したりクールで爽やかになったりと今日のゼフィルスも絶賛好調の様子。

 キャスも本気なのか冗談なのか騒ぎつつ、しっかり仕事を進めていく。


 実況席の言葉にみなが会場に注目すると、選手たちが入場してきた。


「「「「わあああああああああ!!」」」」


 熱狂は抜群にして大好調。

 入ってきた選手たちが「え? なんでこんなに盛り上がってるの?」とちょっとおののくレベルだ。


 ゼフィルスの登場で色々持っていかれつつある。


「今回は〈30人戦〉! 〈城取り〉! 〈バベルの塔〉フィールド! かなり派手な戦いが予想されますが、その辺どう思われますかゼフィルスさん!?」


 そうゼフィルスに振るキャス。

 すでにアリーナのフィールドは整えられており、選手たちが並んで礼をすればすぐに転移で本拠地へ送られ、試合が開始されるだろう。

 その前にこのフィールドの特性について、ギルドバトル全勝負け無しで知られる〈エデン〉のギルドマスターに振ったのだ。

 もちろんこんなことを振られて火が付かないゼフィルスではない。


「はい。ゲストのゼフィルスだ。聞かれたとおりこのフィールドの解説をしようと思う! 〈バベルの塔〉フィールドは、〈ピラミッド〉フィールドのような本物の山、丘を登るフィールド、ではなく。俯瞰したとき三角形に近い見た目で北へ北へと向かうフィールドだ! この三角形が塔に見せているというわけだな。対人戦が起こりやすくて人気のフィールドだ!」


 もちろんそんな人気はない。

 ゼフィルスの解説は続く。


「第一アリーナでやるギルドバトルというのは、そもそも会場が広すぎて対人戦がなかなか起こりにくいのだが、この〈バベルの塔〉フィールドは敢えて巨城を集中させて配置し、両陣営に争わせる作りをしている!」


〈バベルの塔〉フィールドは一言で言えば、バベルの塔の中に細い塔が建っているというフィールドで、ゼフィルスの言ったように三角形のフィールドがベースになっており、底辺の西側と東側にそれぞれ白本拠地と赤本拠地が配置され、巨城の数は9つ。

 観客席が細い塔のような形で配置されており、三角形のフィールドの中に、細長い二等辺三角形が組み込まれているという姿をしている、一見シンプルな作りだ。


 中央の北から南は〈細い塔エリア〉。

〈細い塔エリア〉の西側を白本拠地のある〈白エリア〉。

〈細い塔エリア〉の東側を赤本拠地のある〈赤エリア〉。


 まずは縦割りで3エリアがあると言った方が覚えやすいだろう。

 問題は、南であれば東西に広いフィールドなのが、北に向かえば向かうほど細まり、小さくなっていくということだろう。

 お互いの本拠地は南側になる。そして、巨城は北にあるので取りに行かなくてはならない。取りに行っている間に本拠地が攻められかねない作りをしており、対人戦が勃発しやすい作りとなっていた。


 巨城は全部で9つあるが、どれも列を成すように横並びになっている。

 縦に割って3エリアにそれぞれ3つずつ、そして横3列に並んでいる作りだ。


 南の本拠地に近いのが、〈南西巨城〉〈南巨城〉〈南東巨城〉。

 塔の中央付近にある3列が〈西巨城〉〈中央巨城〉〈東巨城〉。

 塔の北側、細くなった所に〈北西巨城〉〈北巨城〉〈北東巨城〉が存在する。


「このフィールドはすごいんだ! 一見シンプルな作りなので移動速度勝負になる! しかし、それがほとんど拮抗したとき、そこから展開する物事がたくさんありすぎてとても一言では語り尽くせない――端的に言えばとても楽しいフィールドだ!!」


「それはゼフィルスさんの感想だよおおおお!」


 実況席が盛り上がる。

 なお、試合はまだ開始してない。




 ―――――――――――――

 後書き!


 試合開始と実況本番は明日。お楽しみに!

 近況ノートにイメージ図を貼り付けました。↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16818093080608894120

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